収容されている子供がホールに集まり、一日が始まった。


 アリヤは手早く点呼を済ませ、今日の作業を割り振っていく。

 重篤な子供は部屋から出られないのも何人かいて、管理表が埋まらないのはいつものことだった。


 子供たちは工場長の修繕の順番を待つ間、あるいは修繕がほぼ完了した後の動作確認として、それぞれの作業に勤しむ。


 かつては子供の製造ラインが敷かれていた一階のホールで、精密作業の内職や簡単な図面引き、部品の組み立て、はんだ付け、散髪など多様な作業を銘々に子供たちは進めていく。

 炊事婦のハンナさん監修の下、調理技術の習得に取り組む子供もいた。


 工場内の壁沿い、ホールに突き出た形でせり出した二階通路の奥にある工場長室では、今日の順番の子供が工場長の修繕を受け始めたところだろう。


 修繕や面接を通じて工場長が判断した適性で、どの作業が割り当てられるかはほとんどが決まるが、身近で子供の世話をするアリヤの意見が盛り込まれることもある。


 朝、こうして子供をさばいていく時間が、アリヤは一日の中でいちばん気に入っていた。



 その後もアリヤは、隅に追いやられたびついた機材の間を縫うように移動して、子供たちの作業を監督してまわる。

 細かい技術は習熟していく子供たちの方が詳しいにせよ、褒めたり励ましたりとやるべきことはたくさんあった。


 それでも暇を見つけては、作業着のポケットから端切れ布を取り出し、転がっている機材や工具を磨いた。


 工場だったころの名残がある錆びついた機材が、アリヤは好きだった。

 ここで製造され外の世界へと出て行く、出来立ての子供の華々しい未来の象徴のように感じていた。


 もう使われることはない機材をひとり磨いては自分の知らない時代に思いを馳せ、過ごすのがアリヤの余暇だった。



 三日前に入ったばかりの子供が黙々と封筒にシールを貼っているのを確かめて、アリヤは静かにその場を離れた。


 ほとんど言葉を発することのない子供だが、手先は器用なようだった。

 慣れてきたら、もう少し難しい軽作業を教えてみてもよいだろう。


 アリヤは手元の管理表に記録した。

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