第4話頼まれごとはなんですか?

アクトゥールに戻ったアルド達は待ち合わせの場所である酒場に向かった。

ゆっくりと酒場に入るとまだエイミは戻って来ていないようだった。

「よかった、間に合ったみたいだな」

間に合ったことに安堵したが後ろからの声で間に合っていないことは明白だった。

「まったくもう、間に合ってはないわよ」

ものすごく怒っているというわけではないが少し不機嫌そうに呟いていた。

エイミを待たせてしまったのでアルド達は頭を下げた。

「エイミ! 待たせてごめん」

「すまんでござる」

「時間も決めてなかったからそこはいいのよ、別に、ただ別の場所に行くのなら行っておいてほしかったわ、いないから何かあったのかと心配していたんだから」

「心配かけてごめん、それでいなかった理由だけど……」

「それの理由は大丈夫よ、さっきまでラチェットと一緒にいて、おおむね聞いているから」

「そっかラチェットが……」

「してラチェットは?」

「まだ別の用事があるからっていうことで別れたわ、あとラチェットが終わったら報告してほしいって言っていたわ」

「承知したでござる」

「それでアルド達は無事に受け取れたの?」

「実はいろいろあって……」



アルドは今まで起きたことを説明した。

「それじゃあ、あとは商人が目が覚めないとだめなのね」

「そうなんだ」

「でもいつ目が覚めるか、わからんでござるよ」

「とりあえず、ラトルに行ってみましょう、もしかしたもう目が覚めているかもしれないし」

「そうかもな」

「目が覚めていないようでござったら、今夜はラトルにとまったほうが良いかもしれんでござるな」

そういったサイラスの視線の先は空で、日が落ちようとしていた。



完璧に日が落ちたころにラトルの商人の拠点に戻ることができたが、まだ商人は目が覚めていなかった。

しかたがなかったのでアルド達はラトルで一泊することにした。

幸いにも空きがあったのでそのまま宿をとり、今後のことについて話し始めた。

「カエルの置物は商人が目を覚まさないとどうにもならんでござるな」

「そうね」

「それは商人が目を覚ますまではおいておこう、問題はエイミの件だな」

「普通でもそういうのは難儀するのにさらに記憶がないというのは厄介でござる」

「それなんだけど、手がかりはあるのよ!」

エイミはそういって、服と小さい木の板を宿の備え付けの机に置いた。

「これは?」

「着ていた服と男性が倒れていた島に流れ着いていた板よ」

「服はどこかで見たような気がするけど思い出せないでござる」

「この板はなんなんだ?」

「クレルヴォいわく500年前に絶滅した木で作られた板らしいの」

「それが未来に?」

「だからあの人は違う時代の人なんじゃないからしらと思って」

「確かに」

「しかしそれがわかってもどうやって特定するのかが問題でござる」

「そうよね……」

「うーん、商人が目を覚ましたらこれらについても聞いてみようか、もしかしたら何かわかるかもしれないしな」

サイラスとエイミは同意をするように頷いた。

その他にも話をしたがこれ以上は進展が見込めないということになったのでアルド達は各自の部屋で眠った。



翌朝、奇跡的に朝早くに目が覚めたアルドは自分達がきたときのようなざわつく空気がなく、朝のひざしがまぶしい爽やかな朝がきたなぁ、と心のなかで呟いた。

朝が早いというのもありアルドはのんびりと支度をしていた。

その支度も終わった時、控えめにドアがノックされた。

「こんな時間に誰だろう? 」

まあ仲間の誰かだろうとあたりをつけてアルドは特に気にせずにドアを開けた。

開けた先にいたのは自分よりもいくぶんか下であろう少年がいた。

少年はかなり身綺麗な格好をしていた。

彼は丁寧に頭を下げた。

「朝早くに申し訳ございません」

「えっと、なんの用で、来たんだ?」

「はい、ネス先生が目を覚ましたので、貴方達に知らせたく参りました」

ネスとは商人の名前だ、探しに行く時に村の人が教えてくれた。

その商人が目が覚めたということで置物の件が解決するなと思った。

「本当か!」

アルドの問いかけに少年は言葉を続ける。

「はい、本当でございます。ご迷惑かと思いましたが、先生が旅の方ですから早いほうがよいだろうということで参りました」

「迷惑じゃないよ、知らせてくれてありがとうな」

アルドは優しい声で少年に言った、少年は少し安心したような表情の後、申し訳なさそうな表情で言葉を続けた。

「そして大変申し訳ございませんが先生がこちらまで来るのが厳しいということですのでご足労をおかけいたしますがこちらの拠点まで来ていただきたいのです」

「それは構わないけど、今から行っても大丈夫なのか?」

「その点は問題ございません、いつでも大丈夫でございます」

「わかった、できる限り急いで準備するから、先に戻っていてくれ」

「承知いたしました、お待ちしております」

少年は深々と頭を下げ、失礼いたしましたと言ってこの場から離れた。

アルドは少年を見送ったあと、同室であるサイラスを起こし、隣の部屋のエイミを起こしに行った。

エイミを起こすためにドアをノックすると中から声が聞こえてきたのでアルドは商人が目を覚ましたけど動けないから拠点に来てほしいといわれたという事実を伝えた。

「オッケー! あともう少しで準備が終わるから部屋で待ってて、終わったら向かうから」

「わかった」

アルドはそのまま部屋に戻った。



あの後、五分もしないうちにエイミはアルド達の部屋に来たのでそのまま、宿を出て商人の拠点に向かった。

商人の拠点にたどり着くと朝、宿に来た少年が家の前を掃除していた。

少年はアルド達が来たことに気が付き、掃除をしていた手を止めた。

「お待ちしておりました、先生が中でお待ちです」

きびきびとアルド達を先導する少年に案内されたのは商人を寝かした部屋だった。

少年は部屋の前でいったん止まるとアルド達に先に入るように促した。

アルドは部屋に入った瞬間驚いた。

この部屋には以前来た時にはなかった様々なカエルの置物が置いてあったからだ。

驚きのあまり口を開いたままの状態でいたら商人が口を開いた。

「まず、最初に本来であればこちらがうかがわなければならないところ申し訳ございません」

「いや謝らなくていいよ、足を怪我したんだし、無理するのはよくない」

無理をすると治るものも治らないということは知っているのでアルドは特に気にした様子もなく商人に言った。

「お気遣いありがとうございます」

商人は頭を深く下げた後、姿勢を正し、はっきりとした口調で言葉を話す。

「改めまして、ご挨拶をさせていただきます。はじめまして、自分はラトルの村を拠点にしています、ネスと申す商人です。この度は助けていただきありがとうございます」

「気にしないでくれ、それよりも無事でよかったよ」

「ええ命あってのものだね、ですからね」

商人は穏やかに笑った後、真剣な表情を浮かべた。

「さて商品の件なのですがラチェットさんが望んでいた品物であるカエルの置物はこちらです」

ネスは言いながらこの部屋にあるカエルの置物を一つアルドに手渡すように最後に入ってきていた少年に告げた。

「こちらをお持ちください」

手渡されたカエルは顔つきが凛々しく、勇ましいポーズしているカエルの置物だった。どことなくサイラスに似ている気がする置物だった。

「ありがとう助かったよ、それでいくらだ?」

代金を支払おうとしたがネスは首を横に振った。

「代金は結構です、助けてもらったのですから」

「しかし……」

「気になさるということでした今後ともご贔屓にしていただければ結構ですよ」

「……わかった、ありがとう。ネス」

アルドは受け取った置物を持ってきたカバンに詰めた。

詰めた終えた後、もう聞きたいことのために口を開いた。

「それでまだ本調子じゃないだろうけど聞きたいことがあっていいだろうか?」

「ええ大丈夫ですよ、命の恩人ですからあなた達は」

アルドは手掛かりとなる服とをまずネスに見せた。

「この服なんだけど、どこのものとかわかったりしないか? 」

「詳しく見せてもらってもいいですか?」

アルドは服を手渡した。

服を受け取った彼はまじまじと確認したあと、少しうなった後、心当たりが浮かんだようでアルドに服を返した。

「断定はできませんが、東方の海ノ国ザミの服に似ているような気がします。私自身は東方にはいってはおりませんが仕入れ先の商人に見せてもらった記憶があります」

そういわれてアルドはザミに住んでいる人達の服装を思い出す。

確かにこれに似た服を着ていたような気がした。

だから見覚えがあるのかと納得した。

やはりあの男性は別の時代から来た人で自分たちの推測は間違っていなかったと改めてわかって少し進展がして安心した。

「なるほど……」

「確証がないのですが大丈夫ですか?」

「まったく手掛かりがなかったからさ、少しでも手掛かりが手に入ってよかったよ」

「それならばいいのですが……」

「あとこれについても何かわからないか?」

「これは何かの板?」

「そうなんだ、この板というか木が何に使われるものかわかったら教えてほしいんだけど」

ネスは受け取ると木の板を撫でまわす。しばらくするとその手を止めた。

服とはちがってこちらは断言した。

この商人はもしかするとこちらの商材のほうをよく扱うのかもしれない。

「……そうですね、こちらは船を造る際によく使われる木ですね」

船の材料になるのならば、ザミの国で漁師をやっていた可能性が高いなとアルドは思った。                                        

「そうか、ありがとう助かったよ!」

「いえ少しでもお役に立てたのであればよかったです」

アルドは、これ以上病み上がりの商人に無理をさせるわけにはいかないと思い、宿に帰ることにした。

「それじゃあ俺達はそろそろ行くよ」

「はい、またのご利用をお待ちしておりますね」

彼は最後に商人らしく笑顔でアルド達を見送った。

部屋を出た後は少年に声をかけた。

「君の先生は病み上がりなのに長々とごめんな」

「気になさらないでください、先生は元気も取り柄ですから」

「そういってもらえると幾分か安心できるでござる」

申し訳なさそうなアルド達と対照的に少年の様子はとくに変わりなかった。

その少年はそのあとに何か注文の追加があればうけたまわりますよと付け足した。

それにアルドは驚いた、病み上がりなのにもう働こうとするとは商魂たくましい商人である。だが少し気になるのでアルド大丈夫なのかと聞いた。

「えっと、大丈夫なのか?」

「はい時間はかかりますが、せっかく来てくださったお客様ですし注文は極力受けるようにと先生に言われていますので」

それならばとアルドは少年にラチェットの追加の注文を伝えた。

少年は元気よく、うけたまりましたと言った。

アルド達は少年に頼んだと言った後にこの場から離れた。


無事にカエルの置物を手に入れたアルド達はアクトゥールに向かった。

あの女の子に渡すためだ。

すこしでも父親の件の傷が癒えたらいいないいなと思いながら女の子を探す。

しかし会う場所などは約束していなかったので、なかなか見つからない、さてどうするかと考えているとあの女の子をようやく見つけたのでアルド達はその子の傍に近づいた。

近づくと女の子はアルド達に気が付いたのらしく、顔見た瞬間に花開くような笑顔を浮かべた。

「お兄ちゃん達! もしかして、もうカエルさんの置物を見つけてきてくれたの!」

「見つけてきたでござるよ」

「わぁ、ありがとうお兄ちゃん達!」

「はいどうぞ」

アルドは女の子の目線に合わせるようにしゃがんで女の子に置物を渡した。

受け取った女の子は大事そうにその置物を抱えた。

「大切にする!」

「無事にお父さんが帰ってくるといいな」

「うん、本当にありがとうお兄ちゃん!」

女の子は何回も頭を下げた。

それを見てよかったなぁとアルドは思った。

少しでも女の子の心が軽くなるならばと、そんなことを思った。

女の子は長いこと頭を下げていたが母親の手伝いがあることを思い出したのか慌てた様子で最後にお礼をいいながら帰っていった。

「父親が見つかるといいな」

「そうでござるな」

「そうね」

アルド達は顔を見合わせながらそう呟いた。

あの女の子に近しい女性があきらめたような事を言っていたのでもしかすると最悪な形で再会するかもしれないと頭によぎったがだれ一人してそんなことは言わず、ただ見つかることを祈った。

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