第5話幸福がカエル
女の子にはカエルの置物を渡したのでアルド達の頼み事は終わり、あとはエイミの頼み事だけが残った。
解決の手掛かりはザミにある可能性があるということだったのでさっそく向かうことになった。
海ノ国ザミには次元戦艦で向かった。
本当にザミの住人なのかそれならいいなと思いながらもたどり着いた、この場所は相変わらず、波がよせては引いてを繰り返していた。
いつ来ても穏やかな国だなと思った。
いや穏やかすぎるとも思った。
ラトルでは商人がいなかったときはかなり騒ぎになっていたというのにザミは穏やかで静かだった。
もし本当にここの住人が行方不明になっているのならばもう少し騒ぎになるはずなのにまったくもって普段と変わりなかった。
「もしかして空振りかな?」
「とりあえず、話を聞いてみるでござる」
「いや、その前にこの服がザミのものかどうか確認したほうがいいかもしれない」
「確かにこれがザミの服だとわかればあの人の故郷はここの可能性が高いものね」
アルドが提案したとおりにあの服をアルド達の近くにいたこの国の男性に見せると
「それは確かにこの国の服だね、ただ見慣れない刺繍がしてあるね」
「刺繍?」
「そう、その刺繍以外はこの国の服だね、まあ刺繍をすることはよくあるから当人の趣味じゃないかな? それにしてもなんで君達がこんな、ぼろぼろの服を?」
「実はこの服の持ち主が記憶喪失でどこの誰かわからなくてさ、どこの誰か調べるた
めに探していたんだ」
「うーん、そういうことか……最近誰それがいなくなったとかは聞かないなぁ、でももしかしたらまとめ役なら何か知っているかも」
「その人はどこにいるんだ?」
「この国の奥の大きなお屋敷にいるよ」
「わかった、教えてくれてありがとうな!」
「気を付けて行けよー」
親切な人に教えてもらい、アルド達はまとめ役のところに向かった。
向かう途中で見る、この国は本当に穏やかだった。
「しかし本当に騒ぎになっていないな」
「まあ住民が行方不明となると騒ぎが大きくなる可能性もあるから秘密にしている可能性もあるし、先程の男性の言葉の通りにまとめ役のところで聞くのは間違ってはいないでござろう」
「何かわかればいいけど」
「そうだよなぁ」
そんな風に話をしていると無事にまとめ役の家と思われるところについた。
ここも周りと何ら変わらない感じだった。
望み薄かなぁと思いながらも家の中に入った。中には年老いた男が一人いた。その老人に挨拶するために口を開いた。
「いきなり、訪問して申し訳ない」
「……旅の方か」
穏やかだが、決して友好的とは言えない声色でアルド達に言葉をかけてきた。
「はい、旅の剣士のアルドと申します。後ろにいる女性はエイミ、カエルはサイラスといいます。この国にまとめ役と聞き、聞きたいことがありまして来ました」
アルド達を見つめて、害がないと判断したのか幾分か柔らかい空気になった。
「何を聞きたいんだ?」
「この服の持ち主について聞きたくて、なにかわかりますか?」
「この服は!?」
服を見せた途端、老人はぼろぼろと涙を流した。
「どうしたんだ! おじいさん!?」
老人は答えず、ずっとぼろぼろと涙を流していた。
アルド達はどうにもすることはできずただ老人が泣き止むを待った。
しばらくすると老人が泣き止んだので恐る恐る話しかけた。
「あの大丈夫ですか?」
「ああすまなんだ、見苦しいところを見せた」
「それは大丈夫ですが、いったいどうしたんですか?」
「実はその服はな、15年前に西の大陸に行くといって行方不明になったせがれの服じゃ」
驚いて声が出なかった。その様子に特に気にするでなく老人は続ける。
「この服の刺繍はわしのなくなった妻がした模様じゃ、この国でこの刺繍をするのはわしの妻だけじゃった、……あんた達、息子にあったのか?」
それになんと答えようかと考えたが、正直に答えた。
「あなたの息子かどうかは確証は持てません、何せ記憶喪失だったので」
「そうか、そうだったのか……」
老人はつぶやいた後、近くにあったタンスに向かい何かを探していた。
しばらくするとその何かを見つけたのかアルド達のところに戻ってきた。
「旅の方、この手鏡をせがれと思しき人に渡してくれまいか?」
「確証がないのにいいのか?」
「よいのです、妻の最後の望みが死んだら自分の形見をせがれに渡してほしいということでしたので、だから可能性があるのならば妻の最後の願いをかなえたいのとそれで記憶が戻ってくれればという思いもあります」
「わかった、渡すよ」
「旅の方、ありがとうございます」
老人はまた泣きながら頭を下げた。
アルドは泣いている老人を一人にできなかったので泣き止むまで傍にいた。
アルド達はエルジオンに来ていた。
老人が言ったように手掛かりを記憶喪失の男性に手渡すためにだ。
「……これで記憶が戻って、あの人のところに帰ったらハッピーエンドなんだけどなぁ」
「そうなるといいわね」
何とも言えない雰囲気のまま、エイミの実家であるイシャール堂に向けて足を進めていた。
何事もなくイシャール堂についたのでそのまま中に入った。
中に入ると件の男性とエイミの父ザオルが一緒に作業をしていた。
作業中に声をかけるのはどうかと思ったがエイミは声をかけた。
「お父さん、あの人の故郷と思われる場所がわかったのよ」
「なにそれは本当か!?」
「あくまで思われるだからね」
「それでもよかったよ、やっぱり故郷があって自分がわかるのならそれにこしたことはないし、知り合いが多いほうが記憶が戻るかもしれないし」
「そうね、それで込み入った状況だから落ち着いて話したいんだけど、かりて行っても平気?」
「ああ平気だ、あとは仕上げだけだからな」
「ありがとうお父さん、じゃあ奥の部屋で話してくるね」
エイミ達は男性を連れて奥の部屋に向かった。
男性は少し緊張した面持ちでエイミに話しかけた。
「それで本当にわかったのですか?」
「うん、まあね、でもその前にこれを見てほしいの」
エイミは手鏡を男性に渡す、男性は懐かしいような悲しいような表情になった後、はっとした表情を浮かべてそのまま真顔になった。
「……思い出しました、ここは私がいたところよりもはるかに遠いところなのですね」
男性はどこか遠くを見るようにつぶやいた。
「ああとても遠い場所だ」
詳しくは言わなかった。言ってしまえば男性は混乱するだろうしこちらもうまく説明ができる気がしなかったからだ。
「ああだんだんと記憶が頭に浮かびます、私は15年ほど前にザミで漁師をしていました、いつもいつも見る海の先には何があるのだろうかそんな思いを抱えて生きていました。だから15年前に外の世界を見るんだと言って飛び出しました。その時、親父と大喧嘩をしてもう二度と帰らないと言ってしまった……親父、お袋元気だろうか」
「あんたの親父さんはあんたが生きていると聞いて泣いていたよ、お袋さんは残念ながら亡くなっていたよ」
「こんな俺のことをまだ心配してくれるなんて……親父、そして死に目にも会えず、墓参りもしない親不孝な息子でごめん、お袋」
「会いに行ってあげてはどうでござるか? 会えばきっと安心してくれるでござるよ」
「……いつか会いにいくよ、でも今はまだその勇気がでない、それにまだ会いに行かないといけない人達がいる、妻と娘に会いに行かなくては、申し訳ないが連れて行ってくれないかアクトゥールに」
「アクトゥールに?」
どうしてアクトゥールなのだろうかと思っていると男性は説明をしてくれた。
「飛び出して、そのままミグレイナ大陸にたどり着いたんです、そしてアクトゥールにてある人と出会い恋に落ち、そこで結婚して娘が生まれたんです、そして二人を養うためにも毎日漁に出ていたんです」
漁に出ていて時空の穴に飲み込まれて未来にたどり着いたのか、そしてそのショックで記憶を失ったのかと思った。
それならば自分達が送るほうが確実に帰れるだろうと思った。
エイミもそう思ったようで
「任せて!ちゃんと連れて行くわ!」
と声を張り上げて言った。
「ありがとうございます」
男性はここで少し黙った。
「名残惜しいですがザオルさんにお別れを言わなければなりませんね」
男性はゆっくりとこの部屋から出て行き、記憶が戻ったことを伝えようとしたがその必要はなくザオルはこちらの部屋に来ていた。
「その顔は帰る場所を思い出したんだな」
「はいおかげさまで」
「そうか、それならよかった」
そういいながら彼は一本の短剣を手渡してきた。
「これは?」
「快気祝いの選別だ、売るもよし、使うもよし好きにしてくれ」
「……自分はザオルさんに拾われてよかったです」
「大げさな、まあ元気でやれよ」
「はい、お世話になりました!」
男性の晴れやかな表情に本当に良かったとアルド達は心の底から思った。
次元戦艦に男性を乗せてアクトゥールについたアルド達は男性の家までそのまま送っていった。
「何から何までありがとうございました」
「よかったよ、本当に帰るべき場所が見つかって」
「ええ本当に助かりました、後日お礼をさせてください」
「お礼なんていいよ、それよりも早く家族に顔をみせてあげないときっと心配しているだろうし」
「そうですね……」
男性が家の中に入ろうとしたとき後ろから声が聞こえた。
「お父さん?」
その声に男性は振り向いた、そこにいたにはあのカエルの置物を渡した女の子だった。
そのことにアルド達は目を大きく見開いて驚いた。
どうやら記憶喪失の男性はあの女の子の行方不明だった父親だったようだ。
女の子は自分の父親が帰ってきたことを確認すると持っていたものをほおりだして走り、抱き着いた。
その顔は嬉しそうに笑いながら泣いていた。
本当に良かったと笑いながら、親子水入らずの再会を邪魔するのも悪いなと思ったのでその場から離れた。
そしてラチェットにいい報告ができそうだとも思ったアルド達であった。
その足でパルシファル宮殿に向かったアルド達はラチェット探していた。
ラチェットに言われたとおりに事の顛末を伝えるためだ。
珍しくいつもの場所にいなったのでうろうろえと探しているとあちらから声をかけてきた。
「あらみんなどうしたの?」
「ラチェット! 探していたでござるよ」
「もしかして事の顛末を教えに来てくれたの?」
「そうでござるよ!」
そういって事の顛末を話すと嬉しそうに言った。
「ふふふ、カエルの置物のおかげで幸福が帰ってきたわね」
「そうでござるな」
「カエルの置物ってそんなに縁起がいいものなのか?」
「らしいのよ、本当に東方って不思議な国よね」
「いい国でござるよ」
サイラスは自慢げに顔を膨らませた。
ある日、海ノ国ザミのまとめ役の家に一通の手紙が届いた。
宛名は老人の名前になっており、老人は見たことのある筆跡にまさかと思い丁寧に封を切った。
過去に対する詫びといつか家族を連れて会いにいくよという内容でさらに
あの男性と寄り添う女性そして近くにはカエル置物を持った女の子が描かれた絵が入っていた。
それをみて老人はうれし涙を流したのであった。
そしてそれから少しして老人のもとには仲睦まじい家族が遊びに来たらしいという話だった。
カエルものカエル場所を探して @akari615
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