第36話

 「アァ!? テメェガ我ニ地獄ヲ見セルゥ? ソリャア一体何ノ冗談ダァオイ!!」

 「冗談なんかじゃない。いいからホラ、かかってこないのか? まさか怖気付いたのか?」

 「テメェッ、ブチ壊シテヤルッ!!」


 『ゴブリオン』は怒りに身を任せ大振りの打撃を放つ。常人には見えない速度で拳が迫る。しかしにははっきりと見えた。

 俺はその見えた攻撃を拳を叩き込んで迎撃した。たちどころに弾かれる『ゴブリオン』の拳。そして着実に『ゴブリオン』の〔右腕〕のゲージも削られていく。

 『ゴブリオン』の攻撃をした腕が弾かれたことにより『ゴブリオン』の隙が露わになる。それを今の俺は決して見逃さない。その露わになった顔面に俺は拳を叩き込む。


 「オラァッ!!」


 ドッ!


 「グッ!」


 先ほどと同じように吹っ飛ぶかと思いきや『ゴブリオン』は俺の攻撃に警戒していたのか自分で顔を背ける事で打点をずらし、衝撃を和らげたようだ。


 「テメェアアァァァ!!!」


 青筋を浮かせた『ゴブリオン』が怒気を漲らせながら迫る。正しく鬼気迫る迫力に俺は冷や汗を垂らすが慌てない。何故ならもうこいつはなのだから。


 そこから俺と『ゴブリオン』の激しい打ち合いが続いた。しかし俺の攻撃が相手の身体に蓄積していくのに対して『ゴブリオン』の攻撃は全て俺の拳により打ち払われていた。

 するとどうなるか。やがて俺の待ち望んだがやってきた。


 「クソッ、テメェ! 何ダッ、何デソンナ急ニ強クナッテヤガル!!?」

 「さぁて、ねぇ? ああ、そうだ。おい『ゴブリオン』」


 『ゴブリオン』は驚愕した。


 「ア!? テメェ何デ我ノ種族名を知ッテヤガル!!」

 「まぁまぁ、そんな事はどうでもいいさ。それよりお前、数字くらいは知ってるよな?」


 『ゴブリオン』は突然の質問に困惑したようだ。それもそうだろう。

 何故このタイミングで?

 誰だってそう思うはずだ。


 「ダッタラナンダッテンダヨォ!!」

 「! おっと!」


 俺は『ゴブリオン』の振るわれた腕をまた殴る。


 「あ〜あ。お前、俺に攻撃したら本当に地獄が待ってるぞ」


 それを聞いた『ゴブリオン』はあからさまにキョトン、として。


 「ギッ……! ギッヒャッヒャッヒャッヒャッ!! オォオォ、マサカハッタリカ!? コノゴニ及ンデハッタリカヨ!! オ前ソレデ自分ガ助カルト思ッテナノカ!? コノ我ガ! ソレヲ鵜呑ミニシテテメェヲ逃ストデモ思ッタノカ!! 逃スワケネェダロ下等種族ガッ!!」


 俺を馬鹿にして大笑いし始めた。


 「ギッヒッヒッヒッヒッ!! マサカソンナノガ奥ノ手ダッタトハナ!! 全クコノ我ガ何ヲ恐レル必要ガアッタノカ……!! テメェハ我ノ手デ必ズ殺スゾ!! 」


 全てを見下したように『ゴブリオン』はそう宣った。

 全く、こちらは親切で言ってやったのに……。いやまぁ、俺もこいつを殺す選択肢しかないんだけどな。


 「はいはい。じゃあ殺すならとっととかかってこいよ、ホラどうした」

 「言ワレナクテモ殺シテヤルヨォ!!」


 ブンッ、ドッ


 「はい、あと一回ね。ほらどうした」

 「ンナ攻撃痛クモ痒クモカユクモネェンダヨ……ナァ!!」


 『ゴブリオン』が拳を振るった、と思いきや。


 「!?」

 「コッチダバカガァ!!」


 ドゴォッ!!


 「ぐぁっ!?」

 「ハッ、コノザコガ!!」


 拳で攻撃した、と見せかけて『ゴブリオン』は空中で拳を止め、完全な死角から痛烈なハイキックが飛んできた。勿論それを回避する事は出来なかった。


 「ぐぅ……!!」


 ヤベェ、油断したら負けるってわかってたのに油断しちまった……! クソッ、いってぇ……!

 俺はよろよろと立ち上がってHPを確認する。

 ……残り『34%』か、やっぱ結構持ってかれるよな……!

 一瞬回復しようかと考えたが、やめておく。何故なら万が一回復を行う場合『ポーション』は全部使ってしまったので俺の手元には『濃縮マアルジュース』しかない。しかしジュースが効力を発揮するのは『完飲』した時のみだ。飲んでる最中に零したりしてしまえば回復は行われない。それどころか回復しようとした瞬間ジュースを奪われて回復されてしまう可能性がある。それだけは絶対に避けたい。

 あいつは、『ゴブリオン』は気がついていないが既にあいつは死地に片足踏み入れた状態なのだ。万が一ゲージの回復が行われたら、生還は絶望的、とまでは今の俺なら行かないまでも再び満身創痍になる可能性がある。

 それならば、とっととけりをつけたほうがいい。

 そう判断した俺は、『ゴブリオン』を再び挑発する。


 「おぉ〜…ッ、いってぇ〜! ……とでも言うと思ったか? お前自分で言ったよなぁ、何でそんなに強くなったんだ、って。強くなった俺がお前如きの攻撃で泣き言いうわけないだろ」

 「ヒヒ、無理スンナヨォ、我ニハ分カルゼェ? テメェノ足ガ大分震エテルジャネェカヨオイ!!」

 「! ハハ。んなわけねぇだろ、雑魚が!」


 事実を言われて頭に血が上った俺が放った言葉。苦し紛れの暴言だったが、どうやら上手く刺さってくれたようだ。


 「雑魚ガ、雑魚ガ雑魚ガ雑魚ガァ!! 下等種族ノ分際デコノ我ヲ! 王ヲ下シタ『ゴブリオン』タル我ヲ雑魚ダト! フザケルナヨォッ!! 雑魚ハ下等種族! オ前ラダァァァァ!!」


 速い! だがもう油断はしない!!

 迫る『ゴブリオン』を注意深く観察し動向を探る。

 きたっ!

 真っすぐに迫る拳。恐らく今までで一番速い拳速だろう。虚を突かれた速度だったからか俺の反応が僅かに遅れる。

 その恐ろしいまでの矢のようなストレートを俺は頬を削られながらも何とか躱すと、俺がいた場所には空振りして伸びきった『ゴブリオン』の右腕が。


 「地獄を見ろ、クソゴブリンがぁ!!」


 俺は躊躇なくその腕に拳を当てた、そしてその瞬間。


 〔右腕 003/500〕→〔右腕 000/500〕→〔右腕 破壊/500〕

 [『ゴブリオン』の〔右腕〕の部位破壊に成功しました]


 僅かに残っていた〔右腕〕のゲージが完全に消失し、そして。


 ヒュパァァンッ!


 『ゴブリオン』の右腕が宙を舞った。

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