第37話 北の師団は薄氷の勝利を喜ぶ暇もなく、最後の戦いに向けて準備に忙殺されました。

ノルディンの大軍が後退して戦いは取り敢えず終わった。

しかし、マーマレード軍にとっては戦神シャラザールの来臨によって辛うじて掴んだ薄氷の勝利だった。最後は圧倒していたが。

ノルディン軍は占拠していたマーマレードの要塞も放棄。そのまま北の砦に引き上げていた。

マーマレードにしても戦力の多くが失われており、それ以上進撃することは出来なかった。

と言うか、シャラザールがいきなりいなくなったのだ。シャラザールのいた跡には気を失ったクリスとウィルを背負った帝国の王子のボリスが取り残されていた。


ボリスに対する聴取も行われたが、第2師団特殊中隊をほとんど一人で殲滅したクリスが魔力切れで、倒れていたので、助け起こしたらそこにはクリスではなくてシャラザールが現れたとのことだった。

それがどのような摂理かはザクセンには理解できなかったが、多くの目撃者があるようにそのシャラザールが帝国の兵士の大半を倒してマーマレードに勝利をもたらしたのは間違いなかった。


ザクセン達に合流したグリフィズも落ち込んでいた。士官学校の先生として引率していた残り19名の先生役の騎士は皆死んでいた。200名いた生徒達も100名強が戦死。ノルディン軍によって虐殺されたと言って良かった。自分の能力の殆どを傍にいた30名を隠れさせて助けることしか出来なかった。

もっと多くの生徒を助けられたはずだった。


「何を落ち込んでいる。グリフィズ」

ザクセンがそのグリフィズに声をかけた。

「師団長。見てもらったとおりですよ。生徒達の半分以上が殺されました」

「ひよっこ引き連れてノルディン最強の第2師団第一特殊中隊と第4師団を粉砕したんだ。生き残っているだけでお手柄ではないか」

「はあああ、何言っているんですか。私は生徒と隠れていただけですよ。他の多くの生徒が虐殺されていく所をただ見ているしか無かったんです。特殊中隊と第4師団を粉砕したのはシャラザールですよ」

グリフィズは叫んでいた。


「それは士官学生の精鋭1班をこちらが援護にもらったからだろう。王女殿下の班が残っていたら特殊中隊もそこまで好き勝手には出来なかったさ。貴様らももっと余裕をもって逃げられたはずではないか。おかげでこちらは死神師団と残虐師団に襲われても三分の一が何とか生き残った。王女がいなかったら、おそらくキャラザールが来る前に殲滅されていたよ」

「そうじゃ。グリフィズ。うだうだ悩んでいる暇はないぞ」

そこには王都から転移でやって来たジャルカがいた。

「ジャルカ様」

「二人にはすまんことをした。ノルディンの侵攻を読めなかった儂の失敗じゃ」

ジャルカが頭を下げた。

「いえ、こちらこそ、戦神シャラザールの情報を前もっていただいていながら、有効活用できませんでした」

「戦神シャラザールの情報ですか」

ザクセンが聞く。

「そうじゃ。王家に伝わる伝説での。マーマレードの危機にわれ再び蘇るという言い伝えがあったのじゃ」

「そうですか。今もクリス様には憑依していらっしゃるのですか」

「そうじゃ。敵のノルディンにも邪神がついているようじゃ。何としてもシャラザール様には邪神を退治していただかなくてはなるまいて」

「可能なのですか」

グリフィズが聞く。

「お主見ただろう。あの圧倒的なお力を。私は女帝シャラザール様がいかにお強いか初めて知った。

シャラザール様のお力さえあれば残虐王子も赤い死神も怖くない」

ザクセンが答える。

「赤い死神など、お主の師団とジャンヌ王女で何とかなろう。残虐王子もシャラザール様のお力であれば」

「瞬殺でした。まだ残虐王子は生きているのですか」

「怪我をしているようじゃがまだ生きておるそうじゃ」

残念そうにジャルカが言った。


「まあ、ジャルカ様がいらっしゃれば残虐王子もなんとかなるのではありませんか」

グリフィズが言う。クリスがそもそも残虐王子にはジャルカで対抗できると言っていたのだ。クリスの見立てがおそらく正しいであろう。それに今は王都マーレから第一魔導師団が到着。それに高速船で、中央師団から援軍が続々ノザレに到着、次々とここ北の要塞に戦力は増強されつつあった。何とか2個師団の戦力となり、ノルディンとおそらく互角の戦力になっていた。

そして、クリスに憑依したシャラザールがいる。クリスは魔力の暴走で特殊中隊を一瞬で殲滅したのだ。魔術の訓練をすればおそらくジャルカを超えるのではないかとグリフィズも期待していた。

そのクリスにシャラザールが憑依していればたとえ相手が神でも勝てるのではないかとグリフィズは期待していた。

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