第7話 気づいたからには義務が生じる
それならと
学園には、予約を取ると貸し切りで使用できる勉強部屋や会議室がいくつかある。その中のどれかだとは思うのだが。
「ありゃあ、挙動不審な奴がいる……」
校舎の影へ人目を忍ぶように進んでいく生徒を見つけ、つい他人の弱みを探すクセが出て足がそっちに向く。十瑪岐は窓越しに様子を覗いた。
艶の消えた長い黒髪の後ろ姿がまず目に入る。女生徒は誰かと話をしているようだが、角度が悪くて相手を確認できない。視界に入らないギリギリまで移動すると、黒髪少女の横顔が見えた。
「こおんなところで密会してる怪しい奴は……げえっ、
相も変わらずおどろおどろしい空気を放っているのは、新聞部部長の
ゴシップ記事を好み学園一の情報通としても知られている。他人を食い物にするという点で十瑪岐と
「……と、あれは
怜が立ち位置を変えてようやく対話の相手が見えた。赤毛はもとより、あの可愛らしい顔立ちをいっきに人相悪くする鋭い視線は間違いなく
いや、彼女が幸滉から離れる理由など知れている。それは、幸滉のために行動するときだ。
十瑪岐は二人が話し終わったらしきタイミングを見計らって窓を開けた。
「よおっす
そう軽く手を挙げると、
「…………ちっ、十瑪岐か。視界に入るな喋りかけるな」
「うっはあ、あからさまに嫌そうにしてえ。可愛いお顔が台無しだぜえ? 酷いと思いません
「あやぁ……十瑪岐君。これは……奇遇やね。会えて嬉しいわ。相変わらず仲が……ええんやね二人は」
「それほどでもお」
「良くありません。険悪です。認識を改めていただきたい」
「はは、怖」
不機嫌な椎衣に、十瑪岐は質問を投げかけた。
「ねえ
「何の用か知らないが、キサマに教えると思うかゴミめ。お会いしたくばせいぜい自分の足を棒にして探し回るのだな」
心底苛立たしげな声で吐き捨て、
十瑪岐は取り残された
「すげねえですよねえ。にしても
「まあ……ご
「だったらあの情報の速さも納得だあ。
「それは……知らんな。あの子に
「…………あ?」
思い返せば、
では、あの資料の情報の出所はどこだ?
「まさか
「そやね。自分はそんな
「学園内に居て、芹尾先輩頼らずにあんだけの速さで資料が作れるってどういうことだあ?」
少なくとも一人では不可能だろう。あの日の
「なんや評価されとるのは……嬉しいことやね。十瑪岐君から褒められるのは十倍嬉しいわ」
「芹尾先輩も考えてくださいよお。先輩以上の情報源って学内にいますう?」
「そら……自慢じゃないけど、
「確かに、それなら筋が通るが」
よく考えればおかしいことはずっと目の前にあった。ストーカーから取り返した莟の私物を、
他人の顔をあまり覚えない莟が、初めから
十瑪岐ですら何度か気づかれずに目の前を素通りされかけたというのに。
十瑪岐よりも接触が少ないはずの椎衣をしっかり認識していたということは、二人は元から交友関係があったのではないか。
だが椎衣は、幸滉に調査を依頼されて初めて莟を認識したかのような態度をとっていた。もし莟を知っているのに知らないふりをしたとすれば、虚偽を働くのはどういうわけか。
それに知人というだけであれほど他人の事情を根掘り葉掘り調べるものだろうか。十瑪岐の見立てが正しければ、
だとすれば誰かに指示されて行った調査だと考えねばおかしい。
(なあんか引っかかるなあ。幸滉に訊いてみっか……)
彼の指示だったなら何も問題はない。十瑪岐の違和感も丸く収まる。
だがもし違ったなら、そのときは──。
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