魔法。言葉。友達。
1
目を覚ますと、四時でまだ肌寒かった。
マナはまだ眠っている。
俺は、メモ書きに先に行っていると書いて、家に帰った。
マナの道具を持って、また病院に戻ってきた後に、学校に行った。
学校に来たときには、七時についた。教室には誰もいないと思ったが、愛喜がいた。
「おはよう。思ったよりも早かったわね」
「それはこっちのセリフだよ。こんなに早く来ているとは思わなかった」
「まぁね」
愛喜は読んでいた本を閉じた。
「よーっす。おはよう」
次に教室に入ってきたのは、英季だ。朝から元気に入ってくる。
「みんな、もう揃っているみたいだな」
「あんたが一番最後だけどね」
「それは、お前らが早すぎるだけだろ」
確かにそうだ。まだ七時になったばかりだからな。英季も遅れてきてはいないので問題はない。
「みんな揃ったし、本題に入ろうか。マナのことなんだけど」
「そうねー。どうしようか」
「どうするかー」
「誰も、思いつかなかったのか」
だんまりとしてしまう。俺も考えていたけど、なにもでてこない。
「マナちゃんのいいところってどんなところなんだろう」
愛喜は、静寂を崩す。
「そうだな。かわいいところとかかな」
「あんたは、顔しか見てないの?」
「ごめんって」
ヘコヘコと英季が頭を下げる。
「そうだな。優しいところとか、気が利くところとかかな?」
「そうね。でも、ほかの人にはない魅力とかがあるんじゃない?」
「そうだな。やっぱり魔法だろ!」
「おい、英季。今その魔法が問題になっているんだろ」
「あ、」
英季は間抜けな顔をした。
「でも、ほかの人と違うところってそこよね」
「いい案を思いついたぜ!」
間抜けだった顔から、急にきりっとした顔になった英季。
「なんだ? バカな案じゃないだろうな?」
「そんなことはないぜ。聞いて驚くなよ」
ばからしいポーズをとる。今から言われる意見に期待はできないな。
「魔法をみんなに広めればいいんだぜ」
「あんたなに、バカなこと言ってるのよ」
「そう? 結構いい案だと思うんだけどな」
「魔法なんて、そんな簡単に使えるものじゃないでしょ。ねぇ、蝶夜?」
「いけるかもしれない」
「だろ?」
「蝶夜、どうしたの? このバカが移った?」
「バカって俺のことかよ。てか、バカは移るわけないだろ」
二人はカップル漫才を繰り広げている。
「二人には内緒にしていたんだけど。俺、魔法使えるんだよね」
「なに言ってるんだよ、蝶夜」
「ほんとに何言ってるのよ。冗談なら、この案は却下よ」
二人は、目を見開いて抗議してくる。
「ほんとだよ。見てて」
俺は二人を水道の前まで連れてくる。
「水よ。我が手から生まれ流れを作れ」
腕を目の間に出す。すると、手のひらから青く光る魔法陣が現れる。その魔法陣はゆっくりと回り始めた。
「おお! すげぇ」
「蝶夜、いつの間に」
俺は魔法に集中して、二人の話に反応することはできない。
魔法陣がグルグルと回転し始める。やばい。これは、暴走する。制御しないと。魔法陣を睨み、魔法の言葉を頭で何度も復唱する。
魔法陣の回転が止まる。
ほっと息をついた瞬間。魔法陣は強く光り、そこから水が溢れだした。まるで、水風船を爆発させたように、水が四散する。
俺ら四人はびしょ濡れだ。水道まわりも全て濡れている。
「な? 使えるって言っただろ?」
俺は振り返って、二人に笑顔を向ける。
「何が使えるのかしら?」
「これどうするんだよ」
二人はマジな表情をしている。特に愛喜に顔は、化粧が落ちて不細工な顔になっている。思わず笑いそうになるが、ここで笑えば殺されてしまうだろう。
「ごめん」
俺は深々と頭を下げた。
そのあと、俺たちは廊下を綺麗にしてジャージに着替えた。
周りからの目が痛い。こそこそとクラスメイトが話しているのは、俺たちのことだろう。しかし、愛喜はいい笑いの種になっているようで、いつもの女子集団と笑って話している。
そんな中、マナが教室の扉を開けて入ってきた。途端、クラスのざわめきが大きくなった。特に愛喜の周りでは嫌な笑いが起こっている。愛喜は苦笑いをしている。
この反応じゃ、マナ本人にも気付かれるだろ。イライラしてしまう。
「おはよう。マナ」
「蝶夜、おはようございます」
マナの声色は青い。落ち込んでいるようだ。
「体調は大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
「来て早速なんだけど、頼みたいことがあるんだ。いいかな?」
「いいですよ」
俺はマナを連れて、オカルト愛好会の部室に行く。
そこには、ハンガーにかかった俺たちの制服が窓側に干してある。
「制服を乾かしてほしくて、いいかな?」
「大丈夫です」
マナは、俺たちの制服に近づく。
「俺のも」「私のも」
後ろから声が聞こえる。
振り返ると、愛喜と英季がいた。申し訳そうに笑っている。
「いいですよ」
マナもその様子に、くすっと笑ってみせた。マナの笑ったところを久しぶりに見た気がした。この笑顔を取り戻すために、今日作戦を実行するんだ。次は、失敗できない。
マナの魔法によって、乾かせれた制服を着て教室に来た。また、教室はざわめいた。
「あいつら、制服きてるぜ」
「なんでジャージだったのよ」
こそこそと俺たちのことを馬鹿にしているようだった。
「魔法で、制服作ったんじゃね?」
「マナが全部原因よ」
俺たちをバカにする声に交じって、マナを貶している声が聞こえてくる。
愛喜もそれでからかわれているようだ。俺と英季の周りには誰も来ない。
そんな、ざわめきも担任の佐藤が入ってきて静まった。
朝の連絡が終わり、いつもの授業に戻る。マナと話す人はもういない。マナは一人で次の授業の準備をしている。俺が時々話しかけるが、元気なく返事をするだけだった。
その様子を見ていると心が痛くなる。
俺たちの作戦は、お昼休みに実行される。授業中何度も、作戦の内容を確認して、シミュレーションをする。完璧だ。成功するだろう。
午前の授業はあっという間に、過ぎて昼休みになる。
生徒たちができるだけ、教室にいる時間帯を狙う。お昼休み後半だろう。食堂にいる生徒たちも戻ってくるくらいの時間帯だ。
マナにはお弁当を作っているので、マナは教室で食べている。俺はマナと机をくっつけて食べた。そこに英季も混ざってきて、今は三人でご飯を食べている。
愛喜は、いつもの女子集団の中でお弁当を食べている。
時間が近づいてくる。心臓の鼓動が早くなってくる。ご飯がのどを通らない。通らないご飯は飲み物で無理にお腹に入れる。英季はいつものように、ご飯をむしゃむしゃと食べている。こいつはすごいな。こういう時は感心してしまう。
どんどん、教室に人が集まってくる。ほとんどの人が教室にいるだろう。
英季と目を合わせる。
(いまだ)
英季はそう言ってるような気がした。
俺は立ち上がる。
「どうしたんですか? 蝶夜」
マナは俺を見上げている。それを無視して俺は、黒板の前まで歩いていった。左手にはさっき飲んだ空のペットボトルを持っている。まだ、誰も気にしていないようだ。
「おい、お前らこっちを見ろ」
クラスの人、全員がこっちを見ている。緊張する。心臓が飛び出そうだ。
「水よ。我が手から生まれ流れを作れ」
魔法を演唱する。
「何をしているの蝶夜」
一番早く気付いたのは、マナだった。マナは席を立っている。
俺の手のひらからは、すでに魔法陣が出ていた。
クラスのざわめきを大きくなった。みんながなにを言っているのか、聞こえてこない。
「俺だって魔法を使えるんだぜ」
魔法陣はゆっくりと回る。そして、水がちょろちょろとペットボトルに注がれる。笑いがどっとでる。思っていた反応と違う。みんなすげぇとか言うのかと思った。どうしよう。これは作戦失敗か。
「水よ。我が手から生まれ流れを作れ」
教室の右端から声が聞こえる。それは、英季だった。大きな魔法陣が現れている。英季が魔法を作るなんて作戦の中に入っていない。俺だけのはずだ。
「英季さんまで」
英季の魔法陣は強く光り爆発した。教室中、水浸しだ。
「おい、どうしてくれんだよ」
「バカてめぇ、ふざけんなよ」
男子生徒たちが、握りこぶしを作り英季に走っていく。
「ひぃ」
英季は防御するために、腕で顔を隠した。
「水よ。我が手から生まれ流れを作れ」
次は、女性の声だ。みんな、そちらに向く。
「愛喜もなにしてるんですか」
マナの叫びなど、愛喜は聞こえてないように魔法陣は天井に向けている。
「ちょっと、愛喜。なにしてるの?」
「ちょっと、ちょっと」
近くにいた。女子の集団も慌てている。
魔法陣はきれいに周り始めた。
しかし、水は爆発四散し、また教室を濡らした。
教室は、スプリンクラーでも作動したかのように濡れている。
「豊崎さんまで」
「なんだって」
さっきまで英季に殴りかかろうとしていた、男子たちも今は愛喜に目を奪われている。
教室は、ドタバタとみんなそれぞれ慌てている様子をみせる。
「おい、こら。うるさいぞ」
下の階の職員室から、先生が来る。
「なんだこれは」
教室の様子をみて、先生は腰を抜かした。
その後、俺たちはこっぴどく先生たちに怒られることになった。
午後の授業は二時間あるが、その時間を説教と反省文に奪われた。そいつらに解放されたときには、帰りのホームルーム終盤で。教室に戻ったら、次は立ったまま佐藤に怒られた。今日は嫌な日だな。先生には怒られるし、反省文はかかされるし、作戦も成功した手応えがない。マナはこのまま帰ってしまうのだろうか。嫌だな。怒られることよりも、マナがいなくなる方が嫌なのだ。
俺たちが、佐藤に怒られているときクラスの中から、クスクスと笑い声が聞こえてくる。人の不幸がそんなに嬉しいのか。こんなクラスやめてやる。俺は決心した。
よく見ると、笑っている中にマナがいる。
なんでだ。佐藤もだんだんと笑いをこらえるような素振りをみせる。
俺たちは、当たり前のように戸惑った。三人で目を合わせて、状況を確認しようとするが誰もわかる人はいない。
佐藤もどんどん笑っていくし、はやく誰か説明してくれ。
「実は、お前らのしたことをマナから詳しく聞いてな。別に怒ることじゃないって思ったんだ」
佐藤先生から伝えられた話の内容がわからない。
「お前らは友達を守るために、やった行為に俺は尊敬するぞ。しっかりとこいつらにも注意したぞ」
クラスメイトはうんうんと頷いている。
「蝶夜。私、みんなと仲直りできました」
マナは立ち上がって、笑っている。いつもの笑顔だ。なにがなんだか、わからなかったけど、マナの笑顔が戻ってよかった。
「よかったな」
「私たちの作戦が成功したのよ」
後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、英季と愛喜が優しく微笑んでいる。愛喜はうっすらと涙を浮かべていた。
「二人のおかげだよ。あそこで二人がやってくれなかったら、きっと成功してなかった」
「そうだな。お前の魔法しょぼかったもんな」
「英季だって、ひどかったわよ」
「ないぃ? 俺が一番派手だっただろ」
この二人は、がみがみと口喧嘩を始めた。
「「「お前ら、全員ひどかったわ」」」
クラスメイトの揃ったツッコミに、二人は吹き出して笑った。
マナは、その様子を見て、笑っている。俺はそんなマナを見て、微笑んだ。
その日の部活動でマナから詳しい話を聞いた。
俺たちが、先生に連れていかれたあと、教室の復元をしなくちゃ行けなくなったらしく、そこでマナが魔法を使ってすぐに復元したらしい。
そしたら、クラスメイトはマナの周りに集まってきたらしい。
うーん。謎が多い気がする。なんで、マナは魔法を使ったんだろう。魔法を使って嫌われたのに。マナに、それを聞いても、「秘密」と意味ありげなウィンクをして答えなかった。
あまり気にしすぎるのも良くないなと思う。今の楽しい時間が続けばそれだけで俺は十分だ。
英季の提案で、部活終わりにゲームセンターに行くことになった。明日は、土曜日だ。存分に遊んでもいいだろう。
2
ゲームセンターで遊んだ後に、ご飯を食べて各自、家に帰った。
疲れ切ってしまい、俺はお風呂に入ってすぐにお布団に入った。
そういえば、昨日からいい睡眠がとれてなかった。入ってすぐうとうとしてきた。でも、マナと話がしたい。俺は頑張って目を開けた。
「蝶夜、おまたせしました」
お風呂から上がったマナが、寝室に入ってくる。今にも飛びそうな意識を、起こして。体を起こして、マナのほうを見る。
「今回は、お騒がせして申し訳ありません」
「いや、大丈夫だよ」
マナは、ベッドに腰を下ろした。俺はそんなマナを見上げる。首が少し痛いな。
「蝶夜もこっちで話しませんか? その態勢きつくありませんか?」
俺の気持ちがわかったのか、マナは自分の隣を叩いて、座るように合図する。
「ありがとう」
起き上がって、マナが叩いていた場所に座る。少し揺れるとマナの肩がぶつかるくらい近い距離だ。横を見ると、マナと目が合う。
「ほんとにありがとうございます。また、蝶夜たちに甘えてしまいました」
「そんなことないよ。マナがいなかったら、この作戦はできなかったんだから」
「みんな、いつ魔法を覚えたんですか?」
「俺は、マナから魔導書とマナが教えてくれたからね。あの二人は、見よう見まねでやったって言ってた」
「ほんとですか。すごいですね」
「そうだよな。俺が何日もかかったのにな」
「蝶夜もすごいですよ。読むだけで覚えるなんて」
「ありがとう」
ぼんやりとしてくる、意識。眠いな。でも、今は寝ちゃだめだ。なんとか意識を保とうとする。
マナは、もじもじと指を動かしているのが見える。何か言いたそうだ。俺はその手の動きを見ながら待つ。
指がくるくると回っている。マナってああいう癖があるのかな。初めて見た気がする。
と、余計なことを考えていると、だんだんと瞼が閉じてくる。やばい。寝てしまう。薄っすらとマナの声が薄っすらと聞こえる。
「蝶夜……」
名前を呼んでいる。その後が聞こえない。
意識を戻そうとするが。俺は深い眠りに落ちていった。
「蝶夜、蝶夜。起きてください」
蝶夜は私の肩に寄り掛かった状態で寝てしまった。どうしよう。起こしてちゃんと寝せたほうがいいのかな。どうしよう。
蝶夜はとても気持ちよさそうに寝ているし、起こしたら申し訳ないな。もう少しこのままで居よう。そうしよう。
何分経っただろうか。蝶夜は倒れて今は、膝枕の状態になっている。
「膝がそろそろしびれてきちゃった。蝶夜を寝かせないと。今日は一緒に寝てもいいよね。うん。一緒にベッドで寝ちゃおう。」
長い独り言は誰にも聞かれてはいない。
蝶夜をベッドに寝かす。
蝶夜は気持ちよく眠っている。まだ、蝶夜に言えなかった言葉がある。私は蝶夜の耳もとに寄せる。
「今日の蝶夜、かっこよかったですよ。大好きです……」
聞こえてないのは、わかっている。さっきは恥ずかしくて言えなかったが、聞こえてないから今は平気だ。
そして、私は蝶夜の唇にキスをして、布団にもぐった。
顔が熱くなる。
私は蝶夜の胸に顔をうずめて寝た。
3
朝、目を覚ますと、隣にマナが寝ていた。やばい、昨日の記憶がない。どうしよう。俺なんかマナにしたか?
マナは、気持ちよくニコニコしながら笑って眠っている。
昨日、確か、ベッドに座って話してたはず。そのまま寝たのはわかるけど、一緒に寝たことに驚く。なんもないよな。
俺は頭を抱えた。
「蝶夜、おはようございます」
マナは目を開けている。
「おはよう」
俺の小指を握ってきて、にこっと笑った。
すべての行動が、意味ありげに見えて怖くなった。
魔法軍人少女と過ごす日常 雪見なつ @yukimi_summer
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