3周目 クズとクズ男を愛する少年
第27話 こんな容易くゆれるのは
「連続下着窃盗事件についての報告は以上です、
「うむ、ご苦労だったのだな。
「やっぱあのサイト、手えだせねえすか」
横で
「ざっと調べさせたが、顧客の業が深すぎるのな。早急な対応は難しいだろう。今回は存在が知れただけ御の字なのだよ。
「んで生徒会長、報酬のほうはどおなってますかねえ」
揉み手で顔をにやけさせる
「あたしから差し出すのは、生徒会長として当面の無条件協力なのだよ。今回のように証拠を固めてくれる必要もない。最初から、君の望む形で助力を与えよう」
それは破格の申し出だった。生徒会長の権力で動かせる諸々を、
だからこそ、それほど大きな見返りを与えられる意味が意識に引っかかる。
「……そりゃあどデカいリターンですけどお、それってつまり何か起きるってことですよねえ。去年に匹敵するような面倒がまた────まて」
夢から覚めた老人のように眉間にしわを作る。無意識なのか横髪をかき上げイヤーカフスを指で弄り始めた。
「考えてみりゃ最初からおかしい。生徒会の手足たる執行部員の手が足りねえってのはどういうことだ。体育祭はまだ先、しばらくでけえイベントはない。例年通りなら落ち着いてなきゃいけねえ時期だ。しかもんな忙しいときに、あんな些事に生徒会役員の一人をわざわざオレごときに付けるう? ありえねえ」
思考の先を手繰り寄せるように言葉をこぼし続けた。
かと思えば唐突に盲目の眼が色を得たように表情を硬くする。どうやら解を得たようだ。
「見張られてたのはオレ。いや違うオレはエサかあ?」
視線が生徒会長へ向かう。
「何を釣ろうとしてたか、分かるのかね?」
「こんだけ動きがでかいのに何も噂が出回ってねえ。情報統制がえげつねえってこと。あんたがそこまで警戒するってこたあ、……
「正解なのだよ
奥歯を噛みしめ表情を硬くする
「どういうことですか。
「あたしの口からは何も言えないのだよ。そういう契約だものな」
言って
「
至極簡潔な説明だった。
だが彼の語る事情はあまりに
顔も整っていたことから、特に女生徒からは狂信的な支持を得ていたほどだった。とはいえ生徒との距離感をわきまえている男だったからか、女絡みの悪い噂は皆無だったはずだ。
困惑して生徒会長を仰ぎ見ても同じ笑みを返されるのみ。
「では、
「十中八九オレへの復讐だろうなあ」
「学園と被害者連中には接近禁止命令出させたろ。警察役に立たねえ。マジに本人だったんすかあ? そっくりさんでなく」
「さてね。だが目撃証言がある以上、無視はできないのだよ。防衛にはいつだって脅威に見合わないほど膨大な金と手間がかかるものだ。被害にあった……特に肉体関係にあった女生徒には厳重な監視体制を敷いている。気づかれぬようするのも大変なのだ」
「どうして女生徒たちへ警戒するよう伝えないのですか?」
当然の疑問を投げかける。答えたのは
「そりゃあ、本人たちは騙されたことなんざ知らねえからだよ。
口ぶりからして意図的にそう認識を操作していると分かる。なぜ被害者へ加害者の真実を語らないのか。いや、そもそも……
「どうして自分が悪く言われるようなことを」
「これがオレと会長との取引だからだ。そこは今どおでもいいだろお? 大事なのは現状だあ。つまり、女子共が
◇ ◆ ◇
──気安い奴ってうざそうに言ってたから
耳に入った音を頭で理解するのに数秒を要した。結果が出力される前に鼓動が早まり、反比例するかのように体温が抜けていく。
「ちょ…………ちょっととめき先輩を問い詰めてきます」
「な、なに、言ってる、の!?」
「大丈夫です。あの男なら最悪殴れば自白します」
「なに言ってるの!?」
腕を掴まれ足を止める。弱弱しい制止だったが、
「だって、そりゃ最初はわたしから近づきましたけど、最近はむしろとめき先輩のほうから来てくれるし、わたし頑張ってすごく役に立ってるはずなのに。仲良くなれたと思ってたのに。そんな言いぐさってないでしょうっ」
「だか、だからって、直談判は、ちょっと」
「だって、こういうの
思わず座り込みそうになる。壁に身体を預けると、自分が思っているよりも震えていることに気づいた。
「誰がどう言ってたとか又聞きばかりでもやもやして、関係がこじれて取り返しのつかないことになりそうで。訊くの怖いけどっ、でも訊かないままじゃ疑心暗鬼ばっかでぐるぐるぐるぐる前に進めない。どんどん自分を嫌いになっちゃう」
小学校での失敗が頭をよぎる。
思い返せばあのときも、本人に確かめるのが怖くて曖昧な態度ばかり取っていた。それが余計に事態を悪化させていたように思う。
どうせ確かめる勇気なんてないのなら、嫌われているなら仕方ないと、さっさと諦めてしまえばよかったのだ。
一つ嫌な思い出が浮上すると芋づる式に他の記憶も思い出される。止めたくても止められない
このままだとネガティブモードがオンになる。
「すみません
「う、うん……。僕のき、聞き間違え、かもだから。あ、あんまり気に、しないで」
「はい」
迷惑をかける前に一人になろうと、
メッセージが一件届いているのを見て、
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