とある受験生の

「12月15日


今日はすごくドキドキして走りまくる日だった。

それから、今年初めての雪が降った。

受験の日も雪が降ってるかもしれないけど、その時は雪が自分を応援してくれてると思おう。」


ーーパタン

私は"生活の記録"と書かれたノートを閉じる。

これを書くと急に真面目になった気がするんだよね、昔から。


この日記を書くのももうすぐ終わりかぁ。


中学生活が、もうすぐ終わる。

そうだな、とりあえず受験が終わったら、空でも見ながらゆっくり過ごそうか。





私は、寺田真央。ただ今絶賛ピンチだ。

というか人生で一番の危機に直面している。

まあつまるところ受験生なのだ。受験生にとって受験は15年間の生のなかで最大の悪イベントといっても過言ではない。

よって今日もいそいそと塾に通い、さっさと家に退散、いや帰宅するところである。


「あーもう勉強したくないっ!」

「そんなこと言いなさんな。みじめになるだけだわ」


冷静につっこんでくるのは神崎夏希なつきさん。私の塾友達なんだけど、もう頭良すぎて尊敬。思わずさん付けしてしまうくらい。

なぜ塾に来るんだろうとか思わなくもない。


「いやいや夏希もそう思わない?もう毎日知識詰め込むだけ!頭痛くなるーー!」

「私は今までに覚えてきたからねぇ。あんたと違って?」

「あーあー流石ですよっ。どうせ、私と違ってー」

「そうそう、授業中寝てスリッパ飛ばした伝説のお方とは違うのだ」

「ひっ!?そっ、それをどこで・・・」


学校違うはずなのになんで知ってんのさ!


「いや塾ですごく有名人よ真央。

授業で爆睡し先生に当てられて、びっくりしすぎてスリッパ吹っ飛んだ伝説」

しかも黒板に当たったんだってー、ってケラケラ笑う夏希。


「いや事実だけど、ほんとにそのまんま伝わってるのがショックでかい」

「いやあんたがしでかした事実のほうがショックでかいわ、私。もちろん笑いの方で」

「うわー損害賠償100万円だわー」

「じゃあ保険入ろ」

「やっぱ心配してくれるわけではないの、うっ」


突然しっ、黙って、と口を押さえてくる夏希。


なに、どした?

なんか、・・・さっきからストーカーっぽいやつがいるわ。

ん?ストーカー?

ずっと、ついてきてる。あやしいヤツ。


ここまでを視線のやりとりだけで行う私たち。


「走るわよっ!!」

「あっ、夏希、私を置いてくなぁー!」





ーーー

5分くらい全力で走った私たち。

「はぁっ・・・はあー・・・」

いきなりの全力疾走はきっつい。最近の運動不足がよくわかるわぁ。


「で、ストーカーは?いなくなってる?」

というか私、ほぼ何も知らずに走った感じになってる。

「うん、パッと見た限りでは、いなさそうね・・・。でも油断は禁物。今日はさっさと家に帰ること」

「了解、さすがにこれは出歩く気にならない。

あ、真央、そのストーカーの特徴何か覚えてる?帰りに見かけたら、また逃げないと」

「そうね、暗かったしあまり見てなかったけど、黒っぽい服で、手に赤い何かを持ってたわ。布、みたいな?」

「赤ねぇ。・・・まさか血とか?」

「ちょっと、やめてよ縁起でもない。想像したら終わりよそんなの」

なんか肌寒い。空を見上げると、ちょうど雪が降ってきていた。

とにかく早く家に帰ろう、とさっさと解散することにした。





幸い、夏希と別れたのはわたしの家の近くだった。

もうゆっくり歩く気分にもならなかったのでまた走って帰ろう。そうすれば、5分とかからないはず。


雪が冷たい。もう手がジンジンする。でも喉が熱いのを我慢しながら全力で走る。


あ、家が見えてきたっ!ゴールが近い、ラストスパートをっ


っと思ったけど、玄関に誰かいるな。

さすがにこのまま駆け込むわけにはいかないか。

ふう。



ーーートントン。

「ひいいぃっ!!?」


急に肩を叩かれた。気が抜けてただけに驚き方が自分でもやばいと分かる。

もうガクガクする体をどうにか押さえつつ、後ろを振り返るーー


「えっ?」ススッ。

一言。ーーー黒い。


「いや、どうして後ろに下がっていくんです?私、そんなひどいですかね」

さっきも驚かせてしまったならごめんなさい、と謝る男の人。


あれ、なんか優しそう?

よくよく見たら手は赤くない。


「あっこちらこそすみません。人違いだったようで」

「そっか?あ、それで、これ。落としたよ」

そう言って渡されたのはカバンに付けていた夏希とお揃いのストラップだった。

「ありがとうございます!」

「どういたしまして。落とし物には気をつけてね。

じゃあ」


そう言って去っていった。

なんだ、普通にいい人だったじゃん。心配して損した。




そして家に着いた時、私を待っていたのは、


こんどこそ、黒くて、手に赤いモノを持った男だった。


ストーカー男おぉ!!

はっ、なんでこいつがここにいるわけ!?

ここ私の家!しかもお母さんと話してるし!

なんか楽しそうだし!!


意味わからん、と頭がパンクしそうになったところで、男は失礼します、と家を出ていく。


「お母さん!?今の人っ、なんだったの!!」


「あんた何をそんなに慌てているの。あの方、あんたが塾に忘れたマフラー届けてくれた先生じゃない。こんどお礼言っときなさいよ」


・・・はっ?それだけ?おわり?


じゃああれは"ストーカー"じゃなくてただの親切な先生?

赤って、私のマフラーかいっ!

ってか、塾の先生を2人して知らないってなんなのさ。確かに人数多いけど!


「ふっ、あははっ」


急に笑いが込み上げてきた。だってもう、私たち何やってんのって。


まあ、一安心かな。こんな私にストーカーなんてつくわけないしね。

明日、夏希に伝えよーっと。それで、思いっきり笑ってやろう。




夕飯を終えて、結局勉強するしかない受験生。

もはや現実逃避のように外をみる。


ああ、雪だ。そういえば走ってる間もずっと降ってた。今日が初雪の日になるのか。

今見ると、雪って安心するな。静かで、なんて言うか、心が落ち着く感じ。

さっきはビビりすぎてこれから不吉なことが起きるぞーっていうサインにしか見えなかった。


その時の気持ちによって、こんなに変わるんだな。


そうだなあ、外めっちゃ暗いし、空ってなんだっていうレベルで見えないけど。


これはこれで、好きかもしれない。この景色。

空が、降って来る雪が、頑張れって私たちを応援してる、そんな気がする。


さーて、あと3ヶ月ちょっと。

頑張りますか。

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きっかけの夜空。 桜乃 ソラ @Ciel-sorairo

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