テンキリン

@1640

第1話

 日が傾いたころ、静かな商業区に一台のタクシーが入ってきました。

 車の往来がない通りをゆっくり進むと、女が道をさえぎるように立っていました

 その前でタクシーは止まり、後部のドアが開きます。

 女は胸に手を当てて一呼吸してから意を決した表情でタクシーに乗り込みました。

 車内で女は落ち着きなく目を泳がせています。

「行き先はどちらですか」

 運転手にたずねられて小さく身震いしました。そして、

「あ、あの、天気倫の、柱まで、お願いします」

 言葉を選ぶようにとぎれとぎれ答えました。

「用件をうかがいましょう」

 ドアが閉まりタクシーは走り出しました。

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