第28話 答えは目の前にある
窃盗事件を解決させ数日が過ぎた昼休み。珍しく
「
「…………」
床につっぷす男の
「…………いちおう聞くけれど、なにがあったの?」
「全然話す暇がねえんだよお! あんにゃろ朝も昼も放課後も部活三昧! 休み時間もオレのこと避けてるみたいで逃げられて捕まらん。ラインは全部既読無視だし電話も出ねえ。部活終わりを狙って校門で待ち伏せてたのに真横をランナー走りで駆け抜けてったときは普通に泣いたぞ!」
この男、ガチ泣きである。
こうも情けない姿を無防備に晒されると体がむずむずして口元がほころびそうになっていけない。
「……つうわけで、どうにかしてえ」
「彼女はスポーツ特待生なのだから、部活に打ち込むのは良いことよ? それに
「こんな目障りな存在そうそう無視できねえだろおがよお!?」
「自負が悲しいのよ」
交際終了以降、初めての
「どうして
「あんな嫌な顔一つせずジュース買いに走るような便利な暴力装置他には──いや違うんですそんな目で見るなやりなおさせてえ! んんっ、ああー……。なんつうか楽なんだよあいつ。利害関係が明白だし、反発がいちいち素直で直球で分かりやすいだろお。なにより、雑な扱いされて愛想笑い返すんじゃなく、同じように雑な扱いで返してくる奴、わりと少ねえんだよ。だから気に入ってんの」
「
「それはねえよお」
ないのか、と少しだけ残念に思いながら、
「莟ちゃんの恩人の話、どう思ってる? 初恋かもって言ってたよね」
話に聞く恩人の価値観は、
手すりに寄りかかって
「あいつの態度、初恋かもしれねえ相手にとるもんじゃねえ」
「…………」
否定できなかった。
「オレが考えるに、あいつ恋を知りたいだけで、恋をしたいわけじゃないんじゃねえかなあ」
「……どういう?」
意味を掴みかねて問い返す。
「あいつ初恋もまだなんだってよお。どころか恋愛関連への感受性が死んでるっぽい。知らないものを知りたい……なんて単純な好奇心だけじゃあなさそうだ。おおかた周囲と温度差感じてんだろお。その差を埋めるために恋の感情を理解したいが、現状恋なんてできそうにない。だから、自分の中で一番、恋に近かった瞬間──恩人と会ったときの気持ちを丁寧に紐解いて、目の前に広げようとしてんだ。そのために恩人を探してる。そういうことだろお? 本人が自分の行動そこまで言語化できてるかは疑問だけどな」
「
「意外とってなんだあ。有能な指揮官ってのは手駒の状態は正しく把握しとくもんだろお?」
心外そうに文句をつけて、ふいに遠い目をする。
「どうせ知るなら、恋は綺麗なほうがいいよなあ」
「…………。
頷く代わりに問いかけると、
「
「?」
「…………」
「別にい。太陽にでも焼かれたんじゃねえの」
◇ ◆ ◇
「というわけで
部活中にやって来た
そんなこんなで陸上部の女子更衣室に二人だけである。
「別に喧嘩したわけでは……」
「じゃあ、どうして
「それは……」
口ごもってしまう。理由は明白。
「彼が嫌なら嫌とはっきり言っていいのよ?」
「もちろん嫌なら嫌とはっきり言ってますよ」
それが受理されているかと言えば否であるが、少なくとも
だから
「……
「そうでもないですよ。陸上部でだって、全員と仲良いかって言われると違いますし」
「そうなの? 意外ね。スポーツ特待生ならちやほやされそうだけど」
「スポーツ特待生だから、ですよ。最初から特別扱いですから、人によっては目の上のたん
力なく笑むと、
緊張していると、
「困ったことがあったら遠慮なく相談して。
「
感じる暖かさに
苦笑する
「前も言ったけれど、そうでもないのよ? こう見えて根っこの部分は
「
「存在が……」
「けどそうなんだったら、
「………………ぐっ、直球」
「どうしたんですか!?」
「ううん、貴女を可愛がる
「わたし可愛がられてるんです?」
「どこからどう見ても」
「だったらなおさら、わたしがとめき先輩とよくやれてるのは、とめき先輩がわたしを受け入れてくれるからです。だから、とめき先輩が望まないならわたしは傍にいられない……」
「
「あ、ですよね」
冷静に考えたら、そもそも
「いろいろわたしの勘違いでした。あとでごめんねライン入れます」
ご心配をおかけしました、と頭を下げる。
不思議とすっきりした気分でスポーツドリンクに手を伸ばす。
顔を向けると、美人な先輩は目頭に複雑な色を立ち表せて、端正な顔を硬くしていた。
「思ったのだけど、
「え……?」
なぜか、思考が真っ白になった。理由は
いろんな感情があふれて、固めようとした端から崩れ、それで想いまでまっさらになってしまう、あの感覚。
言葉が出てこない。
これが、
クラスメイトだって、家族だって、近所のお姉さん相手にだって
だが
今まで当たり前に他人へ当て
では
(わたし自身は、
結局その日、答えは出せなかった。
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