ヘルメット
祐介の部屋の箪笥の上に、ヘルメットがひとつ置いてある。
兄がバイク乗りだった。だから家にはいくつかヘルメットがあった。それだけだ。
幼いころ、おもちゃをつめて持ち運ぶのにはもっぱらヘルメットを使っていた。ミニカー、ベイブレード、カードゲームのカードの束、ラジコン。お気に入りのおもちゃを詰めていたヘルメットは、兄が使い古したおさがりだった。
兄がかぶっているそれが無性にかっこよく見えた。真似してかぶりたがって、貸してと頻繁にせがんで困らせた。
「この前あげただろ」
「やだ、今かぶってるそっちがいい」
大きさの余るそれをかぶって兄を見上げれば、ぶかぶかだなと笑ってくれるのがうれしかった。
本当は、バイクに乗せてほしかった。
「大きくなったら、後ろに乗せてやるから」
「大きくってどれくらい? 僕もう小学生になったよ!」
「まだダメ。そうだな、中学生になったらな」
母さんがうるさいんだ、と兄は言う。何がうるさいのかよくわからなかったけれど、兄が少し声を潜めたので、祐介も深刻そうな顔をしてうなずいて見せた。
本当は、バイクに乗せてほしかった。
祐介の部屋にはそのヘルメットが、まだ置いてある。
持ち主不在となったヘルメットが、後生大事に置いてある。
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