第3話

翌朝、悲しいことに父から置き手紙があった。

『母さんは死んだわけではないです。ただ、植物状態です。行きたくなかったら学校行かなくてもいいです』

「現実じゃん…」

夢では、なかったようだ。でも、母さんは生きてる…っ!

よし、母さんが目覚めた時のためにちゃんと学校に行っておこう。

またビスケットをかじり、いつもの朝のように支度する。

「いってきます」

ひどく疲れ切った声で、そう言って、学校に向かった。


『橋本ゆうきは、元いじめ首謀者』

『病院で大暴れ』

…は?なんだこれ。教室に入った瞬間目に飛び込んできたものにコトバを失う。

教室に入ると、アイドルの話をしてきた奴が謎の子分を引き連れてやってきた。

「おいおい、お前、昔いじめしてたんだってなあ?」

「なのにこんなとこでいい子ちゃん演じてんのかよ?」

「最っ低だなあ?」

酷いコトバが飛び交う。なん、で、バレたんだ…?

「ていうかあ〜?病院で暴れるとかやべえじゃーん?」

「それな〜ww」

「お前、前からウザかったしなww」

「消えれば?」

「ほんとだ!消えろ消えろ〜w」

一気にクラスメートに伝染する。


消 え ろ 消 え ろ


はは…。僕、もう社会的に無理な感じ…?

「…ちょっとっ!?」

バンっ

机が叩かれた。

シィ…ン

「な、なんだよ西本」

たじろぐあいつ。

「…あんたこそ、イジメじゃん。さいってーじゃん。無理」

つかつかと僕の方へ向かう彼女。

「行こ」

昨日と同じ、温かい手でひっぱられる。

「あ…」

僕は屋上に連れて行かれた。



「…大丈夫…?」

「う、ん…。ごめんね、がっかりさせちゃったよね…」

「…あれは、事実?」

「…そう」

何故だか彼女の前では嘘を吐けなかった。

「それは…ひどいね。ゆーきも、最低」

「うん…。知ってる。だから、いい子に、なりたかったんだよ」

あ、れ。こんなに、素直に、話せてる…。なんで…。

「…でも、ゆーきより、あいつの方が、最低」

「ううん、同じ、だよ…」

「…」

沈黙。

「…あたし、うじうじ話聞くの、嫌いなの」

そりゃ、こんな話、彼女は聞きたくないだろう。

「だから、これ、あげる」

突き出されたのは葉っぱの形の、キーホルダーだった。

「…何、これ」

「…昨日、話してたキーホルダー。もらって」

手のひらに押し付けられたそれは。

「『Live for me 』…?」

「そう。オリーブの葉と、その文字を焼きつけたレジンっていうやつ。あたし、それ作るのすきなんだ」

すごくきらきらとしていて、まるで出会った時の彼女の瞳のようだった。

「自分のために、生きろって、こと…?」

「そう」

さっきからそう、しか言わない彼女を見やる。彼女はまっすぐと青い空を見上げていた。

「ゆーきは、自分を押しつけて、自分じゃない自分を、作ってる、って感じたんだ。だから何をいっても、誰が言ってもコトバが届かない。だから、本当の自分を出してあげて。自分のために生きて」

『ゆうきは、自分のために生きて』

母さんが小さい頃に僕に言ったコトバと、同じ…。

不思議な感覚に駆られ、黙りこくる。

「…どう、なのよ?なんか言いなさいよ」

まっすぐ、彼女を見つめる。

「うん。ありがとう。すごく、いいと思う」

心からの、感想を伝える。

「あっ…」

「え?」

「今の笑顔、不器用で、変、だけど、心から微笑んでた…っ!」

思わず頬をさわる。

「そう、かな」

「うん…!あたし、嬉しいなっ!」

彼女の笑顔はとびきり、きらきらしていて、素直だと、感じた。

「…ありがとう、ほのか。これからも、一緒に、いてくれる…?」

なぜか、そんなコトバがでてきた。えまって、恥ずかしくないこれ?!

「…っ!!もちろん!あたしは、これからもゆーきの味方なんだから!」

にっこり笑って走り寄る彼女に見惚れていた。


ちゅっ


「…っはぁっ!?」

「えっへへ?すきあり〜」

「ばかっ!!」

そうだね、母さん。僕はあなたに喜んで欲しくて、いい子になろうとしてた。けど、あなたの本当に喜ぶことは『僕らしく、生きること』なんだね。ほのかのおかげで、気づけたよ。ありがとう。僕もこれから色々としんどそうだけど、頑張ってみる。だから、母さんも頑張って目を覚まして。

「ゆーきーっ!一時間目始まってるし、サボんなーいっ?」

「…うんっ」

回り道かもしれなくても、ね。

そんなポエマーじみたことを考えながら、そっけない鍵にそっと、ほのかからのキーホルダーをつけてのんびりと見上げた空の、とても青かったことと、きらきらしていたことは、1番の、思い出。

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