第19話 魔法使いによる殺人事件

ある日、私が街を歩いていた時。




 そうですね、リルさんに私好みの本を読ませてあげたくて、書店に出かけた日、確かうだるような暑さでした。




「おい、まただ」




「これで何回目だ⋯⋯」




 人々の深刻そうな声色で話す声が聞こえ、興味本位にその場に赴きました。




 どうされましたか?なんて気軽に知らない方に聞けないので、耳を済ませて人々の声を盗み聞きします。




「絶対、魔法使いの奴等がやったんだよ」




「だろうな、無差別か」




 中々に物騒な会話ですね。魔法使いというとカムさんや郵便配達の方達ですね。ならば尚更気になります。




「魔法使いの奴等、人間を弄びやがって」




「魔法なんて、なければいいのに」




 魔法使いをまるで人間では無いかのような口ぶりで非難する人間たち。アナタたちの生活は郵便だけではなくかなり色々な所で魔法に助けられている節があると思うんですがとつい口を挟みたくなってしまいます。




 気になって仕方がないので勇気をだして話しかけることにしました。




 チョンチョンと体格のいい男性の腕をつついて振り返ってもらいます。




「なんだ、お嬢ちゃん」




「あの、会話を盗み聞きしてたんですが、何かあったんですか?」




 会話を盗み聞きしてたと言われ、不信感を顔に出す男性。ああ、成長したと思ったのにやっぱり私コミュ障かもです。




「そうだな、最近殺人事件が横行している」




「そうですか、この街も物騒ですね」




 誘拐事件があったばかりではと溜息を付いてしまいそうです。都会なだけに事件も多いのでしょう。




「それで、魔法使いがどうのというのは⋯⋯」




「ああ、ここ最近の一連の事件はな、魔法使いによるものだ」




「それは、何を根拠に?」




「簡単な話だ。死体は発見時に、全身火傷を負っていたり、感電死だったり、氷漬けにされていたり、これでは魔法使いがやったと犯行を自供しているようなものだからな」




 なるほど、確かにそれはそういう発想になっても仕方が無いですね。にしても氷漬けは露骨過ぎます。




「魔法使いの奴等め⋯⋯」




「待ってください、奴等という事は複数犯なんですか?」




「あ、いやそういう訳ではないが⋯⋯」




 あ。彼の顔を見て直ぐに察しました。魔法使い全体に偏見の目を向けている事に。そしてこの事件で他の魔法使いが肩身の狭い思いをしなくてはならない事も。




「魔法使いは、貴方が思っている程みんながみんな自分の力を悪用したりはしませんよ」




「それもそうだが」




 彼の顔と言葉は一致していないので言っても無駄ですね。個人的にこれ以上彼と話す気にもなれません。




「ありがとうございました」




 一礼をして、その場から去ります。何だかカムさん達のことを言われているようで、正直むしゃくしゃしてしまいます。




 いけませんね、友達の少ない天使はすぐに周りの事を言われるとカッとなってしまいます。




「ああ、ムカつきました」




「落ち着いてレミリエルさん⋯⋯」




 家に帰った私をなだめてくれるのは吸血鬼のハーフ、リルさん。普段怒りを顕にすることが無い私に不安そうな目で見つめてきます。




「ごめんなさい。もう大丈夫ですよ」




「でも、そういう偏見の目が魔法使いさん達に向けられるのが嫌ならレミリエルさん、その犯人捕まえちゃえば」




「簡単に言いますね⋯⋯。それに犯人を捕まえても、犯人が本当に魔法使いだったらイメージ下がったままですよ」




 私の反論にリルさんは「うう、難しい」と頭を抱えています。天使としてもこの治安の悪さを放っておく訳にもいかないので、何か良い打開策が出ればいいのですが。




「いっそ、放っておくとか?」




「私が天使じゃなければ多分そうしていました」




「てことは?」




「仕方が無いので解決に当たります。もう事件の事聞いちゃいましたし」




「レミリエルさん、やっぱり優しい」




 勘違いされているようですが、使命が無かったら率先して人助けに当たる事なんてないですから。




「レミリエルさんは天使じゃなくてもとっても優しいと思うよ?」




 え、心読まれたんでしょうか。変に買いかぶられていますね。




「そんな事ない、とか思ったよね。全部顔に出てるよ」




「えぇ、顔に出したつもりは無かったんですけど」




「さっき怒ってた時も凄く顔に出てたよ。ひと目でわかった、嫌な事あったんだなって」




 あぁ、それも顔に出ていたんですね。これからは気を付けないと。ババ抜きでも極めましょうか。




「もし犯人が魔法使いなら、他の魔法使いに聞いたら何か分かるんじゃない?」




「それです」




 恐らくこの事件は私が知らなかっただけでそこそこ今世間を賑わせているはずです。今魔法使いが偏見の目を向けられている事は、きっとカムさんたちの耳に入っています。




 今夜、配達の時にカムさんに聞いてみるとしましょう。




「ああ、その事なら私も知ってるよ。正直こっちからしたら迷惑な事件だよね」




「いや、そうでしょうね⋯⋯」




「道行く人に石を投げられる生活になるのかな⋯⋯やだ⋯⋯」




「いや、そこまではならないと思うので安心してください」




 カムさんは今回の事件を快く思っていないようで、魔法使いが偏見の目で見られることを恐れています。




 どうにかならないでしょうか。いや、どうにかしましょう。




「カムさん、少しいいですか?」




「ん、なに?」




「私と一緒にこの事件、解決してみませんか?」




「えぇ、解決ってそんな簡単に言わないでよ」




「できますよ。捜査に加えてもらえればいいじゃないですか」




 何を突拍子もない事を、というカムさんの顔を見て私も納得します。我ながら突拍子もない事を言ったなと。ただ、事件解決の立役者が魔法使いになることで、善良な魔法使いもいる事をカトリの街中に知らしめることができます。




「やるのか、やらないのかどっちですか?」




「できるなら、やりたい」




「決まりですね」




「でも捜査に加えてもらうって交渉できるの?レミリエルさん人見知りなのに」




「交渉はカムさんに任せます」




「え」




 私とカムさんの共同事件解決計画、スタートです。


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引きこもり天使の救済奇譚 しゃる @sharu09

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