332.クリスマスパーティー③プレゼント
ひとしきり人狼ゲームで遊んだ後、女子陣で作ったクリスマスケーキを食べることになった。
普段から料理をしているみなも、それから御菓子司しろで厨房を手伝うことがある恵麻の2人が中心となってレシピ通りに作ったブッシュドノエルは、さすがというべき出来栄えだった。ものの見事な丸太を模しており、振りかけられたシュガーパウダーはまるで雪化粧しているかのよう。
きっと春希が成形したのだろう。皆が快哉を上げる中、どや顔をしていたのが何よりも証拠。大方、ジオラマを作る要領で整えたに違いない。ただ1つ難点を上げれば、参照にしたレシピだと1人分の量としては少な目になってしまったことだろうか。味も文句のつけどころがなかっただけに、多少不満に思ってしまうのも仕方がない。それゆえ誰からともなく来年の課題だね、といって笑った。
◇
クリスマスパーティーの締め括りとして、ケーキを食べ終えた後はプレゼント交換をしてお開きに。片付けは使い捨ての紙皿や紙コップ、割り箸などを多用したこともあり、時間もさほどかからなかった。
三岳家を後にし、駅方面に向かう一輝や伊織たちと別れた帰り道。
時刻はいつもなら夕飯の準備をしている午後6時過ぎの宵の口。
しかし辺りはすっかり暗くなっており、気温も一段と冷え込んできている。
月と星を覆い隠すどんよりした雲からはらりと粉雪が舞い降り、それを見た沙紀が弾んだ声を上げた。
「わ、雪!」
「ホントだ、寒くなってきたと思ったら。早速明日から充電式カイロの出番かなぁ」
手のひらを空にかざしながら呟く姫子に、春希が訊ねる。
「ひめちゃん、それってさっきのプレゼント交換のやつ?」
「うん、一輝さんが用意したやつ。オシャレでいい感じだし、ありがたく使わせてもらうつもり。はるちゃんは確かハンカチだっけ?」
「高倉先輩のだね。さすがというかかなりハイセンスでお高そうな感じで……おかげで普段使い躊躇いそうだけど。沙紀ちゃんはみなもちゃんからのだよね?」
「キッチン菜園セットですね。ラディッシュ……二十日大根。お手軽みたいなんで早速、育ててみます。お兄さんのプレゼントは確か……」
「よりによって姫子、妹からもらう羽目になっちゃったな。しかも黒毛和牛タオルなんていう、見た目お肉そのものの色物」
「よりによってはあたしの台詞だよ。これからタオル使おうとすると、ネタで買っちゃったそれを目にすることになるんだから」
ネタかよ! という隼人のツッコミに皆から笑い声が上がる。
ひとしきり笑い終えると、春希は気を取り直すようにフッと息を吐いて言う。
「ま、でもこういうままならないところが、プレゼント交換の醍醐味だよね。隼人のプレゼントもそんな感じだったんじゃない?」
「あぁ、料理したり飲食店絡みの奴が多いから、誰に当たっても電動ミルは喜ぶだろうと思って選んだんだけど……」
「結局、普段はあまり料理とは縁のない高倉さんに当たりましたもんね」
沙紀が困ったように相槌を打てば、隼人と春希も同じような表情で肩を竦める。
そして姫子が嘆息しながら呟く。
「でも恵麻さんと彼氏さんみたいにカップル同士で引き当てちゃうのもあったね」
「あぁ、それで伊織が『これやっぱ運命で繋がってるからだよな』『クリスマス本番迎える前から幸せ過ぎて怖い』とか惚気だして大変だったわ……」
隼人がその時のことを思い返し、うげっといわんばかりに顔を歪めれば、 沙紀たちも何ともいえない表情になる。恵麻も恵麻で惚気ていたのだろう。
そんな風に、今日のクリスマスパーティーのことを振り返りながらお喋りに花を咲かす。するとふいに春希が足を止め、少し緊張した声を上げた。
「実はさ、ボクここだけの皆にプレゼントを用意してきたんだ」
「え?」
間の抜けた声を漏らす隼人。
思いがけないサプライズに、姫子と沙紀も鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
皆から困惑と驚きの視線を向けられた春希は、はにかみながら鞄からサンタとトナカイでラッピングされた袋を4つ取り出す。
そして呆気にとられている隼人たちに配り、自身もそれを掲げて言う。
「開けてみてよ」
「あぁ……。うん、これって……?」
促されるまま取り出したのは、木製で温かみのある4人お揃いのシャープペン。
月をモチーフにしたデザインがあしらわれたそれは、落ち着いた雰囲気がありつつも可愛らしさもあり、姫子と沙紀の口からも「わぁ」と快哉の声を零す。
春希はシャープペンを大事そうに胸に両手で抱えながら、少し気恥ずかしそうに説明する。
「今年はさ、特別な1年になった。かつて月野瀬に居た隼人やひめちゃんと再会して、月野瀬に行って沙紀ちゃんと知り合って、ボクの世界が一変した。だから記念に何か残しておきたいって思っちゃって……クリスマスはそれにかこつけてな感じ。あと隼人は原付、ひめちゃんと沙紀ちゃんはこれで高校受験頑張ってねって思いを込めて」
「春希」「はるちゃん」「春希さん……」
プレゼント自体は些細なものだ。だけど、このサプライズはじんと胸を熱くさせた。
どうやら自分でも思っている以上に嬉しいらしい。
すると同時に、こちらは何も返ものがなく、申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「ありがとう春希。でも俺、何も……」
こんなことなら先日、一輝が言ったように何かプレゼントを用意すべきだったと申し訳ない気持ちが襲う。
しかし春希あっけらかんとした調子で手を振って答える。
「いいのいいの。ボクが好きでやったことだし」
「けど春希……」
それでもなお納得しかねる様子の隼人に、春希が眉を寄せることしばし。ややあって何か思いついたとばかりにポンと手を合わせ、悪戯が思いついたかのように謳う。
「じゃ、〝貸し〟1つってことで」
隼人は意外な返しに目を瞬かせつつ、参ったなとばかりに頭をガリガリと掻き、笑って言葉を返した。
「そっか、わかった」
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