第3話
陽は落ちるのが早くなっています。
タクシーが現れたのはいつもの時間通りでしたがもう街灯がついていました。
そのともし火の下に女性が立っていました。
タクシーを近づけます。はっきりと客の姿を見たとき運転手は驚きました。
なぜ彼女がここに? ゆるやかに乗車する彼女には昔のことを懐かしむだけの面影がうかがえたのです。
おもわず帽子を深く被りなおします。
どうせ、彼女は私のことを覚えてはいないと思いながらも。
なにかの偶然に違いない。と自分に言い聞かせ、そうであることを信じてたずねます。
「どちらへ向かわれますか」
「天気倫の柱へお願いします」
小さな声でありましたがしっかりと運転手の耳に届きました。
「天気倫? 聞いたことないですね」
「え?」
彼女は緊張の切れた声をあげました。
「でも、あの場所の、タクシーに乗れ。と聞いて来たのですよ。違うのですか?」
困惑にみるみる顔が真っ赤になっていまにも泣き出しそうです。
「誰に何を聞いたか知りませんけど、お客さんの思っているものとは違いますよ」
「そんな。私は」
彼女はかがみこむと両手で顔をおさえてすすり泣きだしてしまいました。
「天気倫の柱」の言葉のあと、乗客はきまって穏やかでない話をします。
彼女の口からそんなものを聞きたくなかった。と運転手は苦肉の抵抗をしたのです。
静かな夜の商業区を行き先を失ったタクシーが通り過ぎていきました。
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