第23話
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ」
頰についた青緑色の血を拭い、息を整える。俺の眼前にはピクリとも動かなくなった沢山のゴブリンが折り重なって倒れていた。
「おいどうしたぁ……! かかってこねぇんかよぉ、おいぃ……!」
徐々に徐々に後退る残党のゴブリン共に、ゆっくりとした足取りで接近する。後先考えずに森の入り口付近まで来てしまったせいか辺りには、というか俺の背に隠れるようにして後方に生き残っていた村人たちがこちらの様子を伺っていた。
「ギギィ……!!」
「グゥゥ……!」
ゴブリン共は村人たちに目を向ける。村人たちはびくりと体を震わすが、俺がジャリ、と足を踏み出すと今度はゴブリン共がびくりと体を震わせた。
「よそ見とはいい度胸じゃねぇかおい……!」
ゴブリン共が何かに縋り付くようにして武器を抱えた。
もう一息か……?
「うおおぉぉぉ!!」
雄叫びを上げて、ゴブリン共に接近する
「ギエェェ!?」
「ギャギャァ!!」
それを見て今度こそやられると思ったのだろう、ゴブリン共は一斉に背を向けて村の外へと駆け出した。
あん? ……あいつらまだ舐めてんだな、あーオッケーオッケー。
追いかけてこないのかと、足を止めるゴブリン一行。チラチラと様子を伺うような奴等を見て、キレた。
剣を胸の前に腕を縮めて構え、ゴブリン共に猛然と疾走する。レベルが上がって身体能力が上がったのか俺は簡単にゴブリン一行のうちの一体の背中を捉えた。
「死ね」
構えた姿勢からただ剣だけを前に突く。
ザクッ!
「ギャッ!!」
突かれた反動と、自身が走っていたことによってそいつはもんどり打って地面に倒れた。ピクピクと痙攣していることからこいつはまだ生きていることが窺える。だが——
こいつのトドメは後回しだ。
俺はこちらを舐め腐っているゴブリン一行の猛追を続ける。最初はもう面倒臭いので数匹くらいなら逃してやろうと思っていたのだが、いかんせんあいつらの挙動が癪に触ったので全滅させることにしたのだ。
前を走るゴブリンの一体に飛び蹴りを喰らわせ地面に転がす。そのまま次の一体に向かう。
と、逃げきれないと悟ったのか俺の標的になったゴブリンは足を止めこちらに武器を向けて構えた、が。
「ギィッ!?」
ゴブリンが目の前を見て驚いている。そりゃ急に背後にいたはずの俺が消えたら驚くよな。
俺は気の毒に思えるほどキョロキョロと辺りを忙しなく身渡すゴブリンの肩をつついて教えてやった。
トントン
俺は間抜けな顔をして
ズパンッ!
首に一閃を描いた。後ろを振り返ろうとして首を捻っていたせいで力でも入っていたからなのか斬った首が回転しながら飛んだ。
おぉ……、ちょっとびっくり。
なんてやっている場合じゃなかった。残りのゴブリン共を確認する。
「あー……くっそ」
いつの間にか村の外に脱出していたゴブリン数匹を見て嘆息する。あそこまで距離を離されてはこの疲れた身体ではちょっと追いかけたくない。
「はぁ……」
あー疲れた。
剣に付着した血を払い、鞘に戻して背伸びする。と、そこで辺りが騒がしいことに気がついた。
「おい、水持ってこい!」
「生き残りはこれで全部か!」
「ああちくしょう! メイヤ……!」
「サリー! くそ、ゴブリン共め!!」
「泣くのは後だ! まずは火を消せ!」
完全にゴブリンが撤退したと思ったのだろう、村人たちが思い思いの行動を起こしていた。
これは、やるっきゃない、か。
というかこの状況から逃れられる方法を俺は知らない。俺はテクテクと懸命に水を消そうとしていたおっさんに話しかける。
「あのー、俺は何をすればいいですかね?」
「んしょっ、はいおっさん!」
「ありがとう、せいっ!」
ジャバァッ!
バシャァッ!
シュー……
あれから30分くらいだろうか。今ようやく最後の火が消化された。
「ふぅ〜、おわぁ、りましたよね?」
「ああ、終わった! 助かったよ、ありがとう」
おっさんがゴツい大きな手で俺の右手をしっかと握る。
おお、なんかドキドキするな……。いや、性的なドキドキじゃなくてなんか、こう気持ちがこもっている感じがしてあったかいんだよね。
周りで同じく消化活動に勤しんでいた男衆も、ホッとして……いや。
「離せ! 行かせてくれ!」
「落ち着けって、お前だけじゃどうにもなんねぇだろ!」
「妻が、メイヤがゴブリン共に攫われたんだぞ!!」
「分かってる、分かってるが一旦落ち着けって!」
「落ち着いてられるかよ!……ああメイヤ、今いくぞ!!」
「待てって!」
似たような会話がそこかしこから聞こえてくる。
「サリー! サリーがいなきゃ俺は……!」
「落ち着かんか! 冷静になれぃ!」
「なんでだ親父! 親父はサリーのこと心配じゃないのかよ!」
「心配に決まっておろうが!!」
「ッッ!」
「じゃが見たじゃろう、同じようにアンを連れて行かれ歯向かったソーンがどうなったかを!!」
「でも、親父!!」
必死に食い下がる見知らぬ人。正直かわいそうだと思うが出来ることなら面倒ごとは御免被りたい。
ああ、そういやリラ達は無事かな?
すっかり頭から抜けていた2人のことを思い出して、おっさんから距離を取りそそくさとその場を後にしようとしたとき。
どうして気がつかなかったのか。この場にいない時点で何かしらあったに違いないのに。俺の頭から抜けていたもう一つの記憶のピースは俺以外からもたらされた。
「アーリィちゃんがもう救援を要請してから数日経っとるんじゃ、明日には到着する! だから今は耐えるんじゃ!!」
「親父! でもそのアーリィまで厳ついゴブリンに
……は? アーリィが、攫われた? クソゴブリン共に? 嘘だろ、ちょっと——
「その話、詳しく聞かせてくれませんか」
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