第19話 他人の傷口は宝石箱
広さはあるはずなのに刷ったばかりの紙の匂いが終始漂っているような部屋だった。
机の上には数台のパソコンと印刷機。ホワイトボードには隠し撮りらしき人物写真たちが複雑な関係図を描いていた。わら半紙の箱が足元の隙間を縫うように積み上げられている。
放課後になったばかりの、新聞部の部室だった。
机を挟まず対面に置かれたパイプ椅子には、今日の主役がふんぞり返っている。
「さあ、どんな質問でも来やがれ!」
「両手に用心棒付けとらんかったら……格好いいセリフやね」
偉そうに笑う
「まさか学園の規律……生徒会役員と……学園一の暴力装置を連れて来るとは……思わんかったわ」
「ちょっ、みんなしてわたしの認識なんなんですか!?」
予想外の扱いに
「やって君、中学時代に近所の高校生ヤンキー全員ボコって
「ななななんっ、なんであの二週間の黒歴史を知ってるんですか!? 当時を知ってる連中には全員口止めしてるはずなのにっ」
「ゴシップ系記者の取材力なめたらあかんよ~?」
詰め寄る
「
「人の弱みを見つけたからってそんな輝かしい目をしないでください。いつもの濁った汚い瞳に戻って!」
「ところで、当時の物的証拠は残してねえだろうなあ?」
「当たり前です。その他映像、音声、写真含め、個人の証言以外の言い逃れができない証拠は残らず消してます。残ってたらこんな良い学園入れてません」
「かわいい顔して実はオレの同類だなお前。良い手際だあ。よし!」
「よしじゃないからね
賞賛する
それに
「あうっ、生徒会役員……」
「安心して莟ちゃん。告げ口したりしないから。それに生徒会は生徒の味方よ」
「なっ、
絶望顔が安堵の涙へ変わったところで、
「ほんなら改めまして取材始めよか。インタビュアーは自分……
紹介され、おさげの少女が軽く頭を下げる。
「ども」
「んで……後ろでそわそわしとるボーイ含め……残りは新聞部員な。全員口硬いさかい、安心しい」
「はっ。口の堅さなんかどうでもいいぜえ。驚くようなネタがあるわけねえしなあ」
「おっ……言うたな。もしヤバいネタ出たら『
「相変わらず人を
「円盤買うたから知っとるわ。まあ……これが君の知りたいこととの交換条件ってとこは……覚えておいて欲しいわ」
ふぅと息を吐き、束ねたポニテを指ではじく。メガネの奥の瞳が真剣なものに変貌する。それだけで雰囲気が変わった。幽鬼じみた悪寒から底知れぬ薄暗き
「んじゃ最初はジャブ……事実確認から行こか。
世間話みたいな口調で浴びせられた重たい話題に後ろで
「ねえなあ。その事故が無理心中じゃねえかとか訊かねえのお先輩?」
「ふん、散々うわさのネタになって擦り切れた話なんてわざわざ聞かんわ。んで君は母親の兄……
ボールペンの頭で
「父親の親類から身元引受人の話はぎょうさん出とった。なのに、名乗り上げもせんかった
「そりゃ、裕福なほうが人生楽になるからなあ。
当たり前のように答える
「本当かいな。葛和宅の元使用人が言うには、君の母親が訪ねてきたときは必ず人払いされてたそうやないの。たまたま部屋の前を通りかかったときには、口論と怒鳴り声が聞こえたとか。君のお母さんと、
「おかげで寝起きに
「余裕やなあ君。あーもしかして、心中にもそのあたりの確執が関わってたり?」
「それ言ってた下世話な元使用人の名前あとで教えてえ
「
他者の心をえぐるのを趣味にしているような、意地の悪い囁き。見ているだけで心臓が痛くなる響きを
「オレのこと買いかぶりすぎですよお
挑発的に言ってべえっと舌を出す。答えを待って息を止めていたらしい
「はぁ……。はぐらかすの上手いな。そないな良いこと言われたら追及できへんわ。でも……ちょっとくらい明かしてもらわんと適当な記事しか書けへんねん」
「好きにやればいいじゃないですかあ。オレは誰になんと思われようと気にならねえし。捏造して面白おかしく記事にするのがアンタらだろお?」
「誤解も
まあすぐ教えて貰えるなんて思ってないわ。そっちは追々調べていくさかい。じゃあ次の質問やな」
「去年の
部室の空気がさらに重くなるのを感じた。
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