135.アウトドアレジャー


 朝食後、食器の片づけを済ませてお茶を飲みながら一息吐いていると、突如春希が「はい!」とばかりに手を上げた。


「川に行こう」

「川?」

「うん、川に行って魚捕まえに行こうよ。ほら、これ!」

「それは……いつの間に作ったんだ」

「沙紀ちゃんで昨日のうちに?」

「虫捕りだけじゃなかったのか……」


 そして春希がどこからともなく取り出したのは、隼人も昔よく作った2リットル入りペットボトルで作られた魚捕りの仕掛け。

 ペットボトルの蓋の部分を切り取って逆さまにして取り付けなおし、中へ入るのは簡単だけど出るのは難しくした、お手製のいわゆるセルビンいわれる仕掛けだ。

 もちろん、中に魚を誘い寄せる餌の匂いが拡散するよう、いくつかの穴を空けている。


「エサ団子も、作った!」

「心太まで」


 ちゃっかり自分の分の仕掛けを持った心太も、鼻息荒くしながら春希の隣にやってきてハイタッチなんかしている。

 その期待に満ちた姿を見せられれば否とは答えにくい。

 視線が合った沙紀も苦笑いをしている。


「ん~~~~、はるちゃんたちは川かぁ……じゃ、うちらはどうしよっか、沙紀ちゃん?」

「ふぇ?」


 その時、姫子が伸びをしながら欠伸混じりにそんな言葉を零す。

 話の水を向けられた沙紀は、えっ、とばかりに目をぱちくりさせる。

 そして春希は不思議そうな声色で姫子に言葉を返す。


「あれ、ひめちゃんたち来ないの?」

「川ってあれでしょ、昔おにぃとよく遊んでたところでしょ? 近くに木陰ないし、暑いだろうし、日に焼けちゃうだろうし、まぁ心太くんもはるちゃんだけじゃなくておにぃもいるから大丈夫だよね、沙紀ちゃん?」

「え、いやその……」


 姫子は露骨に嫌そうな顔で行きたくない理由を上げていく。

 沙紀はどうしたものかと視線を姫子と春希の間を彷徨わせる。

 心太はといえば既に興味は川なのか、仕掛けとエサのチェックを入念にしているのみ。

 するとその様子を目にした春希は、姫子に向かって肩をすくめながら両手を軽く上げ、そしてふぅっと大きなため息を吐き、やれやれといった様子で首を振った。


「わかってないね、ひめちゃんは」

「は? どういうこと、はるちゃん?」


 あからさまな挑発に、姫子はムッと眉をひそめる。

 そして春希はより一層残念そうな表情を作り、姫子を煽るかのような声色で告げる。


「アウトドアレジャー」

「っ!?」

「そう、ボクたちは今から赴くのは都会に居ては絶対体験できない、アウトドアレジャーなんだよ?」

「っ!? え、いやでも……」

「ひめちゃん、身近過ぎて気付いてないのかなぁ? 別に罠を仕掛けて魚を捕まえるだけが川でのアクティビティじゃないでしょ?」

「そっ、そうだけど……」

「渓流を楽しむキャニオニングにシャワークライミング、ちょっと山の方にまでいけば深いところでダイブも出来るよね? ほかにもフィッシングレジャーで釣り上げたイワナやヤマメでバーベキューなんて、都会の人が憧れるエモさがあるだろうなぁ」

「きゃ、きゃにおにんぐにしゃわーくらいみんぐ、憧れにエモい!? ……うん、確かに休み明けに何をしたかの話のネタになるかな……ね、ね、沙紀ちゃん!?」

「あ、あはは……」


 姫子はキャニオニング等という聞き慣れない単語と、自慢やエモさがどうのという言葉を聞いて、途端に目を輝かせてそわそわしだす。

 同意を求められた沙紀は、親友の手のひら返しな態度に乾いた笑みを零しつつも、いつものことだと言いたげなしょうがないなという声色も滲ませていた。

 そして春希はドヤ顔で片目を瞑り、グッと親指を立てる。

 隼人はガリガリと頭を掻き、ジト目で呟く。


「それ、沢の方で岩場に上ったり飛び込んだり、釣りをするだけだろ……」


 するとそれを聞いた春希は、茶目っ気たっぷりにチラリとピンクの舌先を見せるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る