第2話・ラスト


「きゃあぁぁぁぁ!!」

 ボクがキッチンに行くと、割れた食器の近くに青ざめた顔で座り込んでいる婚約者の姿があった。

 恐怖で震えている、婚約者の両肩にボクは、両手を添えて訊ねた。

「どうした?」

 婚約者の彼女は、U字首シャツの襟を指で広げ下げて、鎖骨の辺りをボクに見せた。

 首にゾンビ色をした染みが広がっていた、ウィルスはいつの間にか、室内にも侵入していて婚約者の体に感染していた。

 婚約者の体を抱き締めたボクは思わず、叫んでいた。

「ずっと一緒だ! 朽ちた骨が二人の心臓を貫くまで!」

 そして、ボクもゾンビ化ウィルスに感染してゾンビになった。


 ボクと婚約者が感染者になって、どのくらい経過したのかわからない。

 ラジオやテレビから、人の声が聞こえたり、人の姿を見るコトは滅多に無くなった。

 思考する力も薄れ、ただ朽ちるままに家の中に備蓄してあった食糧を漁る日々が続いていた


 思考力が低下して、肉体が朽ちていくだけの毎日、未来へ希望が持てない毎日。

 ボクと彼女の思考力は著しく低下していく………ゾンビウィルス感染の末期だった。

 そしてついに蓄えていた食糧が底をついた。

 彼女がボクの腕に噛みつき、肉をくらいはじめた。

 腕の骨が見えても痛みは感じなかった──ボクも彼女の頭にかぶりついて、砕けた頭蓋骨の隙間から彼女の脳ミソをすする。

 ボクの腕の肉を口で引きちぎる、彼女から言葉が聞こえてきた。

「うぅ………あい………している………うぐっ」

 それが、婚約者の人間として最後の言葉だった。


 ボクも必死に………しゃがれた声で………微かに残っていた思考力で………彼女に向かって、人間として最後の声を発した。

「ぅうぅぉ…… 朽ちた骨が……二人の心臓を貫くまで……うごぁぁ」

 互いの肉を喰らい、骨をしゃぶるボクたちの心は、恍惚とした幸福感に満ちていた。



 そして、無能な国の指導者の危機感がなく国民に自粛を求めた数時間語に平気で会食をして、メディアに開き直りの言い訳をする指導者たちの。

 体面ばかりを重視する後手後手のゾンビウィルス感染症拡大防止対策は、ことごとく裏目に出て。


 感染症拡大防止と経済再建の反する気の緩んだ矛盾政策で、結果的にゾンビウィルスで爆発的に国内感染者数は増えて。


 開催が計画されていた、世界的なスポーツイベントは見栄と建前から赤字前提で開催され、規模を縮小した国家予算を使った、でっかい体育祭と 揶揄やゆされながら莫大な赤字開催で負債だけが国に残り。


 国の指導者は体調不調の疲労から退職して──この国は人口の半数以上がゾンビウィルス感染者国となり。

 早々に開発されたゾンビウィルスワクチンの国民接種を実行してきて、感染拡大を抑えた成果の出ている各国から。

 ボクの国は渡航禁止の『国家閉鎖』をされて……滅亡した。



【朽ちた骨が二人の心臓を貫くまで】~おわり~


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朽ちた骨が二人の心臓を貫くまで〔ゾンビホラー〕 楠本恵士 @67853-_-

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