第3話『人間不平等起源論 前編』

〇未来

 曙光都市エルジオン シータ地区 セバスちゃん宅

 ヒスメナ、アルド、セバスちゃんが並んでいる。


ヒスメナ「アルド、わたしがこの世で許せないものが二つあるわ」

ヒスメナ「一つは90度以下で淹れた紅茶」


 ヒスメナ、首を横に振る。


ヒスメナ「もう一つは単発ガチャで最高レアを出す人よ」

アルド「いや、オレには何が何だかわからないんだが」

ヒスメナ「アルドはいいわね。無心で、無欲で……うらやましいわ」

アルド「どうしたんだ、ヒスメナは」


 セバスちゃん、腰に手を当てる。


セバスちゃん「まあまあ、ソシャゲではよくあることだよ」

セバスちゃん「こればっかりはリアルの運とお金に左右されちゃうからね」

アルド「へえ。でも、無料で遊べるんだろ? どうしてお金をかけるんだ?」


ヒスメナ、アルドに近づく。


ヒスメナ「アルド、たとえばフィーネが料理を作ったとするわ」

アルド「え、ああ」

ヒスメナ「『今日は奮発したんだよ』というフィーネに、アルドはこう言うの」

ヒスメナ「『栄養が取れればいいのに、どうしてお金をかける必要があるんだ?』」

アルド「いや……言わないよ」


 ヒスメナ、腰に手を当てる。


ヒスメナ「そうでしょう?」

ヒスメナ「課金も食事と同じよ」

ヒスメナ「食事は食べたら終わり、ゲームはサービス終了したら終わり」

ヒスメナ「いえ、むしろ課金のほうが有用なのではないかしら」


 アルド、驚く仕草。


アルド「ええ……」


 セバスちゃん、首を横に振る。


セバスちゃん「で、アルド、わかった?」

アルド「え?」

セバスちゃん「だから、アカウントが売られる理由」


 セバスちゃん、腰に手を当てる。


セバスちゃん「人気のゲームだと、結構な金額になっちゃうんだよね」

アルド「まあ……熱くなってしまう人がいるのはわかった」

セバスちゃん「どうも組織立ってやってるっぽくてさ」


 ヒスメナ、部屋の隅にある物へ近づく。


ヒスメナ「セバスちゃん、これは?」


 セバスちゃん、考えるポーズ。


セバスちゃん「ああ、そっちも最近増えてて」


 合成人間のサンプルが視界に映る。


セバスちゃん「脱法チップとかが出回ってるみたいでね」

セバスちゃん「アンドロイドとか合成人間とかの事件がちょいちょい、ね」


 アルド、腕を組む。


アルド「脱法……?」

セバスちゃん「うーん、正常思考ができなくなるというか」

セバスちゃん「機械用の、すごーく度数が強くて悪酔いするお酒みたいなものかな」

アルド「それって、作る意味があるのか?」

セバスちゃん「さあね。ま、人間用の電子ドラッグの亜種みたいだし」

アルド「???」


 ヒスメナ、考える仕草。


ヒスメナ「それって……」


 (街から衝突音)


 アルド、ヒスメナ、戦闘準備の態勢。


アルド「なんだ!?」

ヒスメナ「行ってみましょう!」


・自動移動 曙光都市エルジオン シータ地区

 アンドロイドが破損しており、人が集まっている。


アルド「なにがあったんですか」

男「なんだか、急に様子がおかしくなって建物にぶつかっっていったとか」


 セバスちゃん、人ごみの中を進んでいく。

 破損しているアンドロイドを屈んで調べる。


セバスちゃん「……やっぱり」


 アルド、ヒスメナが追いついてくる。


ヒスメナ「もしかして、例の?」

セバスちゃん「思ったより、事態は切迫していたね」


 セバスちゃん、腰に手を当てる。


セバスちゃん「手伝ってくれるかな、二人とも」


 アルド、ヒスメナ、頷く。


(表示:Quest Accepted)


〇IDAスクール 作戦室

 イスカ、セバスちゃん、ヒスメナ、アルドが並んでいる。


イスカ「その件は私も把握している」


 イスカ、あごに手を当て考える仕草。


イスカ「……少し慎重に動きすぎたかもしれないな」

イスカ「ヒスメナ、一番槍、任せてよいか」


 ヒスメナ、頷く。


ヒスメナ「もちろん、わたしはいつでも行けるわ」

イスカ「よし。以前会ったという詐欺師の男、覚えているか?」

ヒスメナ「ええ……あの変な口調の男ね」

イスカ「彼に接触して欲しい。場所は探りがついている」

イスカ「アルド、すまないがヒスメナに同行してくれるだろうか」


 アルド、頷く。


アルド「当たり前だろ。協力するよ」

イスカ「ありがとう。セバスちゃん、少し時間をもらってもよいかな」

セバスちゃん「そのためにここまで来たんだから、当然でしょ」


 イスカ、頷いて、近くのIDEAメンバーと話す仕草。


イスカ「……よし。ヒスメナ、アルド、廃道へ向かってくれ」

イスカ「詳しい位置は後程送る」

ヒスメナ「了解!」

アルド「わかった!」


 ヒスメナ、腰に手を当てて意気込む仕草。


〇廃道ルート99

 奥のエリアで歩いている詐欺師を見つける。


アルド「いた、あいつだ」


 アルド、ヒスメナ、走って近づく。


ヒスメナ「お久しぶり。覚えているかしら」

詐欺師「な、なんや。いつぞやのじゃりン子やないか!」

ヒスメナ「あなたに話を聞きたいのよ。同行して貰えるかしら」


 ヒスメナ、槍を構える。


詐欺師「そ、そない暴力に訴えてええんかい。警官でもないっちゅうに」

ヒスメナ「課金代行の件、チートの件、IDEAでも問題にさせてもらっているわ」

ヒスメナ「IDEAの一番槍として、是が非でも連れて行くわよ」


 アルド、腕を組む。


アルド(どっちもイスカはあまり興味持っていなかったけど)


 詐欺師の男、後じさりする。


詐欺師「ま、まちぃな。そんなん、うちがやれって強要したわけでもない」

詐欺師「武器を買った人間の犯罪を、武器屋になすりつけるようなもんやで」


 ヒスメナ、一歩進む。


ヒスメナ「わたしは『連れていく』と言ったのよ?」

ヒスメナ「議論でもないし、お願いでもないわ」

詐欺師「そんな怒ることやないやないか。たかがゲームの話やで」


 アルド、まずいという仕草。


アルド「あ」


 ヒスメナ、目を閉じて下を向く。


ヒスメナ「わたしがこの世で許せないものが二つあるわ」

ヒスメナ「一つは、装備を小数点以下の確率で盗めると嘘を書く攻略本」

ヒスメナ「もう一つは『たかがゲーム』という言葉よ」

アルド(さっきと言ってること、違う!)


 ヒスメナ、腰に手を当てる。


ヒスメナ「もはや会話は不要よ。選びなさい、付いてくるか、連れていかれるか」

ヒスメナ「言葉は向こうで聞いてあげる。特にあのチップの件をね」

詐欺師「ひ、ひぃい」


 詐欺師の男、尻もちをつく。


アルド(オレたちが悪者みたいだ……)

ヒスメナ「アルド」

アルド「はい!」

ヒスメナ「拘束してくれるかしら。わたしは周囲の警戒を……」


 廃道の奥から合成人間が現れる。


詐欺師「かんにんしてやー」


 詐欺師の男、合成人間たちの方へ向かう。


ヒスメナ「待ちなさい、危険よ!」


 合成人間、詐欺師の男が横切るのを無視し、アルドたちへと近づく。


ヒスメナ「……どういうこと?」

アルド「ヒスメナ、来るぞ」


 アルド、剣を抜いて構える。


ヒスメナ「仕方ないわね!」


 ヒスメナ、槍を構えなおし、合成人間を迎え撃つ。


 (戦闘:合成兵士×3)


 倒れている合成人間。ヒスメナ、アルド、武器をしまう。


ヒスメナ「あの詐欺師、合成人間と協力している? そんなことが……?」

アルド「追うか?」


 ヒスメナ、首を横に振る。


ヒスメナ「いえ、報告を優先するわ。心苦しいけれど、作戦室に戻りましょう」


〇IDAスクール 作戦室

 イスカ、ヒスメナ、アルドが並ぶ。


イスカ「……そうか」


 ヒスメナ、首を横に振る。


ヒスメナ「ごめんなさい。せっかく、任せて貰ったのに」

イスカ「いや、この可能性も考えてはいた。だからアルドにも協力してもらったんだ」

イスカ「しかし、少し見通しが甘かった。私のミスだ」


 アルド、腕を組む。


アルド「考えていたって、合成人間と組んでいるかもってことか?」

イスカ「組むというのは少し違うね」


 イスカ、顎に手を当てて考える仕草。


イスカ「ふむ。少し話をまとめようか」

イスカ「まず、最初の一件で、詐欺師の男が廃道で取引していたのを覚えているかい?」

アルド「ああ、なんだっけ、遊興目的とか」

イスカ「うん。あれはね、言ってしまえば機械的な麻薬なんだ」

イスカ「方法は色々ある。体にマイクロチップを入れた上で、脳にパルスを送るとか」

イスカ「薬物を用いずに受容体を刺激するから効率的で副作用もないという」

イスカ「これはもちろん、違法だ」

イスカ「しかし」


 イスカ、目を閉じる。


イスカ「需要がある。市場としてはなかなかの規模だ」

イスカ「ここまではいいかな?」


 アルド、しばし考え込む。


アルド「……えっと、酒を禁止しても、みんな勝手に作るし飲む、みたいなことか?」

イスカ「おおむねそんなところだ」

ヒスメナ「セバスちゃんに言われたことが記憶に残っていたの?」


 アルド、目を閉じる。


イスカ「ひとまず、これを電子ドラッグと呼ぼう」

イスカ「最近、この電子ドラッグの新しいものが出回っている」

イスカ「これが非常に危険だ。脳の神経を焼き切ることさえある」

イスカ「しかし、その刺激が好まれて、あちこちに広まっているんだ」


 ヒスメナ、腕を組む。


ヒスメナ「あの詐欺師が売りまわっているってことね」

イスカ「だけでなく、彼が開発したのだと私は考えている」

ヒスメナ「開発まで……?」

イスカ「そして、電子ドラッグを改変して、合成人間向けにも作っていると考えている」

ヒスメナ「合成人間と、取引をしていると言うの?」


 イスカ、頷く。


イスカ「快楽にイデオロギーは関係がない。そう考えるものは多いと私は思う」

ヒスメナ「そんなの……」


 アルド、腕を組んで考えこむ仕草。


アルド「……でも、それって、あの男に得があるのか?」

イスカ「いいところに目を付けたね」

イスカ「そうだ。人間相手で十分稼げる。なぜ危険を冒して合成人間と取引をするのか」

アルド「どうしてなんだ?」

イスカ「私もわからない」


 アルド、驚いた仕草。


アルド「わからないのか……」

イスカ「そこを本人から聞きたかったわけだよ」

ヒスメナ「……ごめんなさい」

イスカ「私のミスだ。気にしなくていい」


 イスカ、腰に手を当てて切り替える。


イスカ「さて、そこで次の作戦だ」


 イスカ、ヒスメナに近づく。


ヒスメナ「捕まえに行くのね」

イスカ「違う。これを配置してきて欲しい」

ヒスメナ「これは?」

イスカ「保険だ。しかし、廃道や工業都市のほうにも置いておきたい」

ヒスメナ「……」

イスカ「不満そうな顔をするな。それと、病院に設置する時は受付で話してくれ」

イスカ「電磁波が機器に悪影響を及ぼす可能性がある」

ヒスメナ「……わかったわ。イスカの言うとおりにする」

イスカ「ありがとう。いざとなったら、また頼らせてもらう」


 ヒスメナ、頷いてアルドへ向き直る。


ヒスメナ「行きましょう。まずは学園内からね」


 アルド、頷く。


〇ミッション

 IDAスクールエントランス、病院、シータ地区、廃道ルート99、工業都市。

 上記の特定ポイントで機器を設置する。


〇IDAスクールエントランス

 ヒスメナ、屈んで機器を設置する動作。

 アルド、それを見ている。


ヒスメナ「設置完了よ」

アルド「次は、病院だな」


 ヒスメナ、頷く。


ヒスメナ「行きましょう」


〇医大付属病院 1階受付

 ヒスメナ、アルドが受付で尋ねる。


ヒスメナ「すみません、IDEAのものですが」

受付係「あ、はい、承っております」


 ヒスメナ、受付に一歩近づき、何かを受け取った動作。


ヒスメナ「これは……」

受付「承っていたカルテです。事件に関わる措置と聞きましたが」

ヒスメナ「事件に?」


 ヒスメナ、少し眺めて、頷く動作。


ヒスメナ「……いえ、確認しました」

受付「すみませんが、持ち出しはできませんので」

ヒスメナ「はい、ありがとうございます」


 アルド、ヒスメナ、受付から離れる。


アルド「なんだったんだ?」

ヒスメナ「たぶん……いえ、イスカに話してからにしましょう」

アルド「そうか。次はシータ地区だな」


〇曙光都市エルジオン シータ地区

 ヒスメナ、屈んで機器を設置する動作。

 アルド、それを見ている。


ヒスメナ「設置完了よ」

アルド「じゃあ、次は廃道に……」


 アルド、作業をしているアンドロイドへ目を向ける。


アルド「そういえば、街中で結構働いているよな」


 ヒスメナ、頷く。


ヒスメナ「インフラを担ってもいるから、欠かせない存在なのよ」

ヒスメナ「それより、急ぎましょう。廃道ね」

アルド「ああ」


〇廃道ルート99

 ヒスメナ、道の途中で屈み機器を設置する動作。

 アルド、それを見ている。


ヒスメナ「設置完了よ」

アルド「よし、この先の工業都市で終わりだ」


 ヒスメナ、頷く。


ヒスメナ「気を付けていきましょう」


〇工業都市廃墟

 ヒスメナ、道の途中で屈み機器を設置する動作。

 アルド、それを見ている。


ヒスメナ「これで終りね」

アルド「よし、戻るか」


 (咆哮が聞こえる。大気の震えるエフェクト)


 合成人間三体が歩いてくる。


合成人間「ギギャギャ、ヒ、キヒヒ」


 アルド、ヒスメナ、武器を構える。


アルド「こいつら、まさか!」

ヒスメナ「そのようね、行くわよ!」


 (戦闘:合成兵士×3)


 倒れている合成兵士を見て、アルドが腕を組む。


アルド「電子ドラッグってやつ、相当危ないみたいだな」

ヒスメナ「こんなもの、人間が使ったら……」


 アルド、ヒスメナに向き直る。


アルド「ヒスメナ、学園のアンドロイドもなっていたよな」

ヒスメナ「そうね。シータ地区も……」


 ヒスメナ、何かに気づいたように驚いた動作をする。


ヒスメナ「……想像していたより大事ね」

アルド「イスカのところへ戻ろう」


(表示:Quest Complete)

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