331.クリスマスパーティー②開催
ケーキや料理を作っているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。
冬至も間近な12月の太陽は、駆け足で西空へと落ちていき、今日は雲が分厚いということもあり、夕闇の侵食も早い。
夕食にはまだ早い午後4時前。
「「「「「メリークリスマス!」」」」」
三岳家の縁側に面した二間続きの和室に、皆の弾んだ声と共に軽快なクラッカー音が響く。
合わせて14畳ある和室も、9人も入れば手狭に感じる。ローテーブルが2つくっつけられ、その上にはローストチキンが入ったダッチオーブンを中心に鶏肉と野菜の串焼き、魚介のパエリアにイタリアンサラダが並ぶ。他にもお寿司とピザがあったりするが、それらはご近所の奄美夫妻たちがおつまみとして宅配で頼んだおすそ分けだ。彼らは彼らで隣のリビングで酒盛りをしており、こちらにまで笑いが聞こえてきている。
そんな中、春希がせかすような声を上げた。
「ねね、隼人、早くローストチキン切り分けてよ!」
他の皆もまずはメインのローストチキンに注目しており、他の料理に手を付けず、期待の籠った目を向けてきている。
こうも楽しみにされると、作った方としてもつい口角が上がるというもの。
隼人は少々芝居がかった調子で大仰にダッチオーブンの蓋を取る。すると湯気と共に姿を現す、見事な焼き色のついたローストチキン。隼人としても満足のいく出来栄えにほくそ笑む。周囲からも「「「わぁ!」」」と驚きと興奮の声が上がる。
皆の期待の籠った視線で見守られる中、ローストチキンを切り分けていく隼人。
まずは場所を提供してくれたみなもから時計回りにお皿を回していく。皆に行き渡ったところで誰からともなくいただきますの声が上がり、クリスマスパーティーが始まった。
早速とばかりにローストチキンを口に運んだ姫子と春希が歓声を上げる。
「わ、お肉ほろほろ! おにぃまた腕上げた……んぐっ!?」
「これ、お腹の中に入ってたお米がやばいくらい美味しいんだけど!」
最近は大人びたと思っていた姫子も、食べることに夢中になって喉を詰まらせる姿に苦笑い隼人。
その傍ら、柚朱が不格好な形の野菜をまじまじと見つめながら愉快そうに呟く。
「なかなかにユニークな形の野菜ね。でもこういう手作り感も悪くないわ」
「その野菜とか、歪になっている串焼きとか、全部一輝作だぜ」
「い、伊織くん!?」「あらあら」
そこへ伊織が一輝作だと茶化すようにいえば、たちまち周囲から笑い声が上がる。
ちなみに柚朱はお嬢様然とした見た目同様、生まれも育ちもいいらしく、綺麗な所作で食べる姿が皆の視線を集めていた。隼人も思わず感心したほどだ。柚本人は思わぬところで注目を浴びて、照れたりも。
そんな風に料理に舌鼓を打ちつつ、おしゃべりも弾む。
お昼時に集まってごはんも食べず準備をしていたこともあり、少し多いかなと思っていたお皿もみるみる空になっていく。
やがて粗方料理もなくなった頃、ケーキを食べる前の腹ごなしということで、余興をすることに。
まず最初に行われたのは、特定のカテゴリーに絞った限定しりとり。
博識な春希がどのお題でもおしなべて強かった。しかしコスメ縛りでは恵麻に柚朱、ファッションでは姫子と姉の影響もあり一輝が、動植物だと田舎住まいの隼人に沙紀、それから意外とみなもも強く白熱していく。
続いて人数も多いこともあり、2組分混ぜたトランプをすることに。ダウトやブラックジャック、ポーカーといった読み合いのあるものは春希に一輝、柚朱が手札を読ませず手強く、柚朱と伊織がブラフが上手く場を掻き回していた。一方、大富豪やぶたのしっぽなど運が多用に絡むものは沙紀やみなもの引きがよさが、状況を面白い具合に二転三転させ大いに盛り上がる。
その後は誰もやったことがないからということで、ゲームマスターを持ち回りにして人狼ゲームをしてみることに。
こういう手合いのものは春希が得意だろうと思われていたが、初手から村人姫子のあてずっぽうで人狼を当ててしまったり、恵麻が意外と狡猾に周囲を欺くもののよく自爆したり、あからさますぎる反応のみなもがまさか本当に人狼だと思わず、最終的に勝っちゃったりして毎回誰もが予想のつかない展開になり、場も沸き立っていく。
そんな感じで何度目かのプレイの時。
最初の処刑で嫌疑をかけられ退場することになった狩人役の隼人は、部屋の隅へと移動する。すると最初の犠牲者となった一輝がおどけた調子で話しかけてきた。
「ようこそ、観客席へ」
「ま、見てるだけでも面白いよな」
軽口を叩き、互いに肩を竦めて苦笑い。
そして2人して皆がわいわいと楽し気に遊んでいる様子を眺め、目を細める。
するとふいに一輝が少し硬い声色で呟いた。
「去年の今頃の僕は、まさか今年のクリスマスはこんなにも賑やかになるだなんて、思いもよらなかったよ」
「俺もだよ。そもそも月野瀬を出るとは思ってもみなかった」
「思えば隼人くんの急な転校をきっかけに、色々と状況が一気に変わり始めたね」
「そう聞くと、まるで俺が元凶みたいだな」
少し唇を尖らせながら言葉を返す隼人。
すると一輝は目をぱちくりとさせ頬を緩め、おかしそうな声色を零す。
「そうだよ、すべて隼人くんが原因だ。隼人くんと出会ってから、僕をとりまく世界が変わっていった。それもいつだって、とんでもないスピードで。今日だってまさか柚朱がこの場に来るだなんて思いもよらなかった」
「そうだな。来年はここに佐藤愛梨もいるかもよ。あと一輝の姉さんも」
「うん、来年は今年とは違う光景が広がっているだろうね。きっと……いや、確実に」
「……一輝?」
急にしんみりとした、どこか怯えを含んだ硬い表情になる一輝。だけど、その瞳は確信の色に満ちていた。
隼人は訝しみ眉根を寄せ、まじまじと一輝を見やる。
一輝は柚朱と愛梨に告白され、他に好きに人がいるからと断ったことを思い返す。それでも彼女たちは諦めず、これまでより一輝の近くにいる。なんとも歪ともいえる状況だ。
きっと、一輝はこの状況を打破するために行動を起こすのだろう。そうすると確実に今の関係も変わってしまい、どうなるかわからない。
あぁ、なるほど。だからこそ恐れている。
隼人は大きなため息を吐き、バシンッと一輝の背中を強く叩く。
「痛ーっ、隼人くん……?」
「来年は色々今と変わってるだろうよ。すくなくとも姫子と沙紀さんは高校生になってるだろ。高倉先輩は一足先に推薦で進学先が決まっているかもしれないし、もしかしたら新しい友達が増えてるかもしれない。けど――俺と一輝が友達なのは変わらねーよ」
「――っ」
すると一輝は息を呑み、みるみる目を大きくし、そしてふにゃりと気が抜けたように笑う。そしておかしそうに肩を揺らして言う。
「ははっ、そうだね。その通りだ」
「……おぅ」
気障なことを言った自覚のある隼人は、ぶっきらぼうに相槌を打ち、顔を赤くしながらそっぽを向くのだった。
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