とある小学生の

「あの日、お母さんと一緒に星を探したこと。

それが、僕の一番の思い出です」


今日は授業参観。よくある作文の発表で、よくあるテーマ"家族との思い出"で。


でも、あの日は、"よくある"日常の中で、ちょっと違っていた。






それは僕がまだ保育園に行ってたころ。

お母さんは、忙しい人だった。


朝早く起きて朝ごはんを作ってくれる。いつも一緒に寝てくれる。それに、めったに怒らない優しいお母さんだ。


お父さんは海外?にいるらしい。何をしているのかは知らない。とにかく家にいる日は少なくて、だからお母さんは1人で家でも働いてて。

大丈夫だよって笑って言ってるけど、本当は僕が寝た後もずっと起きていることを知っているから。


当たり前のようにある目の下のクマを化粧で隠していることを知ったから。


お母さん、大丈夫?

また聞きそうになったけど、きっと笑って大丈夫だよ、って言うんだろうなって。

なんとなく、言わないほうがいい気がした。


ほら、今日も。

お母さんは、まだ寝てない。






次の日。


「じゃあ、よろしくお願いします」

「はい。ほら、せいやくんも。ママにいってらっしゃいって」

保育園の中から、お母さんが礼をして去っていくのを見送る。

先生と僕が手を振るのも、いつもの光景だ。



その後、いつもならお絵かきの時間になるんだけど、今日は違うみたい。


「はい、みんな、今日は本物の宇宙飛行士さんが来てくれました!宇宙のお話を聞かせてくれるそうですよー。さあ、ごあいさつしましょう!」

「「「こんにちはー!!」」」


そういえば、ここには月に一度、この保育園を卒園した人が来て、僕たちに何かおもしろい話をしてくれるんだった。


「はい、こんにちは。宇宙飛行士の草野雄一です。突然だけどお話の前にひとつ。みんなは、宇宙ってどんなものだと思う?」


すぐに教室はガヤガヤしだす。

 

 えっとー、すっごく、広いとこ!

 お星さまがいっぱいあるよ!

 そらは青いから、青いんじゃない?

 ちがうよ、暗いんだ!真っ暗!


みんな思い思いに答えていく中で、


「そうだね。確かにすごく広いし、星もある。それはもう、今見えていない所にも、たくさん。

みんなは自分の答えを持ってるみたいだから、これは、僕の答え。

僕は、宇宙って宝箱みたいだなって思うんだ」



そう始まった話は、宇宙をまったく想像したことがない僕にとって、すごく興味深かった。

おじさんの話し方が面白かったのもあるんだろうけど。


家に帰ったら、お母さんにも話したいな。

いつのまにか、僕は草野さんの話す宇宙に引き込まれていた。




それから。

いつもより早く保育園に迎えに来たお母さんは、急いでいた。

急におじさんがたおれた、僕も一緒に病院に行こうって。

これじゃ、宇宙の話はできない・・・





それでも結局、病院であったおじさんは、元気そうだった。


「おお、せいや、大きうなったな!」


そう言って豪快に笑ってるのを見て、お母さんはホッとしていた。


「せっかく来てくれたんだ、今日はもう暗いし、家に泊まってきなさい」

そうおばさんが言うので、僕たちはおばさんの家に向かった。




おばさんの家の周りは建物が少なくて、星がよく見えそうな場所だった。

ーー今まで何回か来たことあったのに。気づかないものだなぁ。


「ねえ、お母さん」

「ん?どうしたの?」

ここなら、お母さんは仕事をしなくていいんじゃないか。僕の話を聞く余裕があるかもしれない。

そう思って切り出す。


「今日、宇宙飛行士さんが来てね。

宇宙の話が面白かったんだっ」

たぶん僕がすごく楽しそうだからなのだろう、お母さんも笑っていた。

つくりものじゃない、自然とでたような。


「どんな話だったの?」

「えっとね、宇宙の、知らないこと、いろいろ教えてくれたんだけど、

一番覚えてるのは、宇宙が宝箱だっていってたこと!」

お母さんが聞いてくれてる、ただそれだけで嬉しい。



宇宙にはたくさんの人の夢がつまっていて。たくさんの人が宇宙に行って。何かすごいものがあるかもしれないし、何もないかもしれないけど。

でも、宇宙は広いから。

きっと何かあるんだって信じて進んでいく。その途中でおきたこと、出会った人もまた、宝物なんだって。


あの時聞いたことを言うのは早口になってしまう。

すごく、面白かったんだもん。

「だから僕は、いつか宇宙飛行士になる!」


「ふふっ、そっか。楽しい話だったのね。」

少しびっくりしながらも、そういってくれたから。


「うん、とっても!

でもお母さんと話してる今が一番楽しい!!」

僕が笑顔で言うのを見て、お母さんはハッとしたような顔をした。


「そうね。・・・私も、星夜せいやと話すの楽しいわ。

そうだ、星夜って名前。あなたが生まれた時は夜空がとてもきれいでね、そうなふうに輝いて生きてほしいって、そう思ってお父さんと付けたの。

だから、宇宙飛行士になるって、お母さんびっくりしちゃった。名前にぴったりね!」


「そうだったんだ」


なんか、胸が温かくなる感じ。

久しぶりにお母さんとこんなに話した。


ふと、空を見上げる。

ひときわ明るい星が、輝いていた。

「あっ、一番星、見ーつけたっ!」


ひとつ見つかると、次々に見えて来る星たち。


それから、お母さんと2人で星を探した。

夜空にはたくさんの星が光っていて、


それは、本当に宝探しのようだった。

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