270.文化祭⑧応援してるんだ……
姫子と沙紀は、一輝と愛梨をニコニコ笑顔で手を振りながら見送った後、その背中が見えなくなると顔を見合わせ「「きゃーっ!」」と黄色い声と互いの手を重ねて小躍りする。
それを見た隼人は神妙な顔で眉間に皺を刻む。
2人の言動を鑑みるに、明らかに一輝と愛梨の為に画策されたものだった。
その姫子はといえば大人っぽいキレイめなカジュアルの装いで、沙紀は普段の大人しいイメージに甘い可愛らしさをプラスされたもの。
一見いつもと同じスタイルだがしかし、明らかに垢抜け、洗練されていた。そう、愛梨のように。素材の良さをそのままに、1つ2つ上のレベルへと引き上げられている。
もし愛梨が2人をプロデュースしたとしたら、その手腕はさすがというしかない。
見慣れた妹とその親友であるものの、いつしか「ほぅ」とため息を吐くほど見入ってしまっていた。
思い返せば身内の贔屓目もあるかもしれないが、2人共あの世を賑わす人気モデル佐藤愛梨と並んでいても遜色がなく、今更ながらに胸が騒めく。
すると見つめる形になった隼人の視線に気付いた姫子が、にやりと笑みを浮かべてこちらにやってくる。
「どうよ、今日のあたしたち、いつもと違くない?」
「あ、あぁ、プロの見立てってすごいなって思ってた」
「もうお、おにぃってば言い方!」
隼人はいつもなら投げやりにでも褒めるところだが、不覚にも騒めいた心のうちを誤魔化すようにぶっきらぼうに答え、頭を掻きながら目を逸らす。
するとその視線の先に、ひょいっと沙紀が飛び込み、上目遣いで覗き込んできた。
「ふふっ、実際私たちもどうなってるのかわからず、プロってすごいってなってますけどね。それで、お兄さん、今日のこれどうです?」
「っ、あぁ、その、いい、と、思う」
「えへっ!」
最近とみに活発で積極的な沙紀のアピールと可愛らしさドキリと心臓が高鳴り、頬が熱くなるのがわかる。
その反応を見た沙紀は何度か目を
「と、ところでどうして佐藤さんと一緒に?」
「えぇっと、なんといいますか……」
「そりゃおにぃ決まってるじゃん、恋する乙女の応援だよ!」
「恋する乙女、ねぇ……彼女の為にこの場をセッティングしたと」
「その通り!」「えぇ、まぁ……」
愛梨とはあまり面識がないものの、一輝への態度を鑑みればもしやという思いがあり、一応は納得する隼人。それでも一体、どんな縁なのやら。
しかし余計なお世話では、と思わなかったとしたらウソになる。
ここ最近の一輝は確かに色々壁がなくなったとはいえ、恋愛がらみで色々あったのは確かなのだ。
隼人が少しばかり眉を顰めていると、ふいに沙紀がポツリと声を零す。
「思っているだけじゃ、何も変わりませんから」
「それは……」
「今を変えるには一歩踏み出さないと行けなくて。でもそれはとても勇気が要ることだから……だから私たちは、その背中を押す手伝いをしたんです」
「…………」
胸に手を当てそう言う沙紀の姿はまるで祈りにも似ていた。
だからそれは、それだけ愛梨を強く想っているということがよくわかり、眩しくも少しばかりどうしてか羨ましいと思ってしまい、隼人はズキリと騒めく胸にますます困った様に眉を寄せる。
「そっか。それなら……一輝が女装しているタイミングってのはどうなのやら」
「あら、きっと佐藤さんは見た目なんて気にしないと思いますよぅ」
「むしろあれだけ一輝さんが美人さんになっちゃってるから、愛梨ちゃんが変な扉を開かないかの方が心配かなー?」
姫子がそう軽口を叩けば、自然にあははと笑い声が上がる。
そこへ春希が色のない声をポツリと零した。
「ひめちゃん、海童とあの子の仲、応援してるんだ……」
「うんうん、愛梨ちゃんね、すっごく乙女なんだよーっ! ちょっと素直になれない言葉とか態度とか、もうね、すっごく推せる! 雑誌で見るより断然可愛い! 今日だってね、ここに来るまで変だって思われないかとか前の方がよかったかもとかオロオロしててさ、こりゃもう応援するしかないでしょーって感じで!」
「そ、そうなんだ……」
興奮気味で捲し立てる姫子に、頬を引き攣らせたじろぐ春希。
ふいに春希の表情にやけに複雑で苦々しいものを感じたものの、それも一瞬のこと。
隼人が深く考えるよりも早く、春希は少々芝居がかった声で指差し叫んだ。
「あ、見てひめちゃん、ロシアンたこ焼きだよ! 激辛激甘、はたまた両方かだって!」
「え、なにそれ気になる!」
「お腹空いてきたよね!」
「うん、食べに行こうよ!」
ものの見事に春希の手のひらで転がされる姫子。すぐさま反応し、列に並ぼうと急かす。
相変わらずそのあたりがチョロい妹の姿に、隼人は頬を緩めながら「ったく」と呟けば、ふいに沙紀に手を引かれた。
「私も朝から何も食べてなくてぺこぺこです。行きましょっ!」
「……っ、あぁ!」
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