アラクネウィルス
Meg
アラクネウィルス
傲慢なアラクネは神の怒りをかい罰として殺されました。そして蜘蛛にされました。
とある星の話である。
その星は地表全体が赤みがかった砂漠に覆われていた。動物はむろん、植物らしきものもまったくなかった。
星の片隅では、一台のロケットが砂の地面に刺さっていた。ロケットの近くでは、たくさんの動く何かがうようよと跋扈していた。
ギラつく日差しの下、その星の赤い砂漠の岩陰では、宇宙服を着たAが膝をついて、岩にもたれかかってぜいぜいと息をするBに話しかけていた。彼はひどい熱におかされていた。
「もう大丈夫だ。母星に、地球に救援を頼んだからな。まったくとんだアクシデントだ。せっかく任務を終えて地球に帰る途中だったのに、ロケットの不具合のせいでこんな星に不時着しちまって。あとで責任者を訴えてやる」
Aは自分に言い聞かせるようにそう言った。Aの体は小刻みに震えていて、口角が引きつり目は焦点が定まっていなかった。
Bは口をぱくぱくして何か言いたげだった。
「もうすぐだからな。もう奴らから逃げまわらくてもよくなるんだ。あんな化け物でないちゃんとした人間が毎日拝めるようになるんだ」
苦しげに息をするBが、突然はっとして岩の上を見た。AもBの視線の先を見た。
岩の上には仰向けに横たわった人間が、だらんと頭頂を下に向け、白く濁った目でこちらを見ていた。いいや、青白い肌のそいつは人間に似た別の生き物だった。なにせそいつの下半身からは、人間と違って太い足が6本も余計にはえていたのだ。
わあっと叫び、AはBを腕を自らの肩にかけ一目散に逃げた。
かれらの周囲には、8本足の奇怪な人間に似た生き物がウヨウヨとしていた。
Bが息もたえだえに口を動かし何かを言おうとしていた。
「に……ろ。みと……ろ。ここは……。かれらは……」
「もうすぐだからな。もうすぐ助かるから。もうすぐ。もうすぐ。もうすぐ。もうすぐ」
地面が急に斜面になり、Aがドタっと転んだ。
斜面の下には、荒れ果てたビルの街が広がっていた。そこはAが任務中に夢にまで見た彼の故郷の街であった。廃墟の街には例の8本足の化け物がうようよとしていた。
Aはうずくまって顔を覆い、あれほど焦がれていたはずの街を見ないようにした。そして小さな声で繰り返した。
「もうすぐ助かるぞ。地球へ帰れるんだ。もうすぐ。もうすぐ」
その声はだんだん弱々しくなっていった。Aもまた高熱におかされはじめていた。
Aの横に倒れているBは、もう意識を失っていた。そして青白くなった彼の下半身から、ニュルニュルと6本の足が、服をつきやぶり生えてきた。
同じ頃、遠くの方ではびゅうっとふいた風が地表の砂をふきとばした。砂の中には、文字がびっしり書かれた紙切れが埋もれていた。新聞の切れ端のようだった。ところどころは汚れて読めないが、こんな言葉が並んでいた。
環境汚染、ウィルス、新型、感染、高熱、足、都市、全滅
アラクネウィルス Meg @MegMiki34
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