第22話

 「おい、お前ら! んなとこに蹲ってないであっちに逃げろ!!」


 ニムと男にリラの家の方向に逃げるように指示しながらゴブリンの群勢のに注意を払う。雪崩のように迫るゴブリン共には並々ならぬ迫力があった。

 って、こいつ何やってんだ!?


 「ああっごめん、足を少し捻っちゃったみたいで……!!」

 「んなこと言ってる場合かよ!! 死にたくなけりゃとっとと逃げろ、走れ!!」


 ああまずい、ゴブリン共が文字通り目と鼻の先まで来てやがる!! っち、先手必勝だ!

 俺は咄嗟に目についた掌サイズの石を拾い、ゴブリンの群勢の先頭を走るゴブリンに思い切り投げつけた。


 ガンッ!


 弾丸の様に直線を描いた石はゴブリンの頭部に直撃した。


 「ギャッ!?」


 直撃したゴブリンがぐらりとバランスを崩す。するとその後ろから続いていたゴブリン共も急に減速したゴブリンにぶつかり合い、速度を落とす。しかし完全に静止することはもちろん出来なかった。


 「ギャブッ、ェ、ゴ……!」


 ベキッ

 メシッ

 ボキンッ

 グシャッ!


 バランスを崩して後続に押され地面に倒れた先頭のゴブリンは、無数のゴブリンに踏みつけられあっという間に見えなくなった。


 「うっ……」


 生々しい音が微かに響く。可哀想だとほんの少しくらい思わなくもないが、すぐに意識を改める。

 俺は減速した群勢目掛けて剣を携え躍りかかった。


 「おおぉぉぉ!!」


 体勢の整っていないゴブリン目掛けて剣を振るう。


 ズバァッ!


 なす術も無く斬られたゴブリンは脱力し、地面に倒れ伏した。その光景を見ても尚もたつくゴブリン共を次々と一撃で葬った。


 頃合いだな。

 4体ほど斬り伏せて、すぅ、と息を吸い込む。


 「おらどうした、とっととかかってこいやぁ!!」


 大声でゴブリン共を挑発し、ニムと男の2人から引き離す。走りながら2人のいる方角を見てみると、ゴブリンの群勢の隙間から立ち上がったニムと男がこちらに会釈をしてリラの家の方に向かっていく姿が見えた。

 よしよし、上手くいったな!

 心の中でガッツポーズをする。とりあえず最低限の働きはできたが問題はこの後だ。


 「「「ギャギャギャ!!」」」

 「ギィッヒィッヒィ!!」

 「「ギャアァヒャァ!!」」


 俺の視界に映るゴブリンの数はざっと30体ほどか。さっきは確認できなかったが杖を持っているやつがちらほら見える。俺は十分に2人から引き離した後、足を止めてゴブリンの群勢に対峙した。

 大丈夫だ、俺はこんなところでは死なない。冷静に対処すればゴブリンなんかにゃ絶対負けねぇ!

 昂る感情は恐怖。それを俺は大きく深呼吸をして必死に鎮める。


 ジリジリと時は刻まれ先に痺れを切らしたのは、どちらだったか。


 「ギャアァァウォ!!」

 「うっ、おぁッ!!」


 繰り出されたゴブリンの剣撃に一瞬心臓を跳ねさせながらも、咄嗟に振るった俺の剣はゴブリンの剣に甲高い音と共に接触し——


 パキィンッ


 叩き折る。


 「ギィ?」


 何が起こったか分からない、と言った様な様子で己の折れた剣を見つめるゴブリン。


 「じゃあな」


 ザシュッ!


 俺が斬ったゴブリンは一拍置いた後、どう、と地面に倒れ伏す。俺は剣に僅かについた血を敢えてゴブリン共に向けて振り払う。


 「ほら、次はどいつだよ?」


 油断するな。まだ決着はついていない。少しでも自分に有利に、冷静に対処されない様にしないと……。

 果たして慣れない挑発に効果はあったのか。

 ピチャリと音を立ててゴブリン共に付着した血液がつつつと流れた。そのうちの一体は付着した血を不快そうに拭い、拭った掌を凝視する。一拍置いてこちらを向いた。


 「ギャガアアァァァアアアァァァァ!!!」


 絶叫し牙を剥き出し唾を飛ばし目を剥いて絶叫している様はまさに小鬼と呼ばれるにふさわしい形相だった。


 「ギャウォォォゥ!!」

 「グゲァギァギィ!!」


 それに呼応する様に続々と後ろのゴブリンもこちらに襲い掛かろうと飛び出した。それぞれの方向から斧、剣、槍といった武器が繰り出される。


 「ふっ!」


 槍を避け、


 「せいっ!」


 バキィンッ!


 斧を両手で振るった剣で砕いて迫る剣を迎撃しようとしたが、予測していたよりも力で剣を押し込まれてしまったせいで剣の対処に僅かに手間取り、


 スパッ


 「くぅっ! おらぁッ!」


 ズバンッ!


 腕を薄く斬られてしまったが、なんとか避けて背中を大きく斬りつけ致命傷を負わせた。


 「見えてんだよぉ!!」


 ザンッ!


 「ギャアッ!!」


 ザシュッ! 


さらにそのまま槍でもう一撃加えようとしているそいつの片腕を切り落とし、痛みで歪んだそいつの頭部を斬り飛ばす。その時ゴブリンの手を離れて支える力のなくなった古ぼけた槍を引っ掴み、


 「させるかよっ!」


 ブンッ!

 ガンッ


 「くれてやるッ!」


 ドンッ!


 「ゲッ!?」


 斧を扱うゴブリンが拾おうとしていた斧を弾き飛ばして戻した槍でそいつの腹部を串刺しにした。


 その間にもわらわらとゴブリンの強襲は続いた。それを剣で屠り足で避け、時にはゴブリン共の落ちている武器を投げたり振るったりと無我夢中で戦った。


 「はっ!?」


 危ねぇ!

 咄嗟に近接職のゴブリンを『ゴブリンマジシャン』の魔法に対する肉盾にし、同士討ちを誘ったり。

 気が付けば辺りはゴブリンの死体と、それらから流れ出す血の臭いで充満していた。


 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……、ああぁ!」


 汚れるのもお構いなく地面に寝転がる。もちろん比較的あまり汚れてないところにだ。流石に血の池に寝転がる趣味は俺にはない。

 全身についた打撲の後とゴブリンのクソ野郎共に斬りつけられた傷を確認し、ステータスカードを確認した。




 名前:リン ミヤマ

性別:男

職業:異界の狩人

LV:14=21(↑7)+3

HP :67%

筋力:109=140(↑31)上昇値7→10

体力:96=141(↑45)上昇値6→9

精神力:60=82(↑22)上昇値3→4

耐力:56=78(↑22)上昇値3→4

敏捷:91=128(↑37)上昇値5→7

運:33=36(↑3)

スキル

『異界の狩人』(派生あり):異界より現れし狩人に狩れぬモノは存在しない。

『身体強化LV2』:自身の基礎ステータスを上昇させる。UP

『武具適正B』(『異界の狩人』より派生):全ての武器(盾含む)に玄人級の適正を得る。

『鑑定(EX)』(『異界の狩人』より派生):自身の強さに応じて様々な情報を取得することが出来る。

『素材回収RANK3』(『異界の狩人』より派生):RANK2等級の素材を獲得できる。UP

『薬品生成(EX)』(『異界の狩人』より派生):手に入れた素材で異界の狩人御用達の薬品を生成する。 NEW

『アイテムBOX(EX)』(『異界の狩人』より派生):手に入れた素材を収納しておける。NEW

 『部位破壊(EX)』(『異界の狩人』より派生):あらゆる対象から素材を得る。NEW

『当たり』(待機中)

称号:なし




 「……なんかまたスキル増えてないか?」


 HPがどのくらいなのか確認したかっただけなのに思わぬ拾い物をした気分だ。新しいスキルは『部位破壊』と言うらしい。しかしまた効果が漠然としていて使い方がよく分からない。なので。


 「とりあえず一旦置いておくか。『アイテムBOX』」


 目の前に見慣れたホワイトホールを出現させて、中から『濃縮マアルジュース』を取り出して、中身を喉に流し込む。


 「(ゴッ、ゴッ……、ゴクンッ!)……ああ、うめぇ!」


 飲み干して体を動かしてみる。

 うん、痛くない。

 体を起こして辺りを見渡した。それほど離れていない家屋が黒煙を吐きながら赤々と燃えている。そしてその奥から——


 「はぁ……」


 どんだけ来るんだあいつら……。もうお腹いっぱいなんだけど……。

 気づかれないようにしたいが……。

 奥に見えたゴブリンのうち一体がこちらを指差しながら何事かを叫んでいる。暫くするともうご遠慮願いたくなるほどの、さっきの群勢よりかは数の少ないゴブリン共がこちらに向かって来ていた。

 ああ、分かったよ。ろくに休ませてくれないんだな、分かった分かった。なら——


 「全員、殺してやる」

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