第11話

 怯えを含んだアーリィの言葉を受け、そんなアーリィの態度を見て、今目の前にいる化け物は難敵であると俺は判断した。何より俺自身がこいつの攻撃を受けているのだ。間違いなく今まで出会って来た敵とは違う。


 「ゴルルオォ!!」


 ヴォンッ!


 「うぉっ!」


 唸りを上げて迫って来た巨大な棍棒を頭を下げて避ける。


 べキィッ!!

 ミシミシミシッ……

 ズドオォン……!


 すぐ頭の上を通り抜けようとした棍棒は俺の寄り掛かっていた木を殴りつけたと思えば、衝撃で木はけたたましい悲鳴のような音を上げ、大地に横たわる。


 なんだよ、こんな化け物、倒せるわけ、ないだろう……!

 恐怖に足が竦んだ。しかしこんな場所で立ち止まっていれば次にあの棍棒が襲い来るのは明白だ。だから俺は殴りつけられた痛みを堪えながらも走り出す!

 その瞬間。


 「ガアアァァァ!!」


 ボゴオォン!!


 「ひぃっ! ぶわっ!?」


 駆け出した瞬間、ランペイジブルーは柔らかい地面に向けて棍棒を叩きつけた。その衝撃で土が噴火したように舞い、俺の頭上を越えて辺りに撒き散らされた。その土は当然俺にも降ってくる。

 ここは森の中、ただでさえ足元も悪く見通しも良いとは言えないのに視界を覆われてしまえば当然——


 「くっ、うわっ!?」


 転んでしまった。

 くそっ、逃げないとっ早く逃げないとあいつが、あいつが来ちまうのにっ!

 慌てて起き上がろうとするがしかし。


 「あ、うっ、くそっ! くそっ!」


 柔らかい土に、不規則に混じる小石や小枝を踏んでしまい上手く立ち上がることができない!


 ズンッ…ズンッ…


 もたついている間にも、間違いなく迫りくる足音がより一層俺を焦らせる。向こうは俺を完全に舐めきっているのか走って追ってくることはない。あいつにとっては今の俺は間違いなく小物に見えているのだろう。


 俺はなんとか立ち上がり、走り出す。その時ほんの少しだけ後ろをチラと振り返りすぐそこまで迫って来ていないか確認した。

 追って来ていない? なんでだ、なんで——。


 「はあぁっ!」


 カッ


 「ゴロロロアァァ!!!」


 ゴッ!!


 「くぅぅっ! このっ!」


 カッ


 追ってこないのも当たり前の話だった。アーリィが逃げた俺の代わりにあの化け物と戦っていたのだ。

 だがその戦闘は決してアーリィが善戦しているとはいえなかった。それもそうだ、何しろ膂力が違いすぎる。

 アーリィの剣は巨大な棍棒に阻まれ、決定打になっていない。対するランペイジブルーの攻撃は一撃の重さが常に必殺級で唸りをあげてアーリィに迫った巨棍はアーリィのガードを弾き飛ばしている。


 思わずそんな人外との戦いを繰り広げるアーリィから目を離せず呆然としてしまっていた俺にアーリィの怒声が飛ぶ。


 「何をしているのッ!? 早く逃げてこいつのことを村に——!」


 アーリィの言葉は最後まで紡がれることはなかった。注意をこちらに向けてしまったせいか、ランペイジブルーへの対処が疎かになったその瞬間。ランペイジブルーの巨棍が唸りを上げて迫る。


 「うっ!」


 辛うじて剣で受け止めるアーリィ。しかし咄嗟の行動により中途半端な防御になってしまったため踏ん張ることができずにその身体を宙へと浮かばせた。そして——


 ドゴッ!

 「っぅあ!」


 その細身の体躯を運悪く飛ばされた先にあった木に打ちつけた。重力に従いずるりと力無く落ちたその肉体は完全に脱力しているようでピクリとも動かない。


 「へ……、アーリィ?」


 う、嘘だろ? まさかそんな死んだわけじゃ……。

 ふらふらとアーリィの安否を確かめようと身体に近づこうとすると。


 ズンッ!


 それを許さぬ者が立ち塞がる。


 「あ、ああ……」


 眼前の化け物が醜悪な笑みを浮かべた。まるで「次はお前だ」と言わんばかりに化け物は嗤った。

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