第39話 アウローラ編 6
その日、アウローラさんは朝から『藤代』本社にいた。実に二週間ぶりの本社への出勤。
現在アウローラさんは担当エリアで新規オープンの店舗を3件抱えており、多忙な日々に忙殺される毎日。
気がつけば、このところまともな食糧を口にしてはいない。今日も朝食を食べそびれ、ブラックコーヒーで空腹を誤魔化していた。
そのせいだろう。数日前から胃が痛い。
(やべぇな。そろそろ医者か?)
スーツ越しにみぞおち付近を擦りながら、午前の会議の合間の休憩時間に、アウローラさんは社内の自販機横のベンチに座っていた。
「はあ、さすがにしんどいな。」
珍しく弱音も出る始末。
嘆息を漏らしつつも缶コーヒーに口をつけながら、徐にスーツの内ポケットからスマホを取り出す。するとそこには1件のメールが。
アウローラさんは何の気なしにメールを開いた。刹那飲んでいたコーヒーを一気に吹き出した。
「えええ!」
思わず声が出て、すぐさま周りを見渡した。
人の目がないのを確認して、再び慌てて視線をスマホに落とす。
【はじめまして。瀬戸菊と申します。
この度は、たくさんの方のご支援を賜り、お陰様で目標金額を達成することができました。
厚く御礼申し上げます。
アウローラ様
この度はたくさんのご支援賜りまして、本当にありがとうございました。
つきましては、誠に勝手ながら、本日、ご挨拶を兼ねてご指定いただきました住所へ参らせていただければと思います。
事前のアポイントもなくこのような申し出は大変失礼とは思いますが、何卒よろしくお願いいたします。】
「………ぇぇ、」
アウローラさんはひどく動揺し、缶コーヒーを持っておられずベンチの傍らに置いた。
一旦、スマホを閉じて、額に手を当てる。
(すごいな、瀬戸さん。行動が早い。)
クラウドファンディング達成から数日後にはあいさつ回りを始めている。
その瀬戸菊さんの本気が伺えて、
「……。あはははははははっ」
アウローラさんは数か月ぶりに爽快に声を出して笑った。
こんなに清々しい気持ちは、自社店舗の新規オープンの時ですら経験したことがない。
アウローラさんはしばらくその場で天上を見上げ、込み上げる高揚感を噛みしめた。自然と笑みが漏れる。目頭が熱い。
後日『藤代』社内では、滅多に声を出して笑わない某氏の高笑いに、多忙ゆえ乱心したのではないかとしばらく噂が絶えなかった。
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