153.私にできること


 外は轟々と雨粒を運び暴風が吹き荒れていた。

 台風は玄関を開けただけだというのに沙紀の足元を濡らす。

 だというのにそんな中、春希は躊躇いもなく駆け出していく。

 あっという間に背中が見えなくなる。

 立ち尽くし、まごついてるだけの沙紀とは違う。


 自分も追いかけないと――そんな対抗意識からくる焦りに駆られている中、ふいに握りしめられたままだったスマホからの声に我に返る。


『沙紀ちゃぁん……』

「っ!」


 ふぅ~っと大きな息を吐き、色んなものを吐き出し、気持ちを切り替えていく。


 脳裏に過ぎったのは初めて姫子に話しかけた時、言葉と表情を失ったひめこ・・・の顔。


 沙紀自身、己がとろくさい自覚がある。

 たとえこのまま春希を追いかけたとしても、何も出来ないだろう。足手まといになるだけだ。

 ぎゅっと、スマホを握りしめなおす。


「姫ちゃん、色々教えて? まず、お兄さんがどうしたの?」

『た、倒れて、声をかけても起きなくて……っ』

「そう……どこで倒れたの?」

『ろ、廊下、うつ伏せで……』

「いつ、見つけたの?」

『ついさっき、雨の中帰ってきて、着替えるって言って洗面所に向かって、しばらくしてドサッて音が聞こえてきてそれでっ』

「……呼吸は?」

『…………荒くて苦しそう』

「熱は?」

『すっごく熱い』

「そう、わかった……ちょっと待っててね、姫ちゃん。なんとかするから」

『う、うんっ』


 台風の前、先ほどの子猫騒動のことを思い返す。

 きっと、つい先ほどまで畑で何かしらの対策をしていたのだろう。

 そして隼人は頑張り過ぎて、熱を出した。

 あぁ、まったくもってお兄さん・・・・らしい。


 通話を切ったスマホで、必要と思われるものを検索していく。


「解熱剤はうちで常備してるよね……冷却シートにスポーツ飲料、ゼリーも冷蔵庫にあったはず……お母さ~んっ!」


 誰よりも早く駆け付けて、何かできるわけじゃない。

 自分が無力なことを知っている。

 だけど何かが出来るはず。

 そう、力が足りなければ、誰かに借りればいい。

 今までの様に、見ているだけはダメなのだ。手を伸ばさないと。



 沙紀は必死に自分なりに自分の出来ることを考えるのだった。

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