第37話 アウローラ編 4


 アウローラさんは、瀬戸菊さんのブログを見て、こっそり一度、武田モータースに足を運んだことがある。


「いらっしゃいませ。どのようなお車をお探しで?」


 武田モータースに着くと、頭頂部が寂しくなった恰幅のよい40代とおぼしき男に声をかけられた。

 アウローラさんは完璧な営業スマイルを浮かべて、


「ええ、ちょっとキッチンカーを探していまして、」


 とうそぶいた。


「ほう、そうですか。いやぁ、申し訳ありませんねぇ、うちではキッチンカーは今扱いがないんですよぉ、」


 恰幅のよい男は、わざとらしく大きな声をたてて笑う。

 嘘が恐ろしく下手だな、とアウローラさんは恰幅のよい男見据えたまま薄く微笑んだ。


「そうなんですか。それは残念です。…ちょっと最近素敵なキッチンカーを扱ったブログを拝見しまして、もしやこちらで扱っておられるのかと思い足を運んだんですが、無駄骨でしたね。」


 アウローラさんの言葉に、恰幅のよい男はカッと目を見開き、


「あなたもしや、菊ちゃんのブログを見てこられたんですか!?」


 急に親近感丸出しで、背中をばしばし容赦なく叩かれる。思わずアウローラさんは勢いよくせた。


     ※ ※ ※


 恰幅のよい男お手製の、支援を求める手作りチラシを渡されながら連れていかれたのは、整備工場の入り口だった。

 

 そこへ、黒いツナギを着た男の運転するキッチンカーが現れて、アウローラさんの傍にまで寄せて停まる。

 

「お気の済むまで存分に見ていってくださいね!ついでに、菊ちゃんのクラ、クラ、クラ、」

「クラウドファンディングですか?」

「そう!それ!もしよかったらそれに協力してやってくださいね!」


 そして恰幅のよい男は手をヒラヒラさせながら事務所らしきプレハブ小屋へと消えていく。


 残されたアウローラさんは、一度見たことのあるそのキッチンカーを前に、こっそり写真を撮ろうとスマホを構えた。


「あの、」


 その時、運転席から降りてきた黒いツナギの男に声をかけられる。


「…はい?」


 アウローラさんは少し慌ててスマホをスーツのポケットに滑り込ませた。


「このキッチンカーのこと、ブログで見たって本当ですか?」


 黒いツナギの男の言葉が内包している意味がわからず、


「どういう意味でしょう、」


 いつもの穏やかな顔で微笑みながらも、目はしっかりと黒いツナギの男を見据えた。

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