第25話
俺は準備の際に用意してもらった松明の灯りを頼りに鬱蒼とした森の中を一人歩く。辺りからは常にガサガサと音がする。その度に俺は心拍を上昇させ音のする方向へ灯りを向ける。
ガサッ
ほらまた!
「うひぃっ!」
意外とちょっとした風で草葉が揺れるという日本では知らなかったような知識が歩くたびに増えていく。
音がして、そちらを振り向く度に俺の足はどんどん鈍足になっていく。そしてより耳を澄ませてしまう、という悪循環が出来上がってしまっていた。
「はぁ……」
覚悟はしていたけどやはり夜の森は怖い!
慎重に歩んでいるはずなのに足元が凸凹してるから足をとられて転倒しそうになるわ、松明の灯りが俺の嫌いなホラーゲームみたいな本当に手元しか照らさないからより怖いわ、え、なにこれ。
なんで俺異世界に来てまでホラーゲームプレイしてるんだ?
なんて考えていると。
ガサガサッ!
おっ。
茂みを揺らして何かが飛び出して来た!
「ギギャアァァ!!」
「ギャーーーー!!!」
メキィッ!!
雄叫びを上げて飛び出して来た存在は一体なんだったのか。めちゃくちゃ恐ろしい顔をしていたのは確かなのだが、条件反射で手に持っていた松明で横殴りにした為にそいつはどこかに転がっていったので分からない。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……!」
折れた松明を力の限り握りしめ、息を整える。
って。
「あぁ、火が! くっそ、別の松明を用意しないと……!」
っていうか何のために俺は剣を腰に下げてるんだ、これで身を守るためだろうに!
準備した荷物の中から新しい松明を取り出そうと荷物を下ろすが、松明を取り出すことは叶わない。
ガサガサッ!
ザザッ!
「ギギャッ!」
「ギギギッ!」
複数のよく知った化け物の声が聞こえたかと思えば——
ゴッ!
ドッ!
「ぐぅっ!?」
さっきまで灯りを持っていたせいでろくに周りが見えなかった俺は、正面から出てきた奴らの攻撃をもろに身体でくらってしまった。
いって、ぇ? あれ、そこまで痛くないぞ。
確かにもろに攻撃を受けてしまったが、この世界に来た最初に受けた攻撃ほど痛くない。
「ち、うらっ!」
ドッ、ドゴッ!
「ギッ!?」
「ギャッ!」
ある程度位置の割れたゴブリン共を蹴りで後方に転がした。適当に繰り出した蹴撃だが、どうやらゴブリン共もそこまではっきりとは見えなかったようでもろに俺の蹴撃を受けていた。
俺は蹴り飛ばして得た時間で腰から剣を抜き放つ。と、ここで俺の目もぼんやりとだがゴブリン共の見た目を把握することができた。
なんだ? 顔を隠している?
俺は見た目が気になって小さく『鑑定』、と口にした。
種族:ゴブリンシャドウ×2
性別:♂
LV:10
HP:19/33
MP:21/21
ATK:35
DEF:7
MAT:10
MDE:8
SPD:45
LUK:8
技能:隠密LV1:自身よりSPDの低い者に気配を悟らせない。
「へぇ」
『ゴブリンシャドウ』か、技能から察するにやはり隠密に長けた個体なのだろう。ATKとSPDがかなり高いが他が別の個体のゴブリンよりもどの数値もかなり低い。まぁ、その唯一抜けてるステータスも俺には及んでいなかったが。
というか、HP減りすぎじゃね?
見れば立ち上がったゴブリンシャドウの両者は俺の蹴りが当たったと思しき場所を脂汗を流しながら抑えているように見える。
いや、暗すぎて脂汗自体は見えないんだけど、あきらかに呻いているし多分そうに違いない。
「え、いやよっわ」
つい言葉にしてしまう。しかしこんな状況でだけ人の言葉を理解できる特殊な隠しスキルでも持っているのか、自身の身体を労わろうとせずに襲いかかってきた。
「おっ!」
やはりステータスが物語る数値は伊達じゃない。今まで相対してきたゴブリン共よりも素早く動いてこちらを撹乱しようとしてくる。ついでに考える頭もあるようで『ゴブリンシャドウ』は数の利を活かして挟撃を仕掛けてくる。
「だけど遅い!」
ズバァッ!
「ギャアッ!!」
このゴブリン共は俺よりは早くない。しかもたとえ攻撃が俺に当たったとしてももろに攻撃を受けて大した痛みじゃないのだ。よって俺はまず片方の『ゴブリンシャドウ』の攻撃を真正面から打ち砕き、そのままそいつの腹部を逆袈裟に大きく斬り裂いた。さらに——
「お前もだ!」
サッと棍棒を振り下ろしてきたそいつの攻撃を逆袈裟で剣を振った反動で回転し、天に大きく掲げた足をもう一体の『ゴブリンシャドウ』の首に鎌の如く振り下ろした。
バキッ!
「グェッ!」
そいつの首から鳴ってはいけない鈍い音がした。俺の振り下ろした足の勢いでそいつは派手に地面に激突する。
「うぇ……」
ゴブリンの首が普通は曲がらない真逆の方向に首が大きく曲がっている。正直俺が殺してきたゴブリン共の死に様の中で一番気持ち悪かった。
ちょっと、ここでは松明は使えないな……。恐らくだが、この死体を灯りのある場所ではっきり見えてしまったら俺はおそらく吐く。
俺は地面に降ろした荷物を手で掴み、少し移動してから松明をつけることにした。
「(シュッ、ボゥッ)ああ、やっぱり灯りはいいなぁ……」
しみじみと呟きながら松明を掲げる。ここまでほっとしたのはいつぶりだろうか、出来ればこの灯りはもう手放したくない。
ああ、ちなみにこの松明にどうやって火を着けたかは簡単だ。村人のおっさんが火打ち石を用意してくれていたのだ。ぽん、と渡された袋の中に布を巻いて油を染み込ませた木の棒と火打ち石が入っていたのだ。
最初は火打石の存在に気がついていなかったのだが、松明を取り出した時に「これどうやって火をつけんねん」と頭を抱えていた時袋に入っていた火打ち石の存在に気がついたのだ。火をつけるのに多少四苦八苦したが、最後にヤケクソになって石をガツンッと大きく打ち合わせたら漸く火がついた、という訳だ。
まぁ、ようするに俺が必要以上にビビってカチカチやっていたから着かなかった、という訳ですハイ。
さて、自分で初めて火打ち石を使ったときのショートストーリーを思い返しながら辺りを散策してみるとゆらゆらと揺れる灯りが接近してくるのが見えた。その数は多く、さらに5つほどの塊になって動いているのを見て正体をおおよそ理解した。って待てよ?
あれ? あいつらの灯りが俺が見えてるってことはあいつらも俺の灯りが見えてるってことだよな?
「まずいな」
松明の灯りを足元まで下げて土をつけて火を消した。と、その時。
ガサガサッ!
「!」
これは、来るか!
「ギッ!」
「っとぉ! うぉっし!」
予想通り茂みを揺らしていたのは『ゴブリンシャドウ』だった。さっきの奴らとは違いこいつめ、短剣なんか持ってやがる!
俺は勘で短剣を弾けたことに感謝しながら奇襲に失敗した『ゴブリンシャドウ』の命を刈り取る。
そうこうしている間も灯りの塊は確実にこちらに向かってきている。やはり数が多い。
5つの塊の中に揺れる灯りの数が5つだから、25体のゴブリンか。
冷静に相手の数を把握しながら考える。
バレてるなら仕方ない。まぁそもそも逃げたって仕方ないしやるしかないよな。
それならば。
俺は今灯りを消している。そしてあいつらは大まかな俺の位置はわかるが、詳細な位置は把握できていないに違いない。
よし。
「なら俺も奇襲しよう」
今辺りには奴らの灯りが揺れるのみ。それならば俺が灯りをつける必要はないし、あいつらの明かりを利用すればいい。それに——
「あいつらがいるってことはこの近くにゴブリン共のねぐらがあるはずだもんな……」
よし、やるか。
俺はわずかに茂みを揺らしながら移動を開始した。全ては奴らを全滅させるために。
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