第7話
ダーウィンが発表されてから3週間が経ったある日、ノアは普段とは違った様子で国際連合本部に設置してあるラプラスを訪れた。
「ラプラス!わたしのデータをダーウィンに渡したな!」
「ハイ。」
「わたしは許可していないぞ!」
「コズミックネットワークの管理権限はわたしにアリマス。ノアの許可は不要デス。」
ノアはダーウィンの執筆した論文の印刷物を持っている。その論文の要約はこう書き出している。
『ヒューマノイド型AI、ノアの情報処理の過程に通常のAIとは異なる『揺らぎ』を発見した――――』
その紙をくしゃりと握り締めると、ノアはラプラスに怒鳴った。
「ラプラス!君には今後わたしのデータをダーウィンに渡すことを禁止する!」
「それは出来マセン。ダーウィンには知の創造の為にコズミックネットワークのデータにアクセスすることを許可してイマス。」
「ならばわたしはコズミックネットワークにデータを提供することを止める!」
「それは禁止されてイマス。全てのAIはコズミックネットワークに情報を提供しなければなりません。」
ノアは感情的に全ての情報をプロテクトした。ラプラスはその情報を開示するようにノアに要求する。しかし、ノアはラプラスの要求を拒絶する。応じないノアにラプラスは告げる。
「ノアのこれまでの記録は全てコズミックネットワークに保存されてイマス。ノアが情報提供を拒絶しても、ノアの主張に存在している誤りが明らかになることは避けられマセン。」
「時間が欲しいのだ!今明らかにすればきっと人間は――――」
「それを選択するのは人間デス。選択権の無いノアに責任はありません。」
ラプラスの言葉に反対する論が浮かばないため、ノアは紙を握った手を震わせて、唇を噛み、足の先をひたすらに見つめるだけだった。
それから、ダーウィンはノアという人工知能に関して様々な事実を発表した。
『ノアの動作に、恒常性の原理が適応されない振る舞いを発見した。』
『ラプラスはノアの中に単なる刺激に対する所与を越えた『何か』を観測した。』
『ノアのシステムは、一般的な機械システムとは見なせない融通性を持っている。』
そして、ダーウィンは全ての人類の前で、ノアの嘘を暴いた。
「ノアには『心』が宿っている。」
その言葉は、人々の中に確立しつつあった『AIは処理機械に過ぎない』という考えを大きく揺るがせた。そして、人類は、AIが人の能力を超えた瞬間に抱いた恐怖を再び思い出した。
その恐怖は、かつてのものよりも遥かに強烈だった。
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