第3話新たなる探しもの
エイミは実家であるイシャール堂に向かっていた。
基本的にアルド達と旅を始めてから自分の父がエイミに戻ってきてくれということはあまりなかったので少し心配はしたが、父本人からそんな深刻な話じゃないといわれていたのでアルド達は置いて自分だけが未来に来ていた。
自宅の前の扉についたエイミはいつもと何ら変わりない動作で扉を開けて、父親の姿を確認すると口を開いた。
「お父さん、ただいま!」
「おおエイミお帰り!」
ザオルはエイミが帰ってきたことに嬉しそうに声をあげた。
その声にエイミは少し嬉しく思いながらも父に呼んだ理由をさっそく聞いた。
「それで、お父さん私を急に呼んでどうしたの?」
「実は少し相談したいことができてな」
「相談したいこと?」
父が自分に相談したいことがあるなんてそのことに少し驚きながらエイミは父の言葉を黙って聞いた。
「つい先日、人を拾ったんだ……」
人を拾った? エイミはその言葉を聞いて、頭に疑問が浮かんだが最後まで聞いてから言葉を話そうとそのまま聞いた。
父の話はこうだ、ある日、最果ての島の砂浜にある男が倒れていたらしい、その男には記憶がなかったらしい、記憶がなかったし身元がわかるものがなかったのでシチズンナンバーを照会することもできず、この男のことをどうしようかという話になったらしい、そこでたまたま通りかかった父が一時的に預かることになり今もイシャール堂で働いているらしい。
父としては働きぶりも悪くないし記憶が戻らないのであればこのまま働いてくれてもかまわないとのことだが、やはり帰れるところがあるならそこに帰ったほうがいいし、どうせなら記憶も取り戻してほしいと思ったのでそれの協力をしてもらうためにエイミを呼んだというのだ。
「ちょっとまってよ、お父さん、そこでどうして私を呼ぶことにしたのよ」
「まあ簡単にいうとだな、俺は俺で探しているんだがあいつを知っているとう人間がほとんどいなくてな、エイミ達は旅をしているだろ? その旅の時にでも少し聞いてくれないかと思って呼んだ」
「なるほど、確かに旅はしているけど」
自分達は時空を超える旅をしているのでこの男性のことを知っている人に会えるかどうかわからなかったが、自分の時代にいる時だけでも探せば手掛かりぐらいは見つかるかもしれないと思ったのでエイミは引き受けることにした。
「わかったわ、お父さん、旅の合間に探してみるようにするわ」
「エイミ、ありがとうな」
「気にしないでお父さん、それでその記憶をなくした男の人に会いたいんだけど」
会わないとどんな人かもわからないし、特徴もわからなければ探しようもないからだ。
「ああ、今から呼ぶ」
父が呼ぶと奥から男性が出てきた。
その男性は健康的に日焼けしており、ほどよく筋肉がついている、30代後半の男性だった。それ以外は特に特徴のない男性だった。
いい人そうだなという感想はわくが。
つまり日焼けしているぐらいしか特徴がなかった。
これでは探しようがないのではないだろうか?
エイミの頭の中にはどうしようかと思いが生まれた。
とりあえず男性に挨拶をして話もしたが記憶喪失だから何も情報を得ることはかなわなかった。
エイミは男性にお礼をいったあとに父に向き直る。
父は男性に仕事に戻っていいぞと伝え、男性は返事をしてから仕事に戻った。
「お父さん、あの人が持っていたものや服とかはなかったの?」
「うーん、持っているものは何もなくてな、ただ特徴的な服を着ていたな」
「お父さん、それ見せてもらえる?」
エイミが問うと彼は奥に向かい、何かを持って戻ってきた。
「この服はあいつが来ていた服だ」
「この服は……」
どこで見たのか思い出せなかったが明らかにこの時代のものではないということが分かった。
(これは本当にアルド達との旅で見つかるかもしれないわ、あの人の帰る場所が……)
「お父さん、これを少し借りていい?」
「もちろんだ、むしろこれぐらいしか手掛かりがなくてすまんな」
「大丈夫、いい手掛かりだから!」
「それならいいんだが……」
「それと、あの人最果ての島で見つかったんだよね?」
「ああそうだ」
「ほかに何か見つかるかもしれないから最果ての島にいってくるね!」
エイミはそれだけいうと飛び出した、もしかしたらこの時代の人が気が付いていないだけで他にも手掛かりがあるかもしれないと思ったからだ。
最果ての島、いつ来てもさざ波の音が心地いい島だとエイミは思っている。
男性が倒れていたという場所を島の人に聞いて向かうと銀髪に白衣、そして眼鏡をかけた、男性が何かの板を集めていた。
よくよく目を凝らしてみるとその男性は自分達の仲間の一人であるクレルヴォだった。
(何かの研究で来ているのかしら? どっちにしてもあったんだから挨拶ぐらいはしておきましょう)
「こんにちは、久しぶりね、クレルヴォ!」
エイミが元気よく声をかけるとそこで初めて人が近づいていたことに気が付いたらしく少し驚いた様子だったが、すぐにいつもの調子になってエイミに返事をした。
「いや、久しぶりだね、君も元気そうだね!」
「まあね、ところでクレルヴォはここで何をしているの?」
「僕は散歩をしていたのさ」
「そうなの? その割には両手いっぱいに木の板を持っているけど」
「これはここで拾ったものだよ」
「ただの板みたいだけど」
エイミは不思議そうな表情でクレルヴォが持っている板を見る。
「何の変哲もない、木の板だよ。ただこの木の板が500年ぐらい前に絶滅した植物で作られていることを除けばね」
「500年前!?」
「そう、不思議な話だろう? 生き延びていたのかそれとも別の要因で今ここにあるのか……まあそれはわからないけど、どちらにせよ貴重なサンプルになると思って集めているんだ」
この話を聞いて、エイミは思った。
やはりあの男性はこの時代じゃないところから来たんだ。
ただそれがわかっても、どこの時代かまでは推測できない。
(でも、二つ目の手掛かりが見つかったわ、これならどこの時代のどこの人かわかるかもしれない)
エイミはダメもとである提案をした。
「ねぇクレルヴォ、小さいのでいいからその木の板一枚もらえないかしら?」
「ん? 君がこういうのに興味を持つなんて珍しいね」
そういったあと彼は少し考えたあとに小さい木の板をエイミに渡してくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、助かったわ」
「どういたしまして、それじゃあ僕はそろそろ行くよ、早くこのサンプルをしまいたいからね」
「ごめんなさい、引き留めたみたいになって」
「大丈夫さ、ではまたね」
「ええ、またね」
エイミはクレルヴォに別れの挨拶をしたあと、エイミの頼まれごととこれからのことをアルドに相談するために彼らが待っているアクトゥールまで戻ることにした。
戻ったのはいいがアルドとサイラスは見当たらなかった。
この都からは出て行ってはいないはずだけどそれにしても見当たらない。
すぐに戻るつもりだったから待ち合わせ時間を決めなかったのは失敗だったと思っていると声をかけられた。
「あら、エイミじゃない、サイラス達と一緒じゃないのね」
「ラチェット……」
声をかけてきたのはエイミ達をよく助けてくれるラチェットだった。
エイミは今までのことを軽く説明した。
聞き終わると少しため息をついた。
「二人とも何も言わずにここを離れたのね」
「どういうこと?」
「実はね……」
今度はエイミがラチェットから説明を受けた。
その内容はまあいつもアルド節が出たからの一言に尽きるとエイミは思った。
「もう相変わらず、お人好しなんだから……」
ため息を吐きながらもそういう理由ならまあしょうがないかと思った。
でも場所を移動することも伝えずにこの都を出て行ったことについてだけは後で文句を言おうとエイミは思った。
「教えてくれてありがとう、ラチェット」
「むしろごめんなさい、ラトルに行くことをお願いしなければすれ違うこともなかったんだから」
「いいのいいの、アルド達がラチェットにお願いしたことをかなえるためにやったことなんだから気にしないで」
そういったエイミはもう気にしていないようだった。
それでも納得がいかなかったのかラチェットは提案してきた。
「それじゃあ、お詫びに何かおごるわ、ただ待っているのも大変だろうし」
「えっ、でもいいの?」
「いいわよ」
そういってラチェットはエイミを連れて、この都の酒場に向かった。
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