第4話『人間不平等起源論 後編』
(セピア色の背景に、合成人間と人間との争いが映し出される)
合成人間との争いは、ずっと続いている。
親を失う子供は、珍しくなかった。特に俺たちの世代は。
俺はどこにでも転がっている、普通の子供だった。
孤児院にはいろんな子供がいた。
中に、合成人間を恨むやつがいた。
親を奪った。
家を奪った。
大事なものを台無しにした。
だから、許せない。
そういった連中は―んだ。
-にたくて戦場に出て、皆-んでいった。
そんな連中を、褒めている大人が不気味だった。
俺は、彼らのようにはなりたくなかった。
俺は、ただ――
〇未来
IDAスクール 作戦室
イスカ、ヒスメナ、アルド、セバスちゃんが並んでいる。
イスカ「……準備は済んだようだね」
イスカ、三人へ振り向く。
イスカ「さて、我々がこれからすることは」
イスカ「電子ドラッグの供給元の壊滅だ」
イスカ「あれは危険な上、販売先を広げ過ぎている」
イスカ「捨ておくわけにはいかない」
ヒスメナ、頷く。
ヒスメナ「わたしはなにをすればいい?」
イスカ「ヒスメナの目標は詐欺師を捕らえることだ」
ヒスメナ「……わかったわ」
イスカ「現在は工業都市廃墟の奥に潜んでいるようだ」
イスカ「頼むぞ」
イスカ、腰に手を当てる。
イスカ「機器については、セバスちゃん、頼めるかな」
セバスちゃん「いいよ。あ、エイミにも頼んでおいた」
イスカ「ありがとう。それと、アルド」
アルド、頷く。
イスカ「……頼んだよ」
アルド「ああ、任せておいてくれ」
イスカ「……うん」
イスカ、頷いて続ける。
イスカ「それでは始めよう。慎重にね」
アルド、ヒスメナ、セバスちゃん、頷く。
〇工業都市廃墟 エリアA
ヒスメナが進む後に、アルドがついていく。
(セピア背景。アルドがイスカから聞いた話を振り返る)
イスカ「ヒスメナは、直情傾向なところが魅力でもあるが」
イスカ「悩むこともあるだろう」
アルド「……あのカルテ、何が書いてあったんだ?」
イスカ、首を横に振る。
イスカ「なに、簡単な話さ」
イスカ「いまの医療でも、治せない病気はある」
イスカ「ただ、それだけのことだ」
イスカ「どこにでも転がっている話だろう?」
アルド「誰のものなのかは、聞いたらダメか?」
イスカ「アルド、それを聞くということは、わかっているのだろう?」
イスカ「すべてを持って生まれてくる人間もいれば」
イスカ「逆もしかりだ」
イスカ「しかし……」
(回想終了)
ヒスメナ、立ち止まる。
ヒスメナ「……騒がしいわね」
アルド「え?」
ヒスメナ、槍を構える。
ヒスメナ「来るわよ」
合成兵士が奥側からやってくる。
合成兵士「ギギャギャ、ヒ、キヒヒ」
(戦闘:合成兵士 X3 敵全体初期ステータス混乱)
合成兵士が倒れている。
ヒスメナ、アルド、武器をしまう。
ヒスメナ「彼らの方が、被害が大きいかもしれないわね」
アルド「こいつら、どうして電子ドラッグなんて使うんだろう」
ヒスメナ「……」
アルド、戸惑う仕草。
アルド「いや、ちょっと思っただけだよ。先を急ごう」
ヒスメナ「逃げ道なのかも」
アルド「え?」
ヒスメナ「……いいえ。ただの、感傷だわ」
ヒスメナ、歩き出す。
ヒスメナ「急ぎましょう。街で被害が出る前に」
〇幕間——工業都市廃墟 炉内 進入時——
(セピア色の背景に、エルジオンの風景が映し出される)
エンジニアの仕事は、食いっぱぐれることがなかった。
開発側なら、戦場に送られることもない。
KMS社に勤めることもできた。
社内で競争をすることもなく。
常にほどほどの位置で生き続けてきた。
熱意のある人間。
夢を見る人間。
演劇の主役のような者たちを、離れて眺めていた。
穏やかに生きていきたい。
あの戦火の中に戻りたくない。
腹を減らしていたくない。
—にたくない。
会社で受けた表彰は、無遅刻無欠勤の時だけ。
そのときも、失敗したと思った。
ああ、人並みに休んでおくべきだった。
そうすれば、もっと穏やかに生きていられたのに。
〇工業都市廃墟 炉内
ヒスメナ、アルドが奥へと走っていく。
二人が立ち止まる。
前方で、合成人間たちが暴れている。
アルド、ヒスメナ、武器を構える。
ヒスメナ「突っ切るわよ!」
アルド「ああ!」
(戦闘:合成兵士 X3 敵全体初期ステータス混乱)
・戦闘後、IDEA作戦室へ視点移動。
イスカ、その場に立ち報告を受けている。
IDEA1「会長、シータ地区でアンドロイドの暴走を確認!」
IDEA2「スクールのアンドロイドもです!」
IDEA3「暴走した合成人間が廃道かへ出てきています!」
イスカ、目をつむる。
イスカ「……人的被害は?」
IDEA4「病院へ救急搬送の依頼が三件、いえ、いま四件に!」
イスカ「……」
IDEA1「会長、ヒスメナさんたちから報告!」
イスカ、目を開く。
イスカ「セバスちゃんに繋げ!」
〇幕間——工業都市廃墟 エリアB 進入時——
(セピア色の背景に、合成人間のエリアが映し出される)
難病にかかった。
冗談のように呆気なく、穏やかな人生がなくなった。
手術を行った――失敗。
病院を変えた。
いくつも調べ、ここはという病院にたどり着いた。
手術の成功尾率は、それでも五分五分らしい。
手術を行った――失敗。
投薬と手術で、体が弱っているらしい。
次の手術の成功率は、一割だと言われた。
そして、それを受けるには、金も必要だった。
効果的だと言われた医療は、何でも試した。
働いて溜まっていた金は、瞬く間に消えていった。
医者に言われた。ターミナルケアを受けてはどうかと。
それは、-ぬ準備をしろということだ。
あれこれと試した結果、身体がボロボロになっているらしい。
身体を交換でもしないと、もたないと。
身体を。
そうだ『脳と脊髄を残して』交換できたら。
そのためには。
金と、技術力が必要だ。
金を集めよう。
死ぬほどの金を。
人間を生みだすほどの金を。
それでも。
KMS社の技術はトップシークレットだ。資金があっても動かない。
でも、合成人間の、あの技術なら。
それは、とても馬鹿げた考えだが。
―にたくない。
〇工業都市廃墟 エリアB
ヒスメナ、アルド、奥へと走る。
通路の先で、何体もの合成兵士たちが悶えており、その奥に詐欺師がいる。
ヒスメナ「探したわよ、もう、逃がさない」
ヒスメナ、詐欺師へ武器を構える。
詐欺師「ひ、ひぃ。堪忍したって!」
ヒスメナ「いいえ、ついてきてもらうわ」
ヒスメナ、詐欺師へ近づく。
詐欺師、後じさりする。
詐欺師「……こ、これを見い!」
詐欺師、背後の端末を操作する。
詐欺師「チップはこっちでも操作できるんや。致死量の電流やって流せる!」
詐欺師「に、人間用のもやぞ!」
ヒスメナ、足を止める。
詐欺師「そ、そうや。うちの身柄なんぞより、治安や人命のほうが大事やろ」
ヒスメナ、デバイスを取り出す。
デバイスから各人の声。
イスカ「ジャミングは成功した。おおむね無効化できているよ」
セバスちゃん「あったり前でしょ。あたしが協力したんだから!」
エイミ「事情がよくわからないんだけど、合成人間はわたしたちで追い返したわよ」
ヒスメナ、詐欺師に近づく。
ヒスメナ「チェックよ」
詐欺師「ち、ちゃう、ちゃうがな!」
詐欺師、端末を操作する。
周囲の悶えていた合成兵士が襲い掛かってくる。
ヒスメナ「前後不覚の相手を前に、逃がしたりはしないわよ」
ヒスメナ「アルド、頼むわ」
アルド「ああ!」
ヒスメナ、アルド、武器を構える。
(戦闘:合成兵士 X4 敵全体初期ステータス混乱)
合成兵士たちが倒れており、詐欺師が尻もちをついている。
詐欺師「な、なんでだ、なんで、こんな……」
詐欺師「うちは、俺は、ただ」
ヒスメナ「……あなたのこと、許しはしないけど」
ヒスメナ「事情は考慮しないでもないわ。IDAの病院でもう一度……」
倒れていた合成兵士が起き上がり、暴れだす。
詐欺師「ごふっ……」
合成兵士の腕が詐欺師の腹を貫く。
ヒスメナ、合成兵士を攻撃する。
合成兵士が倒れ、詐欺師も倒れる。
詐欺師「なん、で……金、集め、ここまで……」
ヒスメナ「っ、アルド、わたしたちで!」
詐欺師「死にたく、ねえ……」
ヒスメナ、アルド、詐欺師へ駆け寄る。
アルド「ああ!」
ヒスメナ、アルド、二人してかがみ、詐欺師へ応急処置を行う。
アルド「ヒスメナ、あの……」
ヒスメナ「手を動かして。血が止まらないわ。無理やりでも……」
アルド「いや……」
ヒスメナ「個人的な感情と、人の命は別よ」
ヒスメナ「それに、生きて貰わないと、情報が聞けない」
アルド「ヒスメナ……!」
アルド、立ち上がる。
ヒスメナ「アルド、お願い」
アルド「いや」
アルド、首を横に振る。
アルド「もう、亡くなっているよ、この人は」
・自動移動 IDEA作戦室
イスカ、アルドが向き合っている。
イスカ「そうか。辛い役目を押し付けてしまったね」
アルド「ああ……ヒスメナ、落ち込んでいたようだった」
イスカ「いや、私はアルドに言ったのだよ」
アルド「え?」
イスカ、少し考える仕草。
イスカ「人間は不平等だ」
イスカ「ゆえに、力を持つ者には責任が伴う」
イスカ「踏みつけたものたちの不平不満の上に立っているからだ」
アルド「それは、違わないか?」
イスカ、頷く。
イスカ「うん、ただの理屈さ」
イスカ「アルドはいいな、正直で」
アルド「……まあ、イスカが良いなら、それでいいよ」
アルド、作戦室から出ようとする。
イスカ「ヒスメナに伝えてくれるかい?」
アルド「ああ、なんだ?」
イスカ「私はヒスメナを待っている、と」
アルド、頷いて作戦室から出ていく。
イスカを中心に視界がアップになる。
イスカ「己が人の命を絶ち、その
イスカ、しばし考えるポーズ。
IDEA1「会長、新たに販売ルートが判明しました」
イスカ「よし。その調子で続けてくれ。このチップに関しては、すべて検挙する」
・自動移動 スカイテラス
ヒスメナ、アルドが並んでいる。
ヒスメナ「そう、イスカが……」
ヒスメナ「アルドにも、ごめんなさい。情けないところを見せたわ」
アルド、首を横に振る。
アルド「いいさ。仲間だろ」
ヒスメナ「もう……」
ヒスメナ、目を閉じて下を向く。
ヒスメナ「わたし、自分がもっと強くて、上手くやれると思っていた」
ヒスメナ「でも、違った」
ヒスメナ「あんなことで動揺して、あんな結果で、ダメね……」
アルド、腕を組む。
アルド「そんなことないんじゃないか?」
アルド「悲しむのは、ヒスメナの優しさだよ」
アルド「オレの時代でも、たくさん人が死んだけど、やっぱり悲しかった」
アルド「その気持ちがヒスメナにあって、よかったと思うよ」
アルド「オレ、王様が兵の死を悼んでいるのを見て、嬉しかったから」
ヒスメナ、目を開く。
ヒスメナ「アルド……」
ヒスメナ、首を横に振る。
ヒスメナ「ありがとう。少し、気が晴れたわ」
アルド「それなら、よかったよ」
ヒスメナ「わたし、決めたわ」
ヒスメナ、空を見上げる。
視界が空へと移る。
ヒスメナ「わたしね、これから……」
ヒスメナ「次にキャラを作るときは、ヒーラーにする」
アルド「ああ……そうだな」
視界がスカイテラスへ戻る。
アルド、腕を組んで首をかしげる。
アルド「ん?」
アルド「いや、全然いい話じゃないぞ!」
ヒスメナ、腰に手を当てる。
ヒスメナ「アルドもしんみりした感じで『ああ……』とか言ったじゃない」
アルド「良いことを言ったような気がしたんだけど、考えたら違ったんだ」
ヒスメナ「大丈夫、ついでに救急医療ももっと学ぶわ」
アルド「それを先に言ってくれよ」
ヒスメナ「ふふ、冗談よ」
ヒスメナ、微笑む仕草。
ヒスメナ「でも、本当……」
ヒスメナ「命を、もっと助けられたらいいのに」
再び、空へ視界が移る。
(表示:Quest Complete)
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