316.逃避行④こんなバカなことに付き合えるのなんて、ボクだけだからね!
駅前のロータリーから路線バスに揺られること約10分。長閑で静かな住宅街や学校を横目に坂を上っていくと、やがて緑の多い小高い丘へと入っていく。その中に、目当てのミュージアムがあった。尖った屋根が特徴的な、小洒落た感じの建物だ。
バスを降りて、まずは時刻表を確認。
ミュージアムに向かおうとしてすぐ、河原のように石が敷き詰められちょっとした岩があるエリアが目に入る。そこの看板に無視できない文字が書かれており、隼人と春希は思わず弾んだ声を重ねた。
「「化石採掘体験!?」」
すぐさま駆け寄り、まじまじと看板を食い入るように見やる隼人と春希。
「これ、ハンマー使って化石を探したりできるのか!」
「しかも発掘したのを持って帰れるんだって! ボク、アンモナイト見つけたい!」
「三葉虫も捨てがたいぞ、春希!」
「これはやるっきゃないね……って、あれ……」
「冬季閉鎖中…………」
せっかく化石採掘熱が高まっていくものの、冷や水を被せられ意気消沈してしまう。
残念そうなため息を吐きながら、顔を見合わせ苦笑い。
しかし春希は一転、愉快そうな声で話す。
「ま、こういうのも行き当たりばったりの醍醐味なのかもしれないね」
「ははっ、そうかもな」
気を取り直しミュージアムへ。
隼人は入り口で購入したチケットを見ながら、不思議そうに呟く。
「フォッサマグナ……?」
「ラテン語で大きな溝。恐竜とかいた時代、この辺は海の底だったみたいね。ヒスイも本来深いところで出来る鉱物なんだけど、地下から押し上げられて出てきたみたい」
「相変わらず詳しいな。そういやさっきの化石採掘例も、海の生き物ばかりだっけ」
「そゆこと。まぁそれはそれとして、昔この辺りが海の底とか想像つかないよね~」
そんな会話をしながら、ミュージアム内を順繰りに見て回っていく。
ミュージアムは平日の午前中ということもあり、ほぼ貸し切り状態。
まずは最初のエリアはこの地域を象徴するヒスイについての展示だった。この近隣で発見されたものやヒスイの歴史や、どう扱われてきたか興味深く記されており、思わず目から鱗が落ちる。春希も神妙な声で呟く。
「そういや勾玉って、古墳時代過ぎると姿を消すよねー」
次はのエリアはフォッサマグナを通じ、日本列島がどういう風に誕生したかが展示されていた。壁と床を使った巨大スクリーンに圧倒される。そして隼人は寝耳に水とばかりに言葉を零す。
「えっ、日本海って大昔は湖だったの!?」
意外な事実に驚きつつ、次のエリアは化石について。主に海洋生物の小さなものがほとんどで、派手さはないもののやはり興味深く、太古の時代に想いを馳せる。
そして最後の締めくくりは、フォッサマグナを名付けたナウマン博士について。
隼人はどこかで聞いたような名前に奇妙に引っかかりを覚え、顔を顰めていると、春希がニヤリとしながら囁いた。
「ナウマン博士はナウマンゾウの名付け親でもあるよ」
「え、そうなのか!?」
そんなこんなでバスの時間の関係もあり、少し駆け足気味で見て回った。
妙に慌ただしかったものの、どれも心惹かれるものも多く、大満足。
帰りのバスの中でも「近くの公園も気になった」「もっとゆっくり回りたかったね」と、ミュージアムについての話題で盛り上がる。
そして駅に戻ると同時に、2人のお腹がぐぅっと空腹を奏でた。
互いに気恥ずかしそうな顔をする隼人と春希。
駅構内の時計を確認すれば、お昼の時間もとうに過ぎている。
「隼人、お昼はどうしよっか?」
「さっきの物産センターには食べ物屋がなかったよな。うーん、ここまできてチェーン店ってのもちょっと」
「わかる、負けた気がする。じゃあ土産物の練り物とかオイル漬けとか、総菜系のやつでも買って食べる?」
「いや、せっかく海辺に来たんだし、どうせなら加工されているのより新鮮なものが食べたい。っていうか、絶対近くにアレがあると思うんだよなぁ」
「アレって何さ?」
「道の駅! とれたての海鮮を食べさせてくるはず……あ、すいませーん!」
「何その信頼……って、隼人ーっ!?」
丁度その時、駅前のSLを見ている家族連れを見つけた隼人は、手を上げながら話しかけに行く。春希はその行動力に驚きつつも、すぐさま後を追う。
幸いにして彼らから快く道の駅の場所を聞くことができた。
しかし隼人は難しい顔をしながら、腕を組んで唸る。
「むぅ、ここから車で15分くらいか。さすがに結構な距離だな……」
「少なくとも徒歩で行ける範囲じゃないね。諦めて土産物で済ませる?」
「いや、あれなら行けそうじゃね?」
隼人はニヤリと笑って、ある場所へ視線を促す。
それを見た春希は、まさかといった声を上げた。
「レンタサイクル……もしかして自転車借りて行く気!?」
「なぁに、車でその距離なら、頑張れば30分ちょいくらいで行けないかな?」
「いや、そうかもだけど!」
「あっはっは!」
「笑ってないで!」」
「めっちゃ腹を空かせて、最高に旨い海鮮丼でも食おうぜ!」
そんなちょっとコンビニに行こうといった軽いノリで誘う隼人に、春希は俯きわなわなと身体を震わせた後、顔を上げて諦め交じりの大声で叫んだ。
「もぉ! こんなバカなことに付き合えるのなんて、ボクだけだからね!」
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