第5話「歴史を紡ぐもの」
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『おい、シルヴィア!しっかりしろ!ヘンリーを呼んでこないと!』
『シルヴィア、待ってろよ』
『...うっ』
『まく!まく!まく!』
人が出払ったのを見計らって、もちょろけはシルヴィアに声をかける。
『...もちょろけ、そこに...いる...の?』
『まくまく!』
『もう...私はダメみたい...』
『まくーー!まくーー!まくまく!』
『もう...あなたの姿も霞んできたわ』
『まくぅ、まくぅ』
『———ねぇ、もちょろけ』
『————モナと旦那、そしてホライのみんなをよろしくね』
『最初は、アルドを頼り...なさい。底抜けのお…人よしさん...だから...。そうすれば...みんなとも...すぐに...打ち解けられるわ』
『まくぅ...まくぅ...』
『もちょろけ、こっちに...』
『————ホライの未来をあなたに託すわね』
————キランっ
すると、もちょろけの体内が七色に輝いた。しかし、シルヴィアには、もうその光もよく見えていない。
『まく...』
『まくーーーーーー』
もちょろけは、一目散に森の方へ駆け出した。
『シルヴィア!大丈夫か!ヘンリーを呼んできたからな!!』
『ええ...ありがとう』
そして、心の中でつぶやく。
『————さよなら、もちょろけ』
「まくぅーーまくぅーーまくぅーーーまくぅーーー」
もちょろけは、来る日も、来る日も、森の奥で一人泣き叫んだ。
...そして、その力の一部を失った。
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「————KMS社のレオだって!?」
「知ってるの?アルドさん?」
「ああ。なんというか...すごく抜け目のない奴だ」
「KMS社にはね。異時層と交易を行う組織があるのよ。その指揮を、主がとっていたわ。しかし、異時層との交易は倫理的にはグレーだから極秘に行われていた」
「その『獅子の使徒』が、あなたとフォックスだった」
このタイミングで、グレースがちょうど目覚めたようだ。
「グレース!目が覚めたのか」
「ええ。迷惑かけたわね」
「———正確に言うと、『獅子の使徒』は私たちだけではないわ。基本的には
そういうと、コランは立て続けに、詳細を話し始める。
「我々の任務は、高純度のプリズマを輸入することだった。アーカイブによれば、この時代のホライで、取れることがわかっていた」
「フォックスは、人を見る目が異様に優れていてね。心の奥底に眠る欲を持つ人間をすぐに見抜いたわ。そこで、彼を誑かし、言葉巧みに町長に祀り上げたのよ」
「でも、ある時、急に時層の光が閉ざされてしまったの。それで、私とフォックスはここで置き去りにされたまま幾数年...」
「——そうか!そういえば、前にレオがグレーゾーンの時層交易から撤退したって」
「————アルドさん、あなた、その事情を知っているの!?」
主の事はともかく、その事情を知っていることには、さすがのコランも驚いた。
「いや、未来のことは難しくて...でも確か。クロノス博士の第三仮説。『複層次元震』?がどうとか...」
「———!クロノス博士の第三仮説ですって?」
クロノス博士の名前が出たことで、コランは再び驚愕する。そして、その事実を知って、何やら少し考え込んでいるようだ。
「あ、ああ...たぶんそういってたと思う...」
「そう...。ならば、主がすぐに時層を閉じた理由がわかるわ。主の判断は正しいわ」
「あのぉ...話の内容が全く見えないんですけど。コランさんは、その主を恨んでないんですか?」
モナは話の詳細が理解できなかったが、コランの今の心情が気になったようでそのように質問した。
「え?恨んでいないわ。元々ね、『獅子の使徒』の構成員は『ある施設』の出身でね。親はいないの。恩はあれど、恨む理由はないわ」
「でも...」
「ただ、『絶望』はしたわ。どうやって、生きていこうか再び悩まされることになったんですもの。フォックスは『虚無』に襲われたみたいね」
話の中身はわからないモナであったが、それを聞いていて、あることに気づく。
「ん?————あの、もしかして!ホライで大規模な開発が始まったのは、未来との取引が出来なくなったせいですか?」
「その通りよ。町長は未来との取引が出来なくなったことで、この時代との交易での販路を獲得しなくてはならなくなったの。この時代のこの町に私たちの居場所を作ってもらう代わりに、販路開拓の手伝いを私たちがしたわけね」
「…まず、フォックスは彼に力を持つことを提案した。ここには幸か不幸か、幻視エコーが眠っていたからね」
ここでグレースが口をはさむ。
「『骸顔児』のことね。でも本来、骸顔児の力は巨大すぎて、人一人が扱えるものではないわ」
「そこで、夢幻の虹石を使ったんですね」
「ええ、村長の言う通りです」
「未来のアーカイブでは、ホライの炭鉱では、飛びぬけて高純度なプリズマ鉱石が二つ獲れることがわかっていたの」
「フォックスが一つ。もう一つは町長が持っていた。だけど...」
「町長が持っていたものを、今は僕が持っています。偶然見つけた...と思っていたのですが、コランさんが持ち出したものだったんですね」
そういうと、マルコは虹石を取り出す。
「ん?この虹石は少し小さくないか?そういえば、コランの石の時も思ったけど」
「そうなんでしょうか?コランさん」
「ええ。私たちが使ったものの三分の一くらいの大きさしかないわ。残念ながらこれでは、『キツネ』の力を抑えるほどの力はないでしょうね」
「...」
グレースは、コランの話を聞くと深く考え込んだ。
そして、虹色のことがわからないモナはコランに質問する。
「...あのぉ、それでその虹石を使ってどうしたんですか?」
「夢幻の虹石はね。人々の思いを媒介にして、その力を具現化するの。通常、これは複数人による一つの思いを石に束ねることで、初めて機能するの。でも、強い欲望や負の感情の場合、個人でも作用することも稀にあるそうよ」
アルドは、モナにかつてホライで起こった出来事の詳細を聞かされていないことを察して、説明を加える。
「オレたちの時層では、ホライのみんなの思いを虹石に込めて、幻視エコーを鎮めたんだよ」
「そうだったんだ...わたし全然知らなかった」
「プリズマ鉱脈のことは、極秘扱いだからな。知らないのも無理はないよ」
「そっか...」
モナは、ホライの一員でありながら、自分の土地の出来事を知らないことを恥ずかしく思った。
「幻視エコーを支配するために、虹石の力を使って、幻視エコーの力を三つに分けた。私たちの精神状態と町長の眠る欲望、すなわち、『金欲』、『虚無』、『絶望』を媒介としてね。その際、オリジナルの虹石も三つに分けたの。そして、相棒機に虹石の欠片をはめ込んで完成。たまたま、ホライの伝説に出てくる動物だったのも都合がよかったわ。まぁ『サル』は幻視エコーの残骸を使ったのだけれど」
「———その思いの強さを媒介にして虹石は機能する」
それを聞くと、何かに気づいたかのように、グレースは次のように返す。
「————逆を言えば、その思いがなければ?」
「————虹石は機能しないわ。私が、『タヌキ』を使役できなくなったのはそのためよ。ひどく暴走していたでしょ?あのこ?」
「あのそれは、いまのコランさんが絶望していない、ということですか?」
「ええ」
「そして、町民に『金欲』を喚起させるように扇動し、力で『絶望』を与える。しかし、力で恐怖を与えるのではなく、プリズマの交易で得た富で、逆に町民の生活を保障し、歯向かう気も起きなくさせる。これで従順な町民の出来上がり。『絶望』の枷は、もう解放されたけどね」
「つまり、いま町は『金欲』と『虚無』に支配されているわけね。『絶望』の枷を外したように、この二つも外せば町は解放される...?」
「ええ、その通りです。グレースさん」
「でもさ、その枷を外すにはどうしたらいいの?」
「『タヌキ』を思い出して。そして、コランが白い石を持っていた。一方、『サル』の塵から黒い石が出ていたでしょう。想像だけど、その白い石は、もちょろけの力が負の感情とやらを浄化したんじゃないかしら」
「その通りよ。『キツネ』を止めるには、もちょろけの力が必須ね」
「でもなんで、もちょろけなんだ?」
「そうね...アルドさん?あなたの時層のホライでは、虹石はいくつ見つかったのかしら?」
「え?たぶん、一つじゃないか?幻視エコーを眠らせるために使ったやつだけじゃ?」
「ならば、もうひとつは?」
グレースは、アルドに問いかける。
「まさか、もちょろけがもってるのか?」
「ええー!わたし、いままで一度もそんなのみたことないよ」
「まったく、近くにいて気づかないなんて、嘆かわしいわ...」
「むぅ...」
「それじゃあ、フォックスは、もちょろけの虹石を新しい枷にしようとしているんじゃ」
「おそらく...」
「こうしてはいられない。すぐに助けにいこう」
「うん!」
「待ちなさい。行くと言っても、『キツネ』への対抗手段がないでしょう!?」
「うっ...」
「そうだった...」
「そこで提案なのだけど...」
ここで、グレースはマルコにあることをお願いする。
「ねぇ、村長さん。その虹石。先払いということで私に預けてくれないかしら?」
「え?はい、いいですよ。どちらにしろ、これはもう皆さんにお渡しするつもりでしたから」
「どうする気だ、グレース?」
「私に考えがあるわ。道すがら説明するわ」
「お手伝いしたいのですが、残念ながら村人がなんとかできる域を超えてしまっているようですね。すみません」
「村長さんは、もうみんなに希望を見せてくれたわ。あとは任せてください。それから...黙っていて、すみませんでした」
「そういえば、これだけ最後に聞きたいんですけどぉ」
「何かしら?」
「コランさんが、もう絶望していない理由って何ですか?」
絶望した状態から這い上がるのは、並大抵のことではないことを幼い時であったとはいえ、母親を亡くしているモナには痛いほどよくわかった。
「それは......まぁ...色々あるけれど。一番の理由は...」
コランの返答に、若干に含みがあることを察したアルドとモナは口をそろえてこう言った。
「「一番の理由は?」」
心の中でグレースは「野暮ね...」とつぶやいた。
しかし、口や顔には出さずに興味津々に返答を待っていた。
「————食材が新鮮!!」
「「「————は?」」」
予想外の返答に、三人はあっけにとられる。
すると、性格が変わったように、ハイテンションでまくしたてる。
「この時代の食材は新鮮なのよ。私たちの時代では新鮮な農作物なんて貴重でしょ?この時代の食材のなんておいしいことか!」
「あはは」
「それで、どこにいるんだ?もちょろけは」
「おそらく、第三鉱窟の最奥よ。プリズマが取れるところね」
「やはり、第三鉱窟ですか。あそこは厄介な場所ですよ、コランさん」
「大丈夫よ。庁舎への道と同じような抜け穴を作ってあるの。これは『タヌキ』の能力よ。町長やフォックスも知らないわ。こういう状況を見越して昔から作っておいたの」
「すごい。あのレオの部下というのも納得だ」
「正確には側近よ」
「でも、村長さん。簡単にグレースおばさんを信用して石渡していいのぉ?また裏切るかもよぉ?」
モナは目を細めて、グレースを見つめ、勘ぐっているようだ。
「大丈夫だよ、モナ。グレースを信用しても」
「あら?アルド、あなたどうしてそう思うのかしら?」
「ん?だって、グレースが言ったんだぞ」
「——え?」
「キメラを狩りまくったって。親の仇である魔獣を狩りまくったわけじゃないんだろ?」
「しかも、魔獣を恨んでいるなんて一言も言わなかったじゃないか」
「…」
「グレースさん、これを」
村長は笑顔で虹石をグレースに手渡す。
「———ありがとう。大事に使うわ」
「よし、じゃあ向かおうか」
「おー!!」
「...まったく人に付け入るのがうまいんだから。あの人たらし。計算じゃないところが憎たらしいわ...」
そう小声でつぶやくと、モナを呼びつける。
「————小さいお嬢さん!」
「むっ、だから...」
「————ちょっといいかしら?」
「え?」
道すがら、グレースとモナが何やら作戦にちて話しているようだった。こんな状況であったが、アルドは二人が話しているのを見て、微笑ましく思うのであった。
——————第三鉱窟最奥プリズマ鉱石採掘場
「ま...く...く」
「どぉぉでもいいんだけどよぉ」
「いいかげん、虹石を出す気はねぇか?それとも持ってる自覚がねぇのか??」
「————そぉいや、お前さん。一度『キツネ』と一戦交えたとき...火を見て一目散に逃げてたな」
「お前さんを燃やしてみようか。まず、天辺にある赤いお花さんから…といぅのはいかがかな??」
「まく...く...!」
「よぉやく反応があったな」
「では、さっそくいってみよぅ!!」
———ドガァァン!
「もちょろけーー!!!」
「おやおや、ずいぶんと派手な登場じゃぁないかね?」
「ま...くま...く」
「もちょろけと町を返しにもらいに来たわ」
「みなさん、おそろい、でぇ?」
「まっ、あれらを殺っちまったら...大人しく出す気になるかね?」
「まくく!まく!」
「脈ありだねぇ。こっちでいこう!」
「もう終わりにしましょう。フォックス」
「ラク~ンドッグぅ、何を言っているぅ?これから始まるのさぁ」
「...さっきも思ったけど、なんか変態っぽい?」
「狂った世の中、狂ってなんぼよぉ、小娘ちゃん」
「うっ...この人苦手...」
「今度は、前回のようにはいかせないぞ」
「そぉかい?こっちもさぁ...」
「あのおサルさんの虹石の欠片も取り込んだ、『キツネ』の力。たっぷりあじわうと、いいよぉ」
「————ゴォォォン!!」
すると、庁舎や地下牢の時のように、「キツネ」が現れた。
「わかってると思うけど、回復魔法はだめよ」
「言われなくも同じ過ちは二度としないわよ」
「ゴォォォォォン!」
「キツネ」はそう叫ぶと、鉱脈内を縦横無尽に駆け回る。
「———!?前よりも早い!」
「————『獅子狩り』をなめないでもらえるかしら?キツネちゃんごときに後れを取らないわ」
グレースは、『キツネ』の地面の着地の瞬間を狙って、爆弾矢を射抜く。
「ゴォ…」
「いまだ、『エックス斬り』!!」
隙を見て、アルドは渾身の一閃を叩き込む。
「キツネ」は地面に倒れこんだ。
「————グレースおばさん!いまのうちにこれを。もうばっちりよ」
「ええ!」
「————ほほぅ。さすが、『獅子狩り』にぃ。時の旅人ア~ルドくん」
「———では、解放といこうかね?」
フォックスは、「キツネ」の力を開放する。
すると、目に見えない何か大きな力がアルドたちを押しつぶす。
「くっ...」
「なっ、これは!?幻視エコーの時と同じ...」
「体が動かない...」
「うっ、もちょろけ...」
「よしよし、ではこの小娘にきいてみよぉかな?『キツネ』よ。その魔~物ちゃんを見ておけ」
「ドロ~ンは、どこに行ったかなぁ?おぅ、おいで、おいで、レ~ザ~は出るかね?それ、試し打ち。どっかーん!」
「「うあぁ!」」
フォックスは四機のドローンを召喚し、レーザーを発する。それは、グレースの左足とアルドの左腕を打ち抜く。
「んんー、ナイスショットぉぉ」
「うっ、アルドさん...おばさん...」
「さぁてさて。汎用型のドロ~ンちゃんにぃ。オレが一つ命令しちまえば、お前さんの大好きなお嬢ちゃんの命は、ぶっ飛んじまぅわけだね?」
「どぅするぅ?」
「まぎゅ!まぎゅ!」
「んー、鳴き声あげるだけではね…」
「ちぃと、追い込んでみるかな?」
「『キツネ』よぉ、魔~物ちゃんの周りに火を放てぇい!」
「ゴォォォン!」
「まきゅうーーーーー!!!!」
もちょろけは、火を見て悲鳴を上げている。
「そして、こちらは...んんー、ずっきゅーん!!」
「きゃぁぁっ!」
レーザーは、モナの右肩を射抜く。
「ストラぁイぃぃクっ!」
「モナぁ!」
「まきゅうーーーーー!!!!」
「くそぉ、モナはまだ子供だぞ」
フォックスはアルドの言葉にまるで耳を貸さない。
「続きましてぇ~...」
「…待ってて。火は怖いよね...もちょろけ。いま助けに行くからね」
「まきゅ~、まきゅ~」
「この...押しつぶされる力...さえ...なんとかできれば...」
「————レーザーっ...ていう...のは...よくわからないけど...」
「え?」
「飛び道具は...押しつぶ...されないのね」
「————撃たれたのが...脚でよかったわ!」
———————出発前
「——え?わたしが虹石に思いを込めるの?」
「そう。あなたがもちょろけを助けたいともいう気持ちをその石に込めるのよ」
「それをどうするの?」
「それを、隙を見て私の矢で、もちょろけに届けるわ」
「届けて?どうするの?」
「いいから、黙って思いだけ込めなさい」
「むぅ...わかった。でも、できればたくさん思いを込めたいの。ぎりぎりまで待ってもらってもいい?」
「ええ」
———————
「もちょろけ...あなた...」
グレースが満身創痍で声をあげる。
「まく...?」
「んん-?何かなぁ?これじゃ、キツネちゃんも狩れない『獅子狩り』くん?」
手足を動かすのがやっとの状態から、弓を構え叫んだ。
「————大事な人を...助けたいなら...苦手なものくらい...克服してみなさい!」
「...飛遊星!」
グレースは、腕の力だけでもちょろけに矢を放った。そして、その矢はもちょろけの体の中に消えていった。
「———!グレース!?」
アルドは、この状況で弓矢を打った精神力に心底感心する。
「おやおやぁ?殺す手間が省けちまったかな?...んん?」
「まく...」
『——ちょろけ』
「まく...」
『——もちょろけ』
「————モナと旦那、そしてホライのみんなをよろしくね』
自分の心の中で、あの日、受け継いだ意思をはっきりと思いだした。
「———!まくーーーー!!!」
もちょろけの体が七色に輝きだす。泉の解放の時よりもはるかに強く輝いている。
「おぅ!奴さん、やっと出す気になったかなぁ?」
「まっ、まくぅぅ!」
そして、もちょろけから発せられた七色の光は、煙のように漂っていく。それはあっという間にこのプリズマ鉱脈の全体に広がった。
「———あ...れ?この甘い香り...どこかで...」
モナは朦朧とする意識の在りし日の記憶がよみがえる。
『———森にはね、もちょろけがいるの』
「…」
「——そっか、ずっとすぐそばにあったんだ...お母さんのシロップ」
この懐かしい甘い香りは、モナに大きな力をもたらした。傷は完全に癒え、押しつぶしてくる力はもう作用していない。
さらに、それはもちょろけ本人にも作用している様で、まるで二人の意思が共鳴しているようだ。
「————不思議...力がみなぎってくる」
「力を貸して...お母さん。もちょろけ。そして...村のみんな」
「————いくよ!もちょろけ!」
「まくっ!」
決意を胸にモナは立ち上がり、「キツネ」の方へものすごいスピードで駆けていく。もちょろけは鎖を自力で破壊し、モナの方へ駆けつける。
「モナぁ?」
アルドは、モナがほとんど意識のない状態からものすごいスピードで動き始めたことに驚愕する。しかし、自分の体の傷も回復していることにきづく。
「あれ?なんだ?まさかこれが、もちょろけの力か?」
これに気づいたグレースもすぐに対応し、アルドに援護の指示を出す。
「アルドォ、あの子を援護するわよ!」
「了解!」
そう言うと、グレースの矢で周りのドローンを射貫き、アルドがとどめを刺す。
「『エックス斬り・改』!」
「ゴォォォン!」
再び『キツネ』は、体内から火を発生させる。火が瞬く間に、空間全体に広がっていく。
「まくぅ!」
モナのもとに駆け付けた。すると、もちょろけの体が青色に輝く。
それにモナが呼応するように、モナの斧も青色に輝いている。そして、モナは斧を一振りする。
「やぁ!」
すると、青い光が宙に舞い、周りの炎を消え去った。
「ゴォっ?」
「なんだぁ?この小娘」
「回復してるなら、生気を吸い取っちゃうよォ!あっ、ギュイーン!!」
「...おやおやぁ?不発かなぁ??」
「なら、これならどぉかね?」
「ゴォォォン!」
すると、『キツネ』は今まで以上の猛スピードで縦横無尽に動き回る。
「まずは、『獅子狩り』をっ」
「———!」
「グレ...」
まずい、グレースがやられる。と思ったアルドが矢先。グレースの眼前にモナが現れ、『キツネ』を斧で払う。
「———!」
「モナぁ?」
「ゴォ?」
「ホライの狐狸は、わたしが払う」
———フォックスは、もちょろけがもつ虹石はすでに思いが埋め込まれていることに、ようやく気付いた。おそらく、あの小娘に意思を託されている、と。
「————!小娘がぁ」
「小娘じゃない...!!」
「まきゅきゅうぅーーー!!」
「わたしは...」
「森の妖精の加護を受け、ホライの意思を継ぎ...」
「そして、次の時代への歴史を紡ぐ...」
「———モナよ!」
「「いけぇぇぇ、モナぁぁぁぁ!!!」」
「———食らいなさい、ホライのみんなの一撃を!」
「ぐっ...待っ...」
「まきゅきゅーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
もちょろけが叫ぶと七色に体が輝く。それに呼応して、モナの斧も七色に強く。そして、斧は大きな剣となった。そして、モナはその大きな剣を振り落とす。
「ラベンデュラ・オフィキナリス!!!!」
「ゴォォォ」
「が...はっ」
モナの一閃は、「キツネ」を一瞬にして廃にした。その灰の中から、虹石が顔をだす。虹石のどす黒い色は消え、真っ白に輝いている。
「やったのか...」
「ええ、ホライの意思が勝ったのね」
倒れたフォックスのもとにコランが近づく。
「...よぉもや、村娘に負けるとは...天下のKMS社が情けない...どのみち、主の部下は務まらなかったか」
「そうね」
一瞬間をおいて、フォックスはアルドに語りかける。
「『使徒』は二人だけではない。未来に復讐をしに来る奴らもいるかもしれんぞぉ。いや、お前には関係ないかぁ、ア~ルド...くん」
「いや、関係なくはない。一度、未来は殺された。でも、そこから未来を救うことが出来た。もし次があれば、殺される前に対処してみせるさ」
「いー答え...だ」
「それに、あのレオがみすみす殺されるのを座して待つなんて考えられないけどな」
「その...通ぉり...」
「————達者...でやれよ、ラクーン...いや...コラン」
「さようなら、フォックス...」
—————— ホライ町中央広場
「————おかしいわ」
「町を虹石の支配から解放したのに、人々の様子が戻らないなんて...」
町民の活力が戻らない現実に、コランの顔は蒼白している。
「まく!」
「え?いい方法があるって?」
モナはグレースにこっそり近づく。
「——ねぇねぇ、グレースおばさん」
「だから、おばさんじゃ...」
「ごにょごにょごにょ...」
「え?」
「———ふん、それはいいわね」
今度はグレースがマルコとコランに近づく。
「村長、コラン、ちょっと...」
「「—え?」」
———— 夜になった。
コランは白フードを被り、姿を隠しながら、町長の権限を代行し、町民を広場に集めていた。
しばらくしてから、マルコが民衆に語りかける。
「さぁ、ホライの皆さん!突然ですが、世紀の花火ショーをご覧ください!」
そういうと、マルコはグレースに合図を送る。
民衆たちはいったい何のことやら、といった感じでざわついている。
「...準備が出来たようね」
「さぁ、『獅子狩り』...いや、『花火師』グレースによる初めての、奇跡の花火ショーをご覧あれ!!」
「————『スターマイン』!」
グレースは、三つの虹石をつけた「特製の爆薬」を上空に打ち上げる。そして、マルコが町民に語りかける。
「ホライの皆さん!資源と富の「独占」から「共生」に、「絶望」を「希望」に変えて、「虚無」の日常から「充実」した日常を取り返しましょう!」
「3、2、1、いまよ!もちょろけ!」
「んーーーまくーーーーーーーーーーーーー!!」
もちょろけの叫び声に呼応して、大きな爆発音とともに火薬が、ホライの夜空に破裂すると同時に、虹石も破裂する。
すると、不思議なことに、上空に打ち上げた三つの花火は、赤、青、黄、緑、紫、橙、藍と七色にランダムに何発も輝いている。
そして、砕けた結晶の欠片は、特製の火薬に込めたもちょろけの七色の風に乗って、これもまた七色に輝きながら町全体に降り注ぐ。
これは、まるで花火とダイヤモンドダスト、そしてオーロラを一度に体験しているようだ。
「すごいよ...言葉に...ならないよ。お母さん」
見向きもしなかった町人たちがみるみる笑顔で溢れていく。
虹石の破片は、すでに町全体に降り注いでしまったが、グレースの特性の花火はたった三発の花火であったが、いつまでも輝き続けていたのであった...
こうして、ホライは、町長や虹石の支配から解放された。
————ホライ 異時層の扉前
「————本当に戻らなくていいのか?未来に」
「ええ、帰っても秘密裏に処理されるだけよ」
「何より、もうここが私の居場所だから」
「そうか」
「私は、町の復興を手伝うわ。それに、あの町長、いけすかないわ。人をサルだなんだって、一からあの性根をたたきなおしてやりたいのよね」
「ああ、また近いうちに様子を見に来るよ」
「まくまく!」
もちょろけの一声で、緑色の光に包まれた時空の扉が開く。
「すごい、これが異時層につながる光ですか...」
「————モナ」
「————え?」
モナは、グレースに名前で呼ばれたことに心底驚く。そして、呼んだ本人といえば目をそらし、頬を赤らめている。
「———こほん、そっちのわたしにもよろしく」
「ふふふ、じゃあね、村長さん、コランさん、村のみんな!」
「そして...」
「グレースおばさん!」
「まくまく!」
「だから...」
「おばさんじゃないっつーの!!」
———————ホライの村
「モナ!アルド!一体どこに行ってたんだ」
「えへへ、ごめんなさい。お父さん」
「あっ!」
「————グレースおばさん」
「————何さね?」
「今度は、わたしも踊りに参加しようと思うの」
「————?モナ。あんた、一体どうしたんだい?」
「だって...ホライの意思は、わたしたちが受け継いでいくんだから」
グレースはモナの突然の変わりようにきょとんとしている。
「ねっ、アルドさん、もちょろけ」
「ああ!」
「まきゅん!」
モナを見て、グレースは心の中でつぶやく...
人の欲が残り
鉱石はいずれ消えゆく
やがて、私も余生は少ない
「...しかし、こうしてホライは受け継がれていくのかねぇ」
グレースは、静かに...そして...着実に訪れる己の死期を、不安と期待が入り混じりあう不思議な感情を抱きながら、待ち続けるのであった。
(完)
時の炭鉱と獅子の使徒 ~ Another Story of Grace of Prisma ~ @ideal_anaden
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