第16話
「う……あれ、ここは……」
俺はなんだか見覚えのある部屋で目が覚めた。やたらと体が重い感じがする。
なんだこれは……? 俺はなぜこんなところで寝ているんだ?
「ふっ、うぉっ、くっ……!」
全身がビキビキと悲鳴をあげるが、なんとか頑張って身体を起こした。身体を起こすと夕陽が窓から差し込んできているのに気が付いた。
「は? え、今夕方ぁ?」
え、俺今までなにしてたんだっけ? 確かアーリィと一緒に森に行った、よな……。その時ゴブリンの群れがいてそれで……。
そんなふうに思考を巡らせていると部屋のドアが開いた。
ギィィ
「あ、リンさん!」
「お、リラか」
ってことはやっぱりここはリラの家か。
「リンさん、からだいたくないですか?」
「ん、ああまぁ痛いっちゃ痛いけどそこまで気にするほどじゃないよ」
リラからの問いにそう答えると、リラは見るからに嬉しそうな笑顔になった。
「ほんと!? よかったぁ! リンさん帰ってきたときすごくけがしてたから心配してたの!」
「へ〜、そっか。心配かけちゃったみたいだね、ごめんね」
そう言いながら近寄ってきたリラの頭を優しく撫でる。
「んふふふ!」
「おっと、ちょっと馴れ馴れしすぎたかな」
そう言って、リラの頭を撫でていた手を引っ込めるが。
「え、そんなことないよ! もっとやって!」
「お、おおぅ分かったよ……」
ん〜、無意識にやるならともかくねだられて人の頭撫でるのはちょっとこそばゆいな……。
今度は恐る恐るとリラの頭に手を乗せて——
「……(ナデ、ナデ)……」
「んふふふふっ!」
「だぁぁすまん、これで終わりなっ!」
「え〜〜〜?」
リラが実に不服そうな、物足りなさそうな顔をしているがこれ以上意識して撫でるのは俺には無理だ!
リラは少しの間再びナデナデを希望していたが、俺にこれ以上撫でる気がなさそうなのを察したのだろうか。
「んもう、しかたないなぁリンさんは! しょうがないから今はこれくらいでがまんしますね」
「うん、勘弁して」
「分かりました、じゃあわたしはリンさんが起きたってお姉ちゃんに言ってきますね!」
そう言うなりリラは部屋を出て行った。
1分もたたないうちに部屋の外から慌ただしい足音が聞こえてきた。
ダダダダダダッ……コンコン
「は〜いどうぞ」
俺の返答を確認した途端にドアが控え目に開かれる。
「……入ってもいい?」
「大丈夫だよアーリィ」
ドアが完全に開かれてアーリィが現れた。
「…………」
「アーリィどうしたの?」
「その……」
ふむ、なんだかアーリィがやたらともじもじしている。なんでだ? ……あれ、そういえば服装がいつの間にか変わっている。誰が着替えさせてくれたんだ? ってかパンツも脱がされているな。……んぁパンツぅ!?
「あの……」
「アーリィ!」
「ひゃいっ」
ここで気づいた。
ドア開けっ放しじゃねーか! 閉めてもらわないと!
ここで頭が少し冷静になる。
「ちょっと、ドアぁ閉めてもらっていい?」
パンツのこと聞くにしても流石にドア全開でみんなに聞かれたりするのは流石に恥ずかしいわ。
「あっ、ええ分かったわ」
アーリィがドアを閉める。
「そこ、よかったら座ってよ」
そう言って部屋の隅にあった椅子を勧める。
「ええ、じゃあ遠慮なく使わせてもらうわ」
そう言ってアーリィは、俺のそばまで椅子を引いてきて座った。
「……あ」
「アーリィは」
「え?」
「アーリィは怪我とかしてない?」
「……私は大丈夫よ」
「そっか、良かった」
会話が止まる。
……え、会話終わっちゃったんだけど、え、どうしよう!?
「ランペイジブルー、だっけ? あの青いゴブリンの名前」
「ええ、ギルドでは常時特別討伐対象になっているわ」
「え? じょうじとくばつ……、なんだって?」
「常時特別討伐対象。要するに危険なモンスターってことよ」
「やっぱあいつ、危険な奴だったのか」
「そうよ、危険なのよ……、なのに……」
アーリィが俯いた。肩が震えている。そんなアーリィが心配になって俺が声を掛けようと身体を動かした瞬間、アーリィの顔が上がる。上げられたアーリィの目からは涙が溢れていた。
「どうして逃げずに突っ立っていたの!? 人目見ればどんな素人でも危険だって分かるでしょう! 普通はさっさと逃げて村に危険を伝えて街から救援を呼ぶものなのよ!?」
「いや、そ、ごめ——」
「なのにどうして私を見捨てて逃げなかったの! そのために私が囮までしたのに!」
溢れる涙のように次々とアーリィの口から俺に対する言葉がこぼれ出てくる。
「もしあなたが挑んで勝てなかったらどうするつもりだったの! 何か村を守るあてがあったの!? 無いでしょ、無かったでしょ! なのにあんな無茶してぇ!」
「…………」
ここでアーリィは言葉を切った。
アーリィめ、言いたいこと言ってくれるじゃないの……!
「でも……。あなたがいなかったら私は今ここにいられなかったから。だから……、助けてくれて、ありがとう……!」
華奢な手で涙を拭いながらアーリィはそう言った。
「でもね、今度からはもし私が倒れたりしたら、その時はちゃんと逃げて救援を呼んでね、お願いよ」
「アーリィ……」
アーリィが真剣な眼差しで忠告してくる。しかし。
カッコ悪いけど、俺だって逃げられるなら逃げたいんだけどなぁ……。
「アーリィ、俺も正直出来ればそうしたいよ。でもなぁ、今回もそうだったけど倒れたアーリィ見たらさ、俺の体がアーリィから離れたがらないんだよね。どんなに離れようと頑張っても動かないんだ……、逆に近づこうとすると簡単に近づけるのになぁ……。なんでだろうね?」
戯けたように俺は笑ってみせた。アーリィはと言うと——
「ばか……、ばか……! 逃げろって私が言ったら逃げなさいよ……!」
「身体がいうこと聞かないから無理だよ」
「無理じゃない……!」
「無理だって」
「無理じゃないっ」
「むーり」
「無理じゃあ、ないよぉ……!」
「俺には、アーリィを見捨てることはできないよ。分かってくれ」
言葉にしてはっきりと否定した。アーリィはこれ以上こちらに何か言うこともなく、顔を俯かせた。
また肩が震えている。また泣いてるのかな、俺泣かしてばっかりだなぁ……。
そんなことを考えながら頭をポリポリとかいていると、アーリィの顔が持ち上がった。
「ばかああぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!」
「うひっ!?」
キーーンと耳に残る大音量で叫んだアーリィの顔は真っ赤になって怒っていた。バッと椅子から立ち上がり、ズンズンとドアに向かって進んでいく。
やがてドアノブに手をかけると、勢いよく開いて。
バンッ!
大きな音を立てて、閉じた。
ちょっと予想外のアーリィの行動に唖然とする。実を言うと振動で痛みがビリビリと身体中を駆け回っていたりもする。
「ふぅ〜……、どうしたんだろうなぁアーリィのやつ」
ん。
ふと窓を見ると、いつの間にか夕陽が消えかかり、月が顔を覗かせようとしていた。
ゆぅっくりと変化していく空の色を眺めながら、俺はベッドに横になりクラスメイトのことを考えていた。
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