第36話 アウローラ編 3


 アウローラさんのLINEには、時々、亜矢子という名前の妙齢を若干過ぎた女性から、暇潰しとしか思えないしょうもない内容のメッセージが届く。


 過去に亜矢子さんの前で泥酔した手前、無下にもできないアウローラさんは、いつも亜矢子さんのLINEにクスッと笑っては既読スルーする。


 とはいえ亜矢子さんは、10回に1回の確率で奇跡のようなメッセージを送ってくるため、アウローラさんは彼女のLINEを完全に無視することもできないでいた。




(…おお!さすがの亜矢子さんだなっ)


 この日のメッセージに添付された写真は、まさにその奇跡の1枚。



 アウローラさんは電車の車内で思わずニヤけそうになる口を押さえて、強い精神力で自分を律した。


「!」


 しかし一瞬、目の前の高齢女性と目が合い、アウローラさんは内心動揺しながら平静を装い穏やかに微笑み、こっそり手元でそっとスマホを閉じる。


(これは持ち帰り案件だな。)



 亜矢子さんのメッセージのタイトルは【今日の菊さん】


 それは、見覚えのあるトレイを胸に抱き、嬉しそうに微笑む菊を隠し撮りした1枚だった。



 アウローラさんは帰宅してすぐに、自前のパソコンに画像を落としながら、含み笑いが溢れそうになるのを必死で堪えた。


(これを人に見られたら、余裕で死ねる。)


 普段、冷静沈着と称されるアウローラさんも、所詮は人間の若い青年なのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る