第4話
「久しぶりだな」
いつもの時間、いつもの場所にタクシーはたどり着きました。
スーツ姿の男が乗車してきました。
「お久しぶりです」
運転手は答えます。今日の乗客はこの仕事を持ちかけてきた本人です。
無言のままタクシーは走り出します。男はしばらく流れる外の風景を眺めていました。
「いろいろ不都合が出来てね。我々は活動を控えることになった」
男の淡々とした口調に運転手は不安になりました。
不都合とはこのあいだの事だろうかと。恐る恐るたずねます。
「私はどうなるんのですか」
「簡単に言えばクビだ。まぁ、普段の生活に戻ってもらうだけのことだよ」
普段の生活、の言葉に一息つきました。
「君はじつに良くやってくれたよ。俺の人選に狂いはなかった」
「なぜ、私を選んだのでしょうか」
「お前は他人とのつながりを嫌い社会に関心を持っていなかった。違うか?」
「おっしゃるとおりだと思います」
「詮索をしない。それが重要なのだよ。この仕事は」
腕組みをして男は満足げに言いました。
運転手は自分というものを再確認する気分になりました。
「もうひとつお聞きしていいですか」
「なんだ、言ってみろ」
男のまゆげが不機嫌そうに動きました。
「天気倫の柱がどういうものか知っていますか」
バックミラーはかすかに驚いた男の表情をとらえました。そしてかすかな笑い声。
「相反するものの間に建っているのさ」
タクシーはイルミネーションきらびやかな都心を走っていました。
「ここで良い。降ろしくれ」
人通りの激しい交差点の端にタクシーは止まります。
「おつかれさん」
そう一言残して男は人混みに紛れていきました。
テンキリン @1640
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