転移してハーレムになりそうだけど、俺は断じて認めない

朝樹 四季

転移してハーレムになりそうだけど、俺は断じて認めない

 俺はたちばな 慎一郎しんいちろう

 どこにでもいる男子高校生……だった。

 何故過去形かと言うと、異世界に転移したからだ。



 そして俺は今、牢屋に居る。


「詰んだ……俺の異世界生活詰んだ……」


 これから努力してどうなる話なら、ここまで絶望しなかった。

 だけど、ダメなんだ。

 俺は俺というだけでこの世界では俺は受け入れられない。



 数日前まではマジでこれから俺はバラ色の人生が待っていると疑ってやまなかった。

 それと言うのも、神様とかいう奴が異世界転移させてくれるとか言ってくれたからだ。

 どこにでもいる男子高校生だった俺は当然性欲旺盛。

 希望を聞かれて


「やっぱハーレムだろ!」


 と答えたら、


「んー、なら女しかいない世界とか良いんじゃないかな」

「マジで!? じゃあそこで!!」

「了解。ハーレム作れるといいね」


 あっさりとこの世界に転移させてくれたのだ。


 最初は良かった。

 マジで女しかいないし、そのどれもがめっちゃいい女だったんだから。

 超興奮した。


 だけど、誰に声を掛けようとキョロキョロしていたところを突然股間に衝撃を喰らい、意識がブラックアウトしたのだ。

 そして気付くと牢に繋がれていた。



「来い、強姦魔」

「だから違うっつってんだろ……」


 目覚めた時からこう呼ばれ、散々怒鳴られ、殴られた。

 正確に言うと強姦するつもりで物色していた未遂者らしいのだが、未遂でも強姦魔と呼ばれるらしい。


 断片的な言葉から得た情報を繋ぎ合わせると、俺は俺と言うだけで強姦魔になるということが分かった。


 これでどう生きられると言うのだろう。

 これでどうやってハーレムを作れると言うのだろう。

 無理に決まってんじゃんと叫びたい。


 意気消沈しながら、騎士サマに槍で突かれるように歩かされた。

 近寄りたくもないという態度が透けて見えて、更に落ち込む。


 したこともないと言うのに、強姦魔だぞ?

 せめて本当にしたことがあったのなら、まだマシだった。



 連れて来られた先は教会だった。


 くそっ、あの神様、絶対邪神だろ!

 思い出してムカムカしてきたが、神様を罵ったりしたら処刑されそうなので黙っておく。

 宗教がどれだけ怖いものかは理解しているつもりだ。


 そうして良く分からないことを指示され、もうどうにでもなれと投げやりな気持ちもありながら大人しく従う。

 多分牧師だと思われる人に騎士サマが何か伝えたらしく、こうしろああしろ言われるのだ。


「あー……なるほど。騎士様方、結論が出ました」

「ではやはり……」

「いいえ。この方はどうも呪いに掛かっておられるようですな」

「呪い?」


 これ、俺のことだよな?

 呪いって何だ?

 俺いつの間にか呪われてたのか?

 あ、この不幸はそのせい?

 やっぱりあの神様、邪神だった?


「はい。どうやら『常時抜刀』状態で固定されているようでございます」


 ………………あー……“抜刀”ってアレだよな。

 牢屋で殴られながら何度も聞かされた単語だ。


 んで? 常時って、当たり前だろっ!

 と俺の常識からするとそう言いたいんだけど……


「!! つまり……」

「はい、この方はこれが常態なのです」


 そう、当たり前なはずなのだ。

 だけど、牧師サマも騎士サマも周囲の奴らも全員が困惑した顔をしている。


 この世界に女しか居ない。それは確かなのだろう。

 だけど、正確に言えばこうなる。この世界には“ふたなり”の女しか居ないと。


「詐欺かよっ!」


 取り調べ中、事情が分かった俺はそう叫んでいた。

 俺が股の間を強打されたあの事件は、ここの世界からすると当たり前らしい。何故なら“ふたなり”状態――この世界流に言うならば“抜刀”状態になるのはこの世界では成人女性が性的な興奮状態にある時のみ。

 あんな日中の往来で“抜刀”状態だったと言うのは、それ即ち強姦未遂者と言うことらしい。そしてそんな強姦未遂者を割り出す為に職質的な感じに股を強打する権利がこの騎士サマ達には与えられているんだとか。


 そしてそんな強姦未遂で捕まった奴は今後しばらく股のもっこりが分かるものの着用を義務化されるらしく、もっこりさせるしかない俺の人生は終わった、というわけだ。

 これが俺の当たり前だと必死で伝えたことで最初は聞き入れてもらえなかったが何をどうしても“抜刀”状態でいる俺に困惑し、そこまで言うならと神殿に連れて来られたのが今だ。



「それは…………どうするべきなのでしょう? 例えそうでもそんな状態の者を堂々と街に放つことは出来ません」

「そうなるでしょうな。だからと言って本人に罪がないのに罪人のように扱うわけには参りますまい」


 お、解放されるフラグ?

 と本来なら喜びたいところだけど、騎士サマが言うように俺街を歩いたり出来ないんだよな。

 また強姦魔だって騒がれるのが目に見えてる。何せ騎士サマ曰く目がいやらしいらしい。股を強打しなくても顔を見ただけで強姦魔だと分かるとまで言われてしまった。


「呪いはどうにもならないのでしょうか」

「呪いの元が分かるのが一番良いのですが、本人は産まれた時からこうだと言っていたとのことですから難しいでしょうな」

「ではどうにもならないということでしょうか」


 こんな強姦魔体形の奴をどうすればいいのだろうとこいつらは本気でそう思っている。

 俺が世に放たれたら、強姦を犯しまくるのではないかと本気で戦々恐々としているのだ。


「いえいえ、そういうわけではございません」

「!! 何か方法が!?」

「はい。呪いはどうしようもないでしょう。しかし、神がお許しになれば清き体になれる可能性がないとは言い切れません」

「!! なるほど。禊を行わせるのですね!」

「はい。勿論出来ると確約は出来ませんが、可能性は0ではないかと」

「ありがとうございますっ」


 良く分からないけど、助かりそうだ。

 俺もホッとした。


「ただし、問題が一つあります」

「何でしょう?」


 騎士サマは俺をどうにか出来るなら問題の一つや二つどうとでもして見せるとでも言いたげな表情で明るく問う。


「この方を受け入れて下さる修道院が存在するか分かりません」

「あっ……ああ……」


 にこにこしていた騎士サマが一変して絶望した顔をするのを見て、再び俺の未来が閉ざされたのを感じた。


 しかし、俺が修道院というところで禊を行うという手しかないことも事実らしい。

 教会の一室に軟禁されながら、俺を受け入れてくれる修道院を探すということになった。


 因みに禊と言うのを行っても当然のことながら“抜刀”状態が治るわけがない。清き体と言うのもどうも性欲を断絶して悟りを開かせるみたいなそんな感じのことらしい。

 つまり、無理ということだ。


 マジでどうしてこうなったんだろう。

 ただ俺は男子高校生のリビドーをどうにかしたかっただけ。

 普通の欲求だろ?

 だというのに……何が悪かったんだ……。



 部屋から出してもらうことも出来ず、日に2回の食事が差し入れられるだけで寝るくらいしか出来ない日々を送っていた。

 部屋の前で監視している人も俺には近づきたくないらしく、話し相手にもなってくれない。どうもこの世界は性的なことにかなり厳しいらしい。女だけだからだろうか。


 せめて暇つぶしに本とかないかと言うと、教会の経典を差し入れされた。

 うん、そうなるよな。

 まあ、死ぬほど暇な俺は読んだのだが。


 そんな不健康な生活を続けていると、まさかの1ヶ月程で出して貰えた。

 正直死ぬまで軟禁かと諦めかけていたので、ビックリした。



 そうしてまた牢屋状態の馬車に乗せられ、厳重な警戒態勢のままどこかに連れていかれた。多分俺を受け入れてくれる修道院が見つかったのだろう。

 誰も教えてくれないから推測でしかないんだけど。


 つか、見る人見る人良い女なのにめちゃくちゃ警戒心を露わにしているか、嫌悪感を隠さないかのどちらかなのは精神的にくるものがある。

 天国のような世界なのに、俺はその輪の中に入れないこの苦しさ。もう泣きたかった。


 馬車に揺られてどれくらい経っただろうか。

 ある日突然着いたと喜びあっているのに気付いた。

 俺と言う爆弾を手放せて、こいつらは本気で喜んでいるのだ。なんという切なさ。


 だが、俺を受け入れてくれた修道院!

 ここなら、ハーレムを築けるかもしれない!

 いや、例えハーレムなんてなくとも良い。

 ただ俺を一人の人間として見てくれるならもうそれだけで感激だ。


 期待に胸を膨らませ、修道院に入った。


「あら、いらっしゃい」

「君がシン君ね。中々可愛らしい顔してるじゃない」


 大歓迎してくれた。

 俺のことも分かった上で受け入れてくれたのだ。全く警戒心を露わにすることなく、嫌悪感を見せることなく、ただただ笑顔で迎え入れてくれた。物凄く嬉しかった。


 挙動不審になりながら俺を引き渡す奴らより一層美人に見えた。女性は笑顔だと言う言葉の意味をこの時ほど理解したことはない。

 いそいそと帰って行った奴らのことなんて全く気にならなかった。


 俺はこれからここで生きていくんだ。唯一この世界で俺を受け入れてくれたここが俺の居場所だ。

 マジで心からそう思った。



 だけど、そんな上手い話があるわけなかったのだ。


「あら、ここも可愛らしいのね」

「本当にxxxがないわ」

「あら、こっちはあるのだから楽しめるわよ」

「それより誰がこっち使うの?」

「生えているのに新品だなんて不思議よね」


 真っ裸の俺に群がる女たち。

 言葉だけならハーレムのように思えるかもしれないけど、断じて違う。


 何より女たちの股間に反り立つソレがもう恐怖しか呼び起こさなかった。


 違う、逆なんだ。

 俺が望んだハーレムはこれじゃないんだ。


 そうだ。

 おい、邪神っ!

 クーリングオフを申し出るっ!

 今すぐ転移をやり直させてくれっ!!


 こんなハーレム、俺は断じて認めねええええ!

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