第10話 戦神は暴風王女ではなくお淑やかなクリスに憑依する事を望みました
「千年ぶりか。貴様が神とは知らなかったが」
シャラザールが嫌味を言う。
「私もまさかシャラザール様が神になられるとは思ってもいませんでした」
ジャルカも嫌味で返す。本来実体がないシャラザールは一般人には見えないのだが、神の端くれであるジャルカにははっきりと見えた。
「ふんっ。で、今回はゼウスに何か指示されたのか」
「滅相もございません。シャラザール様と違って、私めは神と言っても下っ端。ゼウス様など直接お言葉を交わすなど到底出来ません」
思わず、冷や汗を流しながらも平然とジャルカは言った。
「ふんっ。どうだか。昔からお前は平気で飛んでもないことを余にさせたからな」
「何をおっしゃいますか。予測もつかない事を平然とされていたのはシャラザール様ではありませんか」
シャラザールの言葉にも動じずにジャルカが返す。
「まあ良い。で、ゼウスの懸念は何だ」
「ゼウス様はあなた様が地界に干渉されるのを懸念されていらっしゃいましたが」
ジャルカも止む終えず、ある程度はバラす。
「元々余を叩き落としたのは奴ではないか」
「まあ、ゼウス様も直言の士のあなた様が邪魔だったのでしょう」
シャラザールの文句に平然とジャルカも言う。
「で、貴様の目的は何だ。この領地も色々問題はあるようだが」
「まあこんな伯爵領など、シャラザール様のお力を借りずとも我々の現状戦力で何とでもなります」
「何だと。その方は余が邪魔だと申すのか」
いかにもつまらなそうにシャラザールが言う。
当然手伝ってほしいとか頼まれるものと思っていたのに、手を出さなくて良いとはシャラザールにとって全く面白くはなかった。
(おいおい元々帝国の皇帝だったんだろう。こんな些細な事は部下に任せておけよ…)
とジャルカは何度言いそうになっただろう。そう、シャラザールは不正に対しては絶対に自ら手を下したがったし、面白いことに自ら首を突っ込むのはジャンヌと全く同じだった。
「そうは申されても、ジャンヌ様もクリス様も貴方様のご子孫はとても優秀で御座いますぞ」
「まあ、余の血を引き継いでおればそうなることもあるが……」
「それよりも懸念はノルディン帝国です」
「あの北の蛮族か」
「あそこにはあなた様が地上に叩き落されたマルス様とアフロディーテ様がいらつしゃいます」
「ゼウスの出来損ないの子供達か」
シャラザールにかかっては戦の神も愛と美の女神も形無しだった。
「お二方は地上で生まれ変わって既に四十年。着々と悪巧みを実行していらっしゃいます。
このまま行くとあなた様のご子孫のいらっしゃるこの国も危ないかと」
「気にするなジャルカ。その時は余が目にもの見せてくれるわ」
ジャルカの懸念にはっきりとシャラザールは応えた。
「しかし、マルス様の魔力量は多く、シャラザール様も下手な方に憑依しても勝てぬかと」
「何。ジャルカ。貴様余が負けるとでも」
ジャルカの懸念にきっとしてシャラザールが言った。
「いえいえ、まさか無敵の戦神シャラザール様が負けることなど無いと存じ上げておりますが、万が一と言うことも御座います」
「ではどうすれば良い」
「憑依するならばシャラザール様のお血を継いでおられる方にして頂けたら、今以上に強力なお力になるかと」
「余の血を引いているものとな。例えば貴様が連れてきたクリスとか言う者か」
「左様でございます。戦闘ということに特化するならばジャンヌ様ですが」
「あのようながさつな者が余の子孫とな」
「ガサツでございますか」
シャラザールの残念そうな声にジャルカはよく判らなかった。ジャンヌの姿はどう見ても千年前のシャラザールそのままだ。何しろ儀礼など、その辺りの魔物の餌にでもしろと全く気にしなかった御仁だ。ジャンヌのあの飲みっぷりと言い、ガサツな態度と言い千年前のシャラザールを見るようだった。
「余はあそこまでひどくは無かったと思うぞ。どちらかと言うとクリスティーナに近かったであろう」
シャラザールの言葉にジャルカは絶句するしか無かった。
シャラザールの部下が1万人いれば1万人ともジャンヌの方が似ていると言うだろう。
というか、天界の神々に聞いても誰一人としてクリスに似ているなんて言う者がいるはずはなかった。
「ジャルカ。なにか言いたいことがあるのか」
「いえ、シャラザール様がそう思われるならそうでしょう」
ジャルカは言うのを止めた。ゼウスの希望はクリスなのだ。ジャンヌには絶対に憑依させるなと言う命令にも従うことになるし、言う事はなかった。
でも、心の中では叫んでいた。
「絶対に違うだろ!」
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ここまで読んで頂いてありがとうございます。
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