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105.淡い青
ある暑い夏休みの日。
その日は珍しく姫子は朝早くから起きており、隼人はファッションショーを見せられていた。
「おにぃ、これはどう?」
「あーその、いいんじゃないか?」
「ってもぅ、さっきも同じこと言ったじゃない!」
「と言われてもな……」
隼人はげんなりとした口調で応える。
目の前でくるりと身を翻した姫子の恰好は、白のVネックのインナーに、水色のキャミワンピースを合わせたものだ。その前に見せたのが黒のピシっとしたTシャツに黒のスキニーパンツ、そのさらに前が肩を大きくあらわにした白のオフショルダーのトップスにワイドパンツ。
どれもがキレイめのカジュアルといった様相で、スラリとした姫子を大人っぽく演出したもので良く似合っている。街を歩けばきっと、道を行く人の視線を奪うことだろう。
だが隼人にとってそんな姫子はただの実妹である。どれも似たような傾向なので何とも言えないし、それが3回目となっては辟易してしまうのも無理からぬことだった。
「まぁまぁひめちゃん、隼人だよ? 気の利いた台詞を期待する方が間違ってるって」
「むぅ、確かに。おにぃだもんね」
「……お前らな」
そう言って春希があははと笑いながら、姫子の部屋から顔を出す。
姫子と一緒に服を悩んでいたようだが、隼人は「2人して選んだんなら俺に聞くなよ」と心の中で悪態吐いてしまう。
「それで隼人、一応聞くけどボクの方はどうかな?」
今度は春希が見て見てとばかりにアピールしてくる。
インナーの黒のタンクトップがよくわかるシースルーのロゴ入りシャツにキャスケット帽。そこだけ見れば月野瀬に居た頃を髣髴とさせるボーイッシュな恰好だが、その下はフリルを重ねた甘めのミニのティアードスカートだ。
その少年の活発さと少女の可愛らしさが同居した奇妙なアンバランスさが、なんとも
そして春希がくるりと身を翻した瞬間、ふわりと丈の短いスカートが舞い、足の付け根にある淡いブルーのものが見えそうになって――隼人は慌ててそっぽを向いた。
「あーその、いいんじゃないか?」
先ほどの
そのことを知ってか知らずか、春希は肩を竦め苦笑い。だがその視線を受けた姫子はジト目だった。
「ほらね、ひめちゃん。隼人はこう――」
「いやはるちゃん、今のおにぃのそれ、ぱんつ見えちゃったからだと思うよ?」
「――み゛ゃっ!?」
春希は慌ててスカートの裾を押さえながらぺたんと床に座り込む。
「いくらおにぃでも、そんな夏っぽく爽やかで可愛いの見せられたら……ね?」
「…………ノーコメントで」
「うぅぅ~っ」
春希が涙目で2人の顔を伺えば、呆れた様子の姫子と耳を赤く染めながらガリガリと頭を掻く隼人の姿が目に入る。その気遣いがより羞恥に拍車をかける。
「あー、時間大丈夫か? 伊佐美と待ち合わせしてるんだろ?」
「そ、そそそそうだね! んじゃボクたち行ってくるね!」
「わ、結構いい時間。行こ、はるちゃん」
「……気を付けてな」
隼人の助け舟にこれ幸いと便乗した春希は、姫子を連れ立って家を飛び出していく。
そんな2人の背中を見送った隼人は、はぁ、わざと大きなため息を吐くのだった。
「ったく、春希……すぐ見えてしまいそうになるような短いの穿くなよな。もし――」
――もし、他の奴に見られたらどうすんだ。
その独占欲からくる嫉妬混じりの言葉を飲み込み、それを誤魔化すようにガリガリと頭を掻いた。
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