第2話

 夕暮れ時を走る一台のタクシーがあります。

 そろそろ時間だな。と運転手は時計を確認するとハンドルをきりました。

 人気のない商業区に着いたときには夕暮れになっていました。

 路面を踏みしめるように進んでいると手を振る人影が見えました。

 タクシーを止め、ドアを開ければ人影はいきおいよく飛び乗ってきました。

「出して、はやく車を出して」

 急かされた運転手はあわててアクセルを踏みます。タイヤが空回りする音が鳴りました。

 乗客は若い男でした。走り出した車内でしきりに後方の様子を伺っています。

 運転手が行き先をたずねようとすると青年の携帯電話が鳴りました。

 青年は電話にこそでましたが一言も発することなく電源を切ってしまいました。

 ようやくの機会と思い運転手はたずねます。

「行き先はどちらですか」

「どこでも良いと言ったらどこへ連れてってくれるのかい?」

 青年は運転席へ身を乗り出して尋ね返してきました。

「最寄りの警察署でしょうか」

「はっはっは、それは勘弁してほしい」

 今度はのけぞってシートに深く腰掛けます。

「運転手さん、いつも同じ時間にあそこを通るよね」

 なにか感づかれているのかと不安がよぎりバックミラー越しに青年をうかがいます。

「運転手さんに迷惑はかけないよ。ただの一乗客と思ってくれれば良い」

 青年は笑っていました。

 若い乗客は県境の橋の袂では降りました。

 釣り銭はいらないと一万円札を運転手に渡して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る