第15話 身につけた布の使いみち
「やっぱり下着泥棒の犯人は不審者でしょうか。具体的にどうやって探すんです? 監視カメラをチェックさせてもらうとか?」
「そういう線は生徒会が真っ先に潰してんだろお。じゃねえとオレのとこまで案件回ってこねえよ」
「あ、そっか」
「
「気が遠くなりますね……」
「現行犯が一番楽なんだがなあ。どうにか
「絶対にごめんです。百歩譲って先輩のパンツでならいいですよ」
「それで出てくる奴たぶん
そもそも目標物を振り回して相手が出てくるなら苦労はしない。こういう窃盗犯は徹底的にバレないように逃げるのだから。生徒会が手をこまねいている以上、そんなものに引っかかる阿呆ではないはずだ。
「というかこれ、どこに向かってるんですか?」
「付き合わせた駄賃にお前の水着を買ってやろうと思ってなあ。もうちょいでプールの授業が始まるだろお?」
「もうそんな時期でしたね。スク水の購入案内とか来ないんで不思議に思ってましたけど、学内で買えたんですか。ていうか自分で買いますよ。そこまで貧乏じゃありません」
「なあに、これから犯人探しに付き合わせる前払いだ。今後もキリキリ働いてもらうからなあ」
「別にそんなのいいのに」
「金の切れ目が縁の切れ目っつうだろお? オレにとっての友だ──人付き合いってのは貸し借り清算しあって続いてくもんなんだよ。昨日アホ共
「なるほど、カツアゲ成功して気分がいいんですね」
「その通りい! 十分な根回しもせずに同級生イジメちゃってる政治家の息子がいたからさあ、ちょうっとオレが証拠突きつけて脅し──んんっ、交渉してえ、そいつらが互いに納得する形に大・団・円っ。オレ双方からの手数料ゲットでホクホク」
「口止め料と謝礼を要求したんですね。観察してたときから思ってましたけど、先輩って意外といじめっ子とかを狙いますよね。やっぱり負い目がある相手は弱み握りやすくて訴えられたりしないからです?」
「それもあるしそれが理由だがなあ。口封じ楽だし。そこが分かるとはお前もなかなかひねくれてるじゃねえか」
「わたしは思いついても実行しませんもん」
「思いつきはするんだな。それにほら、自分は
「うわぁ、汚いお金が天下を回ってきた」
「金の大半は汚染されてんだよ」
「てかなあ、水着売り場に行くのも調査の一環だ。実際に買い物してたほうが不自然じゃねえだろお」
「どういうことです?」
どうやらまだ生徒会の資料に目を通し終わっていないらしい
「のわっ」
「ひゃっ」
「くふふっやっと追いついた。なんの話してるの?」
二人で振り返ると、ぶつかってきた張本人が
その笑みが目に
「なんの話ってそりゃあ、お前のパンツ何色って話」
「えっ、そういえば覚えてないなぁ。ちょっと待っててね〜」
「確認しようとしなくていいんですよ
後ろを向いて自分のスカートの中を覗こうとする
「じょ……冗談だっつうのお。首絞まっ死ぬぅ」
「白だったよー」
「
「ぎょべっ」
邪魔だと言わんばかりに突き飛ばされて難を逃れた。盛大に咳をして喉の調子を整える。そして先ほどの情報を脳内で反復した。
「しかし白ねえ。都合がいいなあ」
口に出ていた。
「…………とめき先輩」
「いや待て
階段を上って講堂に出る。普段はがらんとした空間が、今はカラフルな色合いに染め上げられていた。
人一人が通るほどの隙間を開けて並んだネットスタンドに丁寧にかけられた色彩豊かな水着の数々。表には白いマネキンたちがディスプレイされ際どい布面積を知らしめる。
商業施設で見慣れたその窮屈な様相はまさしく──
「夏場のデパートだこれ! なんですこの品揃え!?」
学内に突然現れた光景に
初等部から在籍している
「驚くだろお? この時期は現役高校生相手のマーケティングも兼ねて提携会社が何社か商品卸してんだよ」
「え、この水着で授業受けていいんですかハレンチ」
マネキンが着ているのはスクール水着などではない、ビキニだ。困惑した
「スク水はデザイン性が単一で着たくないと昔の生徒が駄々こねた結果、学内でこうして販売許可を得た水着ならと校則が変わったのよ。もともと
見渡せば、数名の生徒たちが水着を選んでいた。みな当たり前の顔で商品を手に取っている。
奥では試着もやっているようだ。女生徒たちが際どい水着を身にまとって楽し気にはしゃいでいる。その様子は普通の女子高生と同じだ。こういうところは親の収入くらいで変わるものではないらしい。
そんな様子を
「先輩、おっぱいばかり見すぎです」
少年の視線を追って、
だが少女の
「あのなあ、普段着でだって、スカートから伸びる足とかはだけた胸元とか、地肌出てるとこばっか見てたら変態だろお?」
「まぁそれはそうですね」
「だったら布地で隠れてるとこに目を向けるしかねえじゃねえか」
「確かに?」
「なら水着んときは布で隠れてる胸とケツを見てるほうがよほど紳士ってもんだろお」
「本当です! 先輩は無実です!」
「騙されないで
「はっ、確かに。偏屈な人ってどうしてこう
「男心が分かってねえなあ」
「んじゃまあ予算はこれくらいな、好きなの選べ。オレも適当に見てくらあ」
そう言い残して商品棚の間に消えていった。
「先輩も自分の水着を選びにいったんでしょうか」
「もしくは
「は、はい」
普段は誰かと遊びに出かけたりせず自主連ばかりしている
「それでね、
同じ笑みを浮かべながらも、その眉根はちょっぴり下がっている。
その表情を見て
(そっか。元恋人がたった数週間でもう新しい女と仲良くしてたら複雑な気分にもなるのかも)
見当違いの得心をした
「いえ、仲が良いというより気を使わなくていい相手という感じですね。純粋な利害関係で成り立ってます。今はパシリの身分でして。わたしもそろそろ友達にランクアップしたいんですが」
「そ、そうなんだ。まさか
「あと可能性は低いですが、
「えっ? どういうこと!?」
「うわっ、圧が強っ」
この後、説明と弁明に時間がかかった。
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