世界で一番おいしい料理

あたまかたい

料理は愛情

あるところに、兄弟がいた。

仲の良い男の三兄弟。


三人は、食べることがとても好き。

成長するにつれて、世界にはまだまだおいしいものがある、ということを知る。


世界三大なんとか、なんてのがあると思うが、三大料理というのは決まっていないらしい。

ただ、日本では昔から「和洋中」という言葉がある。

和、つまり和食。洋、つまり洋食。中、つまり中華である。


ちなみに、この洋食というのがちょっと曲者。

和食と中華はなんとなくわかる。

ただ、洋食ってなんだ?ってなる。


洋とはつまり西洋である。

洋食とはつまり西洋風の食事。

とかなんとか、調べてもよくわからない。


和洋中ってなんだ?

つまり和風洋風中華風ってこと?

なんだかわからなくなってくる。


そこで、三兄弟はそれぞれ好きな世界の料理を修行しよう、ということにした。

長男は和食、次男はフレンチ、三男は中華の修行に出ることに決めた。

そして、10年したらまた集まろう、と約束をする。



それぞれ家を出て、修行の旅に出た。

つらい修行の日々。

そして10年が経過した。


ようやくそれぞれが一人前と認められた。

三人は連絡を取り合い、集まる日を決めた。

約束の日がついにきたのだ。


修行の成果を見せに、三人が集まる。


「久しぶりだなお前たち。」

「あぁ兄ちゃんこそ。」

「二人共、久しぶりだな。」


三人共、10年でそれぞれの道を極める料理人となった。


三人の目的を今果たそう。


「母ちゃんただいま!」

三人の元気な声が家に響き渡る。


「おかえり!まあ三人共ずいぶん立派になって。」


見た目の話か、それとも三人の活躍の話か。

わからない。どっちもかもしれない。

10年前と比べて、三人共見た目にも大人になっているし、

三人共立派な料理人になっていた。


「それじゃあさっそくだけど、俺から料理を作るよ。」

久々の我が家。

しかし、着いた早々に準備を始めると、長男は和食を振る舞った。


まずいちばん最初に出てきたのは、ふぐ料理だった。


ふぐの刺し身、てっさ。

ふぐの鍋、てっちり。

一人分だけ完成させると、母の前に料理を置いた。


「さぁ食べてくれ。」

「えっ。」

戸惑う母。

無理もない。母の分だけでなく、みんなの分を作って、

みんなで一緒に食べると思っていたからだ。


「みんなで食べるんじゃないのかい?」

「あぁ、母ちゃんにおいしい料理を食べてもらいたくて修行したんだ俺達。」

「そうなのかい。でもせっかくだし、みんなで食べたほうが…。」

「まぁまぁ、これは母ちゃんのために作ったんだから、食べてよ。」

「うーん、良くわからないけど、わかったよ。」


早速長男の料理を食べる母。


「おいしいねえ。さすが修行しただけのことはあるねえ。これが一流の味ってやつなんだねえ。」


母は大変喜んでくれた。

修行の甲斐があったというもの。


「次は俺だ!」

長男の料理を母が食べている、その間に用意していた次男。

次男はフレンチのシェフだ。

フレンチの料理をそっとお出しする。


魚のソテーをテーブルに置いた。


「これもおいしそうだね。」

うれしそうな母。


高級フレンチさながら。

ワインを一本開けると、グラスにそそいで母のためにお出しする。


「でも、これもみんなで食べないのかい?」

またこれも一人分だけ。

「ごめんね、母ちゃんに食べてほしくて。」

「なんだかわからないけど、良いよ。」

母はソテーを一口パクリ。

「これもおいしいねえ。」

とてもよろこんでくれた。

ソテーはワインに非常にあう。

母はワインも一口いただいた。


「よし、じゃあ最後に俺だ!」

三男は中華の料理人。

母が次男の料理を食べている間に、ラーメンを一人前作っていた。


「お前ラーメンが好きだったもんねえ。」

なにを作ろうか、非常に迷った。

でも、やっぱり自分が好きなものを食べさせたい。

そう思ってラーメンを作った。


一説によると、ラーメンは和食だ、という。

でもまあ、そんなことはどうでも良かった。

10年の修行で、麻婆でも回鍋肉でも、なんでも作れるようになった。

ただ、今日食べて欲しいのは、ラーメンだった。

それだけの話。


「ありがとう、いただくよ。」

ラーメンをひとすすり。

「うん。おいしいよ。」


母が三人の料理を一通り口をつけたところで、長男が問いかける。


「母ちゃん、どれが一番おいしかった?」

「なんだ、やっぱりそんなことか。競ってたんだね。」

ちょっと考える母。


「うーん。決められないねぇ。どれもおいしかったよ。」


微妙な雰囲気になる。

どれが一番おいしいとか、兄弟はそういうことを言って欲しかった。

そんな空気を察してか、母は言葉を続ける。


「今日はおいしいものを食べさせてくれて、ありがとうね。それに三人の元気な顔が見れて、こっちはそれだけでうれしいんだよ。」


「母ちゃん。」

なんだか目頭が熱くなる。

三人の男が泣き始めた。

つられて母もちょっと泣いた。


「ほら、こんなにいっぱい作ってもらったのは良いけど、私一人じゃ食べきれないよ。」

テーブルに並んだ料理。たしかに母一人では食いきれないかもしれない。


「じゃあみんなで食べるとするか!」

三人はそれぞれの料理を食べあった。

大の大人。それも男が三人もいる。とても足りる量ではない。

あっという間になくなった。


「こんなんじゃ足りないな。」

「もっと食べたくなっちゃったよ。」

口々に腹減ったと言い出す。

「10年間修行して思ったけどさ、やっぱり母ちゃんの料理が一番だよな。」

「うん。やっぱり母ちゃんの料理が食いたい。」

「俺も実はそれが楽しみだったんだ。」


「母ちゃんなんか作って!」

三人の元気な声。

「まったくしょうがない子たちだね。」


母は三人のためにチャーハンを作った。

「ほらできたよ。」

「おお!じゃさっそくいただきます!」


三人は一心不乱に食べる。

「うまい!」

「やっぱり母ちゃんの料理が最高だ!」

口々に叫ぶ兄弟。


どんなうまい料理でもない。

やっぱり一番おいしいのは、母の手料理だった。


というお話。


おしまい。

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世界で一番おいしい料理 あたまかたい @gorira2020

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