告白
空間なぎ
第1話
放課後の教室という空間は、それだけで特別感に浸ることができる。特に、仲の良い友達数人と放課後の教室で語り合うことほど、最高な青春はない。
「なぁ、あいつ、まだ出ていかないぜ」
「早くどっか行けよな。邪魔なんだよなぁ」
そんな俺らの声には耳を貸さず、黙々と読書に励むクラスメイトが一人。彼女こそ、学年トップの成績を誇り、全国模試上位と噂される秀才、浦和彩香である。
いつもなら、この時間に俺含む仲良し三人組で、放課後の教室で雑談したりゲームしたりしているのだが、今日は違った。浦和が、なぜか教室で読書しているからだ。さっきからコソコソと「出ていかないかなぁ」という旨を話していても、彼女は眉一つ動かさず、優雅な手つきでページをめくっている。
「坂口、俺ら、飲み物買ってくるわ。お前はここで荷物見ててくれよ」
「ずる、俺も連れてけよ。それか秋元も残ればいいだろ!」
「すまん坂口、俺は職員室に用があるからさ。待っててくれよ、すぐ戻るから」
こうして、なぜか浦和と教室で二人きりになった。気まずいというか、ここから逃げたい。でも、橘と秋元の荷物を見張ってないといけないし、二人が帰ってきたら、どうせこの教室でゲームをするのだ。逃げ場がない。
「ねぇ、坂口くん」
「……なんすか」
話しかけられたので、反射的に反応する。一年、二年とクラスが同じだったのに、その声は初めて聞いた。こんな声をしていたのか。彼女は、手に持っていた本を机に置き、俺と向かい合った。
「坂口くん、こんな経験をしたことはない?」
浦和は、真剣なまなざしで俺を見つめてくる。
「よく授業中に眠くなると、誰かから背中を叩かれるの。左手で叩かれた感じかな。それで、周りの席の人が休みだと、叩かれることが多いの。どう? こんな経験はあるでしょう?」
「それは……」
その経験は、何度もある。だが、一度も人に話したことはない。なぜ、浦和が知っているんだろうか。霊が見えるタイプか、それともでっち上げの作り話か。いずれにせよ、めんどくさいことに巻き込まれた気しかしない。橘と秋元は、まだ帰ってこないのか。
「浦和、お前は何を知っているんだ?」
「全部。坂口くんのこと全部よ」
なんとか口に出した言葉は、狂人を相手にしたような物言いになってしまった。それに対する浦和の返答は、「全部」という強カード。わけがわからない。
「私ね、坂口くんの背中を叩いていたの。だって、坂口くんは数学と化学が苦手だから、授業だと寝ちゃうでしょう? 先生がチェックしているから、起こしてあげないと」
「は……?」
「私、坂口くんのことが好きなの。だからね、少しでも役に立てるように、こっそりいろいろやってたんだよ。気づいた? 席替えのときとか、実習のときとか……」
そんなこと、気づくわけがない。今、初めて存在を認知したクラスメイトから、「好きです」と告白されても、まったくうれしくない。うれしくない自分に驚いて、逆にうれしいくらいだ。人間って、好きな人に告白されないと、喜べないんだな……。
肝心の浦和は、少し頬を赤らめながら、俺をずっと見ている。そして、
「好きです。付き合ってください」
と、俺が返答に困る告白をしてきた。断るにも断りにくい、この状況。俺のために尽くしてきたみたいな話をしていたから、振っても追いかけてきそうな気がする。
「坂口……!」
「お前……!」
「げっ! 橘! 秋元!」
タイミング悪く、ちょうど帰ってくる橘と秋元。二人の顔には、「学年トップの秀才に告白されるなんて、断るはずないよな」という一文が書かれている。違うんだ、「好きです」の告白の前に、もっといろんな告白があったんだ。「告白」という文字を見ただけで、少しときめいていた自分を、今までで一番恥じた。
告白 空間なぎ @nagi_139
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