プルタブ

「開けらんない〜!」

「はいはい」

 蓮やってよ〜と差し出す華奢な手に握られたミルクセーキの缶。わざとらしくない程度の上目遣い。制服のカーディガンの袖が指先の近くまで覆っている。いわゆる萌え袖というやつだ。

 しかたなさそうに受け取った蓮の手の中でプシュ、という音がたつのを忌々しく聞いていた。

 結菜はいつもそうだ。なにかにつけて非力なふりをして、これできない、これやってと蓮に擦り寄る。ペットボトルのキャップがあかないと言い出した時は思わず天を仰いだ。私とふたりでいるときは自分で難なくあけるくせに。可愛い顔してやるから痛々しくなりすぎないのもムカつく。可愛い。ムカつく。


 蓮も蓮だ。あんな見えすいたぶりっ子なのに騙されちゃって。みるからにデレデレしてるわけじゃないけど、内心満更でもなさそうにしてるのが私には隠せていない。

「ありがと」

 語尾にハートがつきそうなくらい甘い結菜の声。

「いいんだよ」

 にこやかに応える蓮の声。

 ああもうほんと、なんだこれ。


 3人で出かけた時、結菜がすぐメイクを直しにトイレにいくので、何回か蓮と2人になるタイミングがあった。その日も1日結菜のぶりっ子は止まらなくて、私はいつもより少し疲れてたんだと思う。だからすこし意地悪な気持ちになって、何回目かの2人きりのときに聞いたのだ。

「ああいうぶりっ子、好きなんだ?」

涼しげな顔してるけど、私はわかってるんだからねと、少し口角が上がる。

蓮ちょっとびっくりしたあと、すぐ笑ってこう言った。

「バレてないとおもってやってるのが可愛いんだよ」

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