第21話
「はぁ、はぁ……、ああまたかよ!!」
2人を上の階に避難させてからゴブリンの小隊による襲撃がなんと5回もあった。おかげで俺の周りにはなんとも不気味な顔の死体が小さな山を作っていた。
「ゲギャァ!!」
「ギィ!!」
「ギャヒャヒャァ!!」
三体の新たなゴブリンが駆けて来た。俺はそれを迎え撃つ。
「せぁっ!!」
ズバァッ!
駆けてきた醜いお客様を真っ向から武器ごと切り捨てる。相手は鉄製の武器を装備している筈なのだが、不思議なほど簡単に切り捨てられるのだ。それはお世辞にも戦闘が得意とは言えない俺にとってはありがたいことで、お陰で回避や防御といった不慣れな行動を取らずに済んでいる。
剣を持ったゴブリン、『ゴブリンソルジャー』を一刀の元に斬り捨てた俺は次の標的に敵である俺の前で、堂々と杖を構え詠唱をしている『ゴブリンマジシャン』を選んだ。俺の走る速さに驚き見るからに焦っているそいつの首を斬り飛ばす。
あ、くそミスった!
俺の振るった剣は首のさらに上、口元のあたりを斬り裂いた。
うお、流石にグロい……!
「ギヤァッ!!」
背後から得体の知れない何かを感じた。咄嗟に剣を両手で持ち防御の構えをとる。
ギィンッ!
「っ!」
俺の剣が受け止めたのは大きな鉄の鎚だった。予想外の重さに両手が痺れる。
「『鑑定』! ……こいつもリーダーか!」
最初に調べた『ゴブリンリーダー』と似たようなステータスだったが、ATKだけがそれよりも上だった。
俺は、ATK以外の数値がほとんど変わらなかったことに安堵した。
しかしこいつら、持っている武器が違くても全部『ゴブリンリーダー』なのか? もしそうなら魔法をメインで扱う『ゴブリンリーダー』がいるかもしれないな。
受け止めた鉄鎚を力任せに跳ね除けた俺はそんなことを考えていた、その時。
ドォッ!!
「ぐあっ!!」
突然脇腹に焼けつくような痛みが走る。反動でゴロゴロと地面を転がった俺は脇腹を押さえて呻く。
「ぐぅぅぅぅッ、ああああぁぁぁぁぁッ!!!」
熱いッ、熱いッ!!
そう叫びたかったが、今まで感じたことのない痛みに言葉が出なかった。
冷たいものっ、冷たいものを早くッ! そうだ土ならどうだ!
震える手を必死に動かして地面を掘り起こして地中にあった土を脇腹にあてがう。
「ぐううぅぅぅおおおおぉぉぉぉぉぉ……!!」
傷に土が侵入したせいで更なる痛みが走る。
まち、がえたか……!? どうすりゃいいんだ、どうすりゃ……! あ、そうだ回復!!
即座にアイテムBOXを出現させ迷わず『濃縮マアルジュース』を取り出し、寝転がったまま蓋を開け中身を一気に呷る。
「(ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ……)!! っはぁッ、はぁッ、ふぅ……! うぉっ!!」
痛みのせいで状況をすっかり忘れていた俺目掛けて鉄鎚が振り下ろされた。
ドゥンッ!!
流石に鉄の塊は重く、俺が寝ていた場所は大きく陥没していた。直撃すれば俺の骨など飴細工のように容易く砕かれるだろう。
間違いなく危機一髪の状況を乗り越えたことに感謝し、今度は一切油断することのないよう気持ちを引き締める。
ボッボッボッ!!
そんな心境の変化が早速功を為してくれたようだ。
「うぉっと!」
数メートル先から飛んできた火球を難なく避ける。そうしてようやく俺を襲った痛みの原因に行き着いた。数メートル先に見える影、五体のゴブリンがこちらに杖を向けていたのだ。
そうか。
「お前らかぁ……!」
沸沸と怒りの感情が湧き上がる。
おっと、そうだまずは目の前のこいつだ。まずはこいつを殺す。
「覚悟はいいよなぁ……!」
ニタリと笑いながら、『ゴブリンリーダー』の目を見据える。
一瞬、びくりと体を震わせたそいつは雄叫びを上げながら鉄鎚を振り上げる。もちろん俺はその隙を見逃さない。
目の前で、んな大振りされたら——
「逃すわけねぇだろうがぁ!!」
ズバンッ!!
俺の繰り出した渾身の逆袈裟は『ゴブリンリーダー』の身体に線を刻んだ。鉄鎚を振り上げた大勢のまま動かぬそいつにはもう目もくれずに『ゴブリンマジシャン』の団体に向けて歩み出す。
バカな『ゴブリンマジシャン』共は丸見えの詠唱を終え、俺めがけてそれぞれ魔法を飛ばしてきた。
ボッ、ヒュンッボッボオゥッ!
「出所が分かってて当たる訳ねぇだろうがッ!!」
飛来する火球を回避し、それに混じる氷の礫を叩き斬る。それを見た『ゴブリンマジシャン』共は後退しながら再び詠唱を始めた。流石に魔法職のみの小隊だからか接近戦を避けているようだ。だが——
「逃す訳ねぇだろ!!」
ただでさえ接近職よりも遅い足だ。俺に追い付けない道理がある筈なかった。
「『鑑定』……お前かぁ!!」
俺の脳内に表示された『ゴブリンリーダー』として表示された対象に脇目も振らずに突進する。その速度は『ゴブリンリーダー』が詠唱を終えるよりも遥かに早かった。
「死んどけやぁ!!」
馬鹿みたいに大口を開けて杖を眼前に持ってきた『ゴブリンリーダー』。その表情から察するにもしや怯えているのだろうか。だが俺の振るった剣はそんな間抜け面を晒したそいつを容赦無く襲った。
「グウェッ」
そんな醜い悲鳴を上げた『ゴブリンリーダー』は杖を握っていた指を斬り飛ばされ胴体は切断には至らずに、開けた傷口からヘドロのような深い青に近い緑色の体液を吹き出し事切れた。
そんなリーダーの様相を見て何を思ったのか、周りに残った『ゴブリンマジシャン』共に目を向けると二体が逃げ出しもう二体が詠唱を続けていた。
「にがっ」
ザシュッ
「すかっ」
ザクッ!
「よぉッ!」
ゾブッ
詠唱を続けたうちの手近な一体をすり抜け様に斬り背後に回り、丸見えな首を寸分違わず撥ね飛ばし、そのまま走って残りの詠唱中の一体の心臓に剣を突き入れる。絶命しただろう、と思い剣を抜こうとした瞬間。杖先が青白く光る。
あ、まずい!
「くぉっ!」
顔面目掛けて放たれた氷の礫を咄嗟に首を傾け避けた。しかし流石にそんな至近距離では完全には躱しきれず、左頬に赤い筋を作る。
それを息も絶え絶えな様子で見ていた心臓を貫かれたそいつは一矢報いてやったとばかりに口元を歪めた。
そいつの笑みを見てカッ、と頭に血を昇らせた俺は反射的にそいつの顔面を容赦無く殴りつけた。未だに胸に剣を生やしたそいつは衝撃で吹き飛ぶようなことはなかった。ただ、そのせいで
ちっ、ゴブリンがこの野郎……!!
ブンッ
ドサァッ
せめてもの腹いせに剣を勢いよく横薙ぎに振るって死体を吹っ飛ばす。
ああくそ、落ち着け! 怒るのはもう後にしろ! それよりも逃げたあいつらを殺さないと……!
二体の『ゴブリンマジシャン』が逃げた方向を確認する。もう遠くまで行ってしまっただろうと思っていたがそいつらの行動は俺の怒りにさらに拍車を掛けた。
「テメェらぁ……!」
そいつらは十分な距離を取れたと判断したのだろう、こちらに攻撃を加えるための詠唱をしていたのだ。
とことん舐めてくれやがるぜ……! 言葉を発する時間すら勿体無い!
日本にいた頃の俺では到底考えられないくらいの速度で接近を開始する。しかし、少し前から詠唱を開始していたようで二体の詠唱の方が先に終わる。
ボッボッ!
ひたすら神経を逆撫でされて怒りが頂天に達していた俺は走りながら剣を構える。
ああうぜぇ! こんなもん避けるのもめんどくせぇ!!
その時の俺は失敗した時のことを一切考えなかった。ただ、俺がやりたいと思ったことを実行しただけだ。
襲いくる火球を——
「おあぁッ!」
サンッ、サンッ
剣を振り下ろして、振り上げて。
ドドンッ
二つに割った。
そのまま俺はゴブリン共に肉薄し。
「じゃあな!」
ザンッザンッ!
それぞれ一撃で屠った。
「……ふぅ」
絶命しているか念のために確認してから額の汗を拭う。
……いって!
左頬の傷に手を当てる。
ああ、もしかして緊張の糸が切れたってやつか? マジでこんな事あるんだなぁ。そういやこのくらいの傷ってどの位HP減るんだ?
そう思い、ステータスカードで確認してみるが、確認できた表示は『97%』だった。
「このくらいなら回復はやめておくか……」
ぼやくように言いながらステータスカードを懐にしまう。そこで俺はハッとした。
「これ家から離れすぎじゃね!? 戻らねぇと!」
慌てて踵を返して駆け出——
「うわぁぁぁぁ助けてぇぇぇぇ!!」
そうとしたが背後から聞こえた声に足を止めて振り返る。
「たっ、たすっ、助けてええぇぇぇ!!!」
小さな女の子をもはや振り回すように連れながら俺と同じくらいの歳だと思われる男がこちら目掛けて走ってくる。その後ろには——
「オイオイオイオイマジかよあいつぅ!!」
中規模くらいの塊になった数十体のゴブリン共がそれぞれ雄叫びを上げながらついてきていた。
こいつ……! なんてはた迷惑な!
どうしたものかと頭を回転させようとした時——
「はぁ、はぁ……!」
ガッ
「あうっ!」
「うおっ!?」
疲れ果てた少女の足が覚束なくなり足を引っ掛けて転倒してしまった。
はぁ!? そこで転けんのかよ!!
手を引いていた男の方は転倒はしなかったが、軽くバランスを崩した。おかげで絶妙に保たれていたゴブリン共との距離が狭まり始める!
「くっ、ニム、伏せて!!」
男の方は逃げることを諦めたようで少女——ニムを庇う態勢に入った。これでは十秒も保たずに背後から迫る軍勢に呑まれるだろう。つまり。
ああくそ、考える時間もねぇのかよ!!
考えられないなら、本能に任せるしかない。そして俺の本能は悲しいことに名も知らぬ赤の他人を助けるために動き出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます