第11話 友人認定はどこで取得できますか
生徒会へ進捗状況を報告したあと、莟は姿を見せない
(とめき先輩ってば報告も出さずにどこで油売ってるんだろ。連絡もつかないし)
早歩きで校内を探し回る。夏場とはいえ日が暮れてきた。靴はあったからまだ学園内にはいるはずなのだが。
この学園は校舎がいくつもあるから人探しは大変だ。あてどもなく探し回り、遠く窓越しにそれらしき体格と髪型の人物を見つける。曲がり角まで近づくと本当に十瑪岐のようだった。
「あっ、とめ──」
「ねぇ~いいでしょう? ゆっくりお話ししようよ」
「!?」
キンキンとした女性の声がして思わず曲がり角に隠れる。十瑪岐はなぜか、胸元のはだけた女生徒二人に密着されていた。
「ウチも前から十瑪岐君のこと気になってたんだよね~。仲良くしよう、ね?」
腕に胸を押し付けられ、十瑪岐が満更でもない表情で頷く。
「いいぜえ? 連絡先交換しよっかあ。けど今日は用事あるし、もう遅いからさあ、お話はまたこんど……な?」
十瑪岐は甘やかに囁いて、不意打ちに赤面した女生徒二人を押し出した。二人は後ろ髪を引かれるように振り返り振り返りしながら去っていく。
笑顔で見送る十瑪岐を、莟は煮えたぎるような不快感のまま睨みつけた。
「とめき先輩……」
角から顔だけだして呼びかける。思ったより低い声が出た。
振り返った十瑪岐の肩が跳ねる。
「おわっ、ビックリしたあ! お前いたのかよっ、つかなんでそんな黒いオーラ出してんのお?」
「先輩が女子に鼻の下伸ばしてるからです」
「いやしてねえよ演技だよ。あれオレから情報引き出しに来た黒団の刺客だからなあ?」
「だとしても! なんか表情が優しかったし。美人で可愛くておっぱい大きい女子に囲まれてデレデレしてたでしょ!」
「なに
「んにょまっ?!」
「それに
「ぬぐ…………お世辞で誤魔化されはしませんが鳴乍先輩のが美人なのすごく同意です」
「だろお? 日頃から極上素材に囲まれてんのに今更あんなのになびくかよ。まあ理由はともかく、ちやほやされんのは気持ちいいがなあ!」
「先輩ってほんと
角から出て十瑪岐に並ぶ。背の高い彼を見上げると、十瑪岐は不機嫌に眉をひそめて舌打ちした。
「今から行くとこだったんだよ。…………それより莟さんよお、ちょいと聞きたいことがあんだけどなあ」
「はい?」
何だろうと首を傾げる。十瑪岐はそんな莟にずいと顔を近づけ、瞳を覗き込むように見つめてきた。その目は普段向けられるものと違い、どこか
「お前、オレと知り合うより前から
一段と低い声でそう問いただされる。初めて向けられた暗い視線に、背筋を冷たいものが走っていくのを感じる。莟は素直にうなずいた。
「は、はい。とめき先輩のおとうさんとお話した時にご一緒でしたから。狛左先輩とは何度か会ってます」
「えっ、そんなあっさり認めるぅ?」
「? そういえば話したことなかったですかね。拾った名札を頼りに
公園で名札を掲げて
そう説明すると、十瑪岐が
「それ……話していいことなのかあ? オレとか
「おとうさんとは世間話したり愚痴を聞いたりするので、とめき先輩たちのことも話題になりますが、駄目でした? いちおう話す内容は選んでるつもりですが。ラインの履歴見ます?」
「葛和グループのトップとライン交換してんのお前!? どんなコネ持ちだてめえ!」
「あわわわわわ。揺らさないでくださいいいい」
スマホを差し出すと驚愕の表情で肩を掴まれガクガク揺さぶられる。本気で驚いているようだ。
そのびっくりもようやく喉元を過ぎたようで、十瑪岐は空気の抜けたバルーンドールのように脱力してその場にへたりこんだ。
「だぁっはああああああ~……。なんだよお。いっきに気ぃ抜けたあ。お前のこと
「監視? なんですそれ。先輩たちってそんなに親子関係冷え切ってるんですか。息子たちとなかなか会えないって相談はされたことありますけど」
「なに話してんのお前ら。いや、あの人仕事ばっかでほとんど会ってねえから実はよく分かんねえ。でもオレが生まれのこといつかどっかに洩らすんじゃねえかって神経質になってんのは確かだからなあ。見張りくらい置くだろ。オレの邪魔しに」
「邪魔とか、おとうさんはしないと思いますけど。むしろ応援してくれるんじゃないですか?」
「なんで実の息子より知ってる風の空気で話すのお?」
「私が知ってるのは会話してて感じたおとうさん像なので。実際どうかなんて知りませんよ。ほら、そろそろ立ってください」
手を差しだすと十瑪岐は仕方ないという態度で手を取ったので、そのまま引っ張って立ち上がらせた。
「というより、意外です。他人を疑ってるなら先輩はもっと裏で陰湿に行動するものとばかり。わたしにはこんな直球で訊いてくるなんて。どうしてですか?」
そこが自分の中のイメージと合わず、莟は違和感のまま問いかける。すると十瑪岐は急に口をもにょもにょと動かした。
「それは──……ぅぐっ。……互いに友人と認知し合ってる相手はお前が初めてだからな。オレの周囲は身内か、あるいは利用するだけの間柄だけだあ。お前はそういうんじゃねえから。だから莟には、あんまこそこそしたくなかった」
昔の不出来な失敗を順を追って説明させられているみたいな、複雑な羞恥心に捕まった不機嫌な口調で十瑪岐が呟く。
そういう感情で話すことに慣れていないのか、まるで怒っているみたいに顔を赤くしている。
はっきりとしない十瑪岐の様子は珍しいものだったが、莟は別の部分が引っかかっていた。
「はじめて……。わたし、先輩の初めての相手なんですか!?」
「言い方あっ!」
「ちゃんと友人認定されてたの嬉しいです。こっ、これはもう、いっそのこともっと! 親友関係なんて目指して突っ走ってもいいのでは!」
「はっ、はあ!? なんだそれっ。おい嬉しそうにすんな、なんだそのムカつくニヤニヤ顔は! やめろお! なんか無性に恥ずかしくなっちゃうだろうがあっ!」
「ご安心を。わたしもなんか恥ずかしいです。でもどうせなら行けるとこまで行きましょう! レッツ友好! ゲット親友です!」
「ぐいぐい来んなちょっと下がれ! ~~~~っ、友人と親友の違いはなんだ。基準を語れ」
話はそれからだと指さされる。莟は自信満々に答えた。
「親友は友人のさらに先ですよ」
「だからその客観的な基準をだなあ。何をどうやったら友達が親友にジョブチェンジすんだよ」
「関係の変化を客観的に? そういう特別は居たことないのでわたしもよく分かりませんが……。そうですね、ええっと、うんと、……恋人が籍を入れて夫婦になるように、友人も籍を入れて親友に………………あれ?」
「どんな関係だろうと籍を入れたら夫婦だなあ。いったん落ち着け? 親友っつうのはもっと対等な関係じゃねえの。というか莟よ、嫌ってる相手と親友でいいのかあ?」
十瑪岐がすねたように唇を尖らせた。莟はああ、と手を叩く。
「それ勘違いでした。嫌いじゃないです。ごめんなさい」
「はあっ? 勘違い? なんだよそれえ。悩みまくったオレの眠れぬ昼を返せっ」
「ちゃんと起きて授業受けれて偉いですね」
てきとうに褒めて文句を流す。
(そういえば、『互いに友人』って……鳴乍先輩は?)
言葉のニュアンスに引っかかりを覚える。十瑪岐は鳴乍とも友人のはずだ。少なくと鳴乍は友達になりたいと彼に申し出て、十瑪岐は了承したはずだった。あれは嘘だったのか。
そんな疑問が形を取り始めたとき、ちょうど校内のスピーカーから木琴の音が聞こえ始めた。最終下校時間のチャイムだ。これ以上校内に残るには、特別に申請を出さねばならない。
「もう帰らないとですね。一日仕事で終わっちゃいました。あのテロ予告の犯人もぜんぜん調べれてないし」
ため息をこぼす莟へ、十瑪岐はあっさり告げた。
「ああ、テロの犯人なあ。あれならもう目星ついたぜえ」
「えっ!?」
思わず見返す。
◇ ◆ ◇
友人だ親友だとはしゃぐ莟を見て、改めて思う。
(初恋と思いたい誰かの正体がオレみたいなクズ野郎だなんて、あんまりだよなあ……)
友人を大事に思うほどその考えは降り積もっていく。
初恋は綺麗なほうがいい。
いつまでも大切に抱きしめていられる思い出であってほしい。
(オレが恩人だってのは、話さねえほうがいいはずだ)
正体が
だが
自分がそうだと明かして、莟をがっかりさせるのが辛い。どう足掻いても落胆される未来しか見えない。だから、
(黙っていよう。あんまコイツのこと、傷つけたくねえし)
目をそらす。事実を知っていながら隠す。それが自分なりの優しさだと言い訳しながら、本当に傷つけたくないのは自分自身だと半ば理解していてまぶたを閉じた。
【四周目フィニッシュ
五周目へ】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます