61.先約です!
朝、春希とそんなことがあったものの、その後はいつも通りの様相だった。
若干、クラスメイトに過剰にいじられているような気がするが、最近はそんな傾向なので、特に気にするようなものでもないだろう。もしかしたら、最近いじられてばかりなので、その八つ当たりだったのかもしれない。
昼休み。
秘密基地に向かおうとしていたら、またも海童一輝が隼人を訪ねてきた。
「やぁ、霧島くん。お昼はどうする?」
「俺は別にお前と……って、いきなり陣取るなくつろぐな」
「まぁまぁそう言うなよ、霧島」
彼に続いて森もやって来て、隼人は2人に囲まれる形となる。
2人ともニシシと悪だくみをするかのような笑みを浮かべ、隼人を逃すつもりはないらしい。
(何で海童は俺に構ってくるんだ……)
どうしたわけか、隼人は彼に気に入られてしまったらしい。
ちなみに以前と違って、他の男子や女子がやってくる気配は無い。
『はは、霧島くんとは男同士の話がしたいからさ、女の子は遠慮してほしいな』
それが先日、海童一輝がお願いした言葉だった。
それによって女子は離れていき、またそれを目当てにしていた男子達は当てが外れたとばかりに遠のいた。現金なものだ。
彼女持ちの森だけが、依然として面白がって来ているというわけである。
何故、彼が隼人を気に入ったのかはわからない。
知り合った切っ掛けからして、あまり良いとは言えない印象のハズだ。
(それにこいつ、春希のことが――なんだよな……)
噂を思い出す。そのことを思うと、隼人の顔は苦虫をかみつぶしたような顔になる。
それをどう解釈したのか、森と海童一輝は顔を見合わせて、からかうように隼人に話しかけてきた。
「もしかして霧島くんは、女子が居たほうが良かったのかい?」
「はは、それがな海童、霧島には既に気になるお相手がいるみたいなんだ」
「へぇ、誰だい? 知ってる人?」
「二階堂さんの幼馴染の娘でさ」
「おい、森っ――」
隼人はややこしそうな話をしそうになる森を必死に止めようとする。
ただでさえ、海童一輝はよく目立つ。必然、注目も集まってしまっているのだ。周囲の反応は気になってしまう。
その中でも特に気になったのは、春希のことだった。
先日もお昼を抜け出せず、
(あとで文句言われても困るしな)
そう思って隼人は立ち上がり、森と海童一輝に断りを入れようとした時のことだった。
「悪ぃ、今日は俺――」
「私と約束があるんですよね?」
「――へ?」
突如、いつも以上にニコニコした春希が隼人達の間に割って入いた。
「へぇ、そうなんだ二階堂さん」
「そうなんです、海童くん」
「ちょっ、おい!」
春希はそれだけじゃなく、強引に隼人の腕を引く。
周囲からしてみれば奇妙な光景である。ただでさえ目立つ2人だというのに、視線を集めてしまうのは当然だ。
だが春希と海童一輝は、そんな周囲の目など気にしたことかと、隼人を挟んでにこにこと睨みあう。
「どれくらいで終わるのかな? ここで待たせてもらっていい?」
「けっこうな量がありそうなので、他を当たった方が良いかと」
「へぇ、それなら僕も手伝った方がいいかな、霧島くん?」
「それには及びません。手狭な場所だし人数がいれば良いってものじゃないですよね、霧島くん?」
「え? いやそれは……」
そしていきなり隼人の方に水を向けられて、狼狽えてしまう。
当然だ。噂の渦中の二階堂春希と海童一輝が、まるで霧島隼人を取り合っているかのような状況なのだ。
一体どうしてこうなってしまったのかわからないし、皆の興味を引くなと言う方が難しい。
(ぎ、擬態はどうしたんだよ?!)
隼人はそんな春希に困惑してしまう。
どういうことかと春希を見てみるも、不敵な、そしてどこか怒っているかのような瞳を返されるのみ。
海童一輝はそんな彼女の姿が、心底可笑しいとばかりに肩を震わせ、それを見た春希は、ムスッとした表情に変える。
「ほら、行きましょ霧島くん。手伝ってくれますよね?」
「え? あ、あぁ……」
もう話すことは無いと言わんばかりに、ぐいぐいと手を引かれて教室を後にする。
もちろん、図書準備室の整理の話なんて初耳だ。
教室を出る際に振り返る。
呆気にとられる森と、笑いを堪える海童一輝の顔が見えた。
「あーらら、フラれちゃったか」
そんな海童一輝の呟きとともに、教室は喧騒に包まれる。
「……どうやって化け猫を退治したのか気になるよね」
そして彼の呟いた言葉は、周囲の声によって掻き消されるのだった。
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